
強気な Paul が見せた弱さ ― You Won’t See Me
あの強気な Paul McCartney が、珍しく弱さをのぞかせた一曲と言えるでしょうか? 全編にわたって、どこか自信を失ったような語り口が続きます。歌詞を追いながら聴いていると、強がりでは隠しきれない心の痛みが、胸の奥へじわりと広がってきます。
Jane Asher とのすれ違いを歌ったものと思われますが、ここまであの強気な Paul が追い詰められていることを考えると、当時の Jane Asher が、Paul にとっていかに大きな存在だったのかが伝わってきます。普段ならば自信に満ちた言葉で押し切ってしまいそうな Paul が、ここでは相手の気持ちを確かめることさえできず、ただ不安を抱えながら彼女を待っているのです。
心の痛みを生々しく描くといえば、やはり John Lennon のイメージが強いでしょう。しかし、普段はどこか達観した強さを感じさせる Paul が、ここではその弱さを隠そうともせず歌っている。それだけに、かえって切迫した響きが生まれているように感じられます。
では、そんな普段とは少し違う Paul の姿を、歌詞から見ていきましょう。
[Verse 1]
君に電話してもいつも話し中で
もううんざりだ
だから少しは大人らしくしてくれ
せっかく見つけた大切な時間も もう失ってしまった
*1 もし君が会ってくれないなら、僕はどうにかなってしまいそうだ
君は僕に会おうとしてくれないんだ
*1: もし君が会ってくれないなら
: if you won't see me
if you won't see me: 日本の高校の定期考査ですと × になる文ですね。『時・条件を表す副詞節内では未来のことでも現在形を使う』とやらが理由の様です。したがって、答案には If you don’t see me と書かなければ順位が下がることになります。Paul が聞いたら何というでしょうか?
[Verse 2]
どうして君が僕を避けたがるのかわからない
*2 気持ちも伝わらないんだ
*3 なすすべもない
長く居座るつもりはないし
たいした話があるわけでもない
それでも 僕は追い返されてしまう
*2: 気持ちも伝わらないんだ
: I can't get through
get through: ここでは「(連絡・意思が)相手に届く」という意味になります。
I can’t get through to you
:君に連絡が取れない/気持ちが伝わらない
の様に使います。
*3: なすすべもない
: My hands are tied
My hands are tied: 直訳すると「手が縛られている」となり、上の様に意訳しました。
[Chorus]
そうさ君は僕に会おうとしてくれないんだ
君は僕に会おうとしてくれないんだ
[Bridge]
何度も何度も
君は聞こうともしない
*4 もし自分に何が足りないのか分かっていれば、僕は気にしないのに
*4: もし自分に何が足りないのか分かっていれば、僕は気にしないのに
: I wouldn't mind If I knew what I was missing
I wouldn't mind If I knew what I was missing: 直訳すると「僕が理解し損なっていたことが分かっていれば、気にしないのに」となり、裏を返せば『僕は理解し損なっているから、気にするのだ』という現実が浮かび上がってきます。Paul はここで、仮定法を使って『自分を省みる』ことをしていると言えましょう。Paul にしては実にレアな心境を呈して私的には最も重要な所だと思います。
[Verse 3]
*5 それほど時間は経っていないはずなのに、涙に明け暮れる日々さ
君を失ってからというもの まるで何年も経ったみたいだ
ああ、本当に長く感じるよ
ねえ、君がいなくなってからというもの、僕はもう前に進めないんだ
*5: それほど時間は経っていないはずなのに
: Though the days are few
Though the days are few: 直訳すると「(経過した)日々はほとんどないのに」となりますが、この表現から『苦しさのせいで異様に長く感じる』という心の裏側がみえてきます。ここも重要箇所の1つだと思っています。
[Chorus]
もし君が会ってくれないのなら
君は僕に会おうとしてくれないのさ
[Bridge]
何度も何度も
君は聞こうともしない
もし自分に何が足りないのか分かっていれば、僕は気にしないのに
[Verse 3]
それほど時間は経っていないはずなのに、涙に明け暮れる日々さ
君を失ってからというもの まるで何年も経ったみたいだ
ああ、本当に長く感じるよ
ねえ、君がいなくなってからというもの、僕はもう前に進めないんだ
[Chorus]
もし君が会ってくれないのなら
君は僕に会おうとしてくれないのさ
いかがでしたでしょうか? 歌詞にはこのように痛々しいほどの切なさがにじんでおり、曲調はどこか軽やかではあるものの、John Lennon とGeorge Harrison による「ウー、ラララ」のコーラスも、切なさを演出していると思います。
一方で、演奏面に耳を傾けると耳に一番に入ってくるのが、 Paul McCartney のベースです。これほど印象的でありながら、決して前に出すぎることなく、他のパートを損なうこともない。むしろ楽曲全体の土台として、なくてはならない役割を静かに担っているように感じられます。
前作 Help! からわずか半年とは思えないほど、このベースのドライヴ感には目を見張るものがあります。
ところでこの曲には、どちらのベースが使われているのでしょうか?