
再会を願いながら揺れる心 ― Wait
サウンド面では、アルバム Rubber Soul 全体を包む落ち着いた雰囲気にしっかりと溶け込んでいます。一方で、そのメロディや歌の物語には、初期の It Won’t Be Long を思わせる、どこか素朴でまっすぐな恋愛感情が残されています。それもそのはず、この曲は前作 Help! のセッションで録音されたアウトテイクをもとにした楽曲だったようです。
もっとも、 It Won’t Be Long が恋人との再会をひたすら待ち望む、若々しい高揚感に満ちた曲だったのに対し、 Wait で描かれる再会は、もう少し複雑です。恋人に「待っていてほしい」と願いながらも、待つことを相手に強いるつもりはない。もし心が折れてしまったのなら、自分を待たずに拒んでくれてもいい――そんな相手を思いやる優しさと、離れている間に生じる不安が、歌詞の随所に滲んでいます。
その一方で、「僕は君に対して誠実にしてきた」「君なら僕の帰りを待っていてくれると分かっている」といった、自分自身に言い聞かせるような言葉も登場します。そこには、離れていた時間を乗り越えて再び結ばれることへの願いだけでなく、二人の間にある信頼を確かめようとする姿も見えてきます。
明るい再会を歌っただけではない、期待と不安、そして相手を信じようとする気持ちが同居した Wait 。今回は、そんな歌詞に込められた微妙な心の揺れにも注目しながら、この曲を見ていきたいと思います。
[Verse 1]
*1 ずいぶん長かったけど、今、家に帰るんだ
ずっと離れていて、ああ、どれほど寂しかったことか
*1: 長い離別の時間の中で感じていた孤独を経て、ようやく家に戻るという心情がこの 2 行だけで表せるとうのには感服です!
[Chorus]
君のそばに戻るまで、待っていてくれ
*2 流した涙のことは、もう忘れてしまおう
*2: 流した涙
: the tears we've cried
we've cried = we have cried: は現在完了形ですが、ここでは「今までに流してきた」という、過去から現在までの経験・積み重ねを感じさせます。
この部分から、離れていた間の寂しさや悲しみを、再び一緒になったら過去のものにしようという気持ちが感じられますね。
[Verse 2]
でも、もし君の心が折れてしまったなら、僕を待たず、*3 見限ってくれていい
でも、君の心が強いのなら、辛抱して待っていてくれ。僕は遅れたりしないから
*3: 見限ってくれていい
: turn me away
turn someone away: 「人を拒む」という意味です。
つまり、単純な恋愛の甘い言葉は使わず、相手を縛らないための言葉を発しています。
[Chorus]
君のそばに戻るまで、待っていてくれ
*2 流した涙のことは、もう忘れてしまおう
[Bridge]
君なら、わかってくれていると思う
僕がずっと誠実にしていたことを。*4 僕にできる限り、ずっとね
*5 わかってくれているなら、僕も君を信じるよ
きっと君が僕の帰りを待っていてくれると、分かっているよ
*4: 僕にできる限り誠実に
: as good as I can be
as good as I can be: 直訳すると、「僕にできる限り誠実に」という意味です。つまり、
「僕なりに精一杯、君に対して誠実であろうとしてきた」
という姿勢が表現されていますね。
*5: わかってくれているなら
: if you do
if you do: 直訳すると「もし君がそうしているなら」ですが、do は、直前の ought to know を受ける代動詞と考えられるので、「もし君が(僕がずっと誠実でいたこと)をわかっているなら」という訳になりますね。
[Verse 1]
*1 ずいぶん長かったけど、今、家に帰るんだ
ずっと離れていて、ああ、どれほど寂しかったことか
[Chorus]
君のそばに戻るまで、待っていてくれ
*2 流した涙のことは、もう忘れてしまおう
[Bridge]
君なら、わかってくれていると思う
僕がずっと誠実にしていたことを。*4 僕にできる限り、ずっとね
*5 わかってくれているなら、僕も君を信じるよ
きっと君が僕の帰りを待っていてくれると、分かっているよ
[Verse 2]
でも、もし君の心が折れてしまったなら、僕を待たず、*3 見限ってくれていい
でも、君の心が強いのなら、辛抱して待っていてくれ。僕は遅れたりしないから
[Chorus]
君のそばに戻るまで、待っていてくれ
*2 流した涙のことは、もう忘れてしまおう
[Outro]
*1 ずいぶん長かったけど、今、家に帰るんだ
ずっと離れていて、ああ、どれほど寂しかったことか
いかがでしたでしょうか。
Rubber Soul 以後、 John と Paul がそれぞれの個性を強く打ち出す楽曲が増え、二人が純粋な意味で一緒に作り、一緒に歌うスタイルは、次第に少なくなっていきます。そうした流れの中で、この Wait は、サビを Paul が手がけ、 John と Paul がともに歌声を重ねているという点でも、貴重な一曲と言えるのではないでしょうか。
また、曲そのものには、後の Beatles を思わせるような実験性やラディカルな要素はほとんどありません。むしろ、初期の Beatles を思わせる素直なメロディと、離れていた恋人との再会を歌うストレートな物語が、アルバム Rubber Soul の落ち着いたサウンドの中に収められています。
しかし、だからこそ Wait には、肩の力の抜けた自然な魅力があります。大きな変化を見せるのではなく、それまでの Beatles が持っていた魅力を、成熟しつつあった彼らのサウンドの中で静かに響かせている。そんなところにも、この曲ならではの味わいがあるように感じます。
皆様は、この Wait をどのようにお感じになりましたでしょうか。