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あの世へのビンゴ 〜最後の大笑い〜

    「え?葬式でビンゴ大会?」

    フリーアナウンサーの佐々木真琴は思わず聞き返した。
    結婚式の二次会を専門に司会をしている真琴にとってそれはあまりにも突飛な依頼だった。

    「はい。父の遺言なんです」

    喪主の田村良一は静かに頷いた。亡くなったのは彼の父、田村浩二。
    生前の浩二は明るくお祭り好きな性格でいつも周囲を笑顔にしていたという。

    「父は『俺の葬式はしんみりなんて嫌だ!みんなで笑って、にぎやかに送ってくれ』とよく言っていました。だから遺言に…」

    良一は一枚の紙を取り出した。そこには達筆な字でこう書かれていた。

    『俺の葬式でビンゴ大会をやること。景品は俺の宝物。司会はあの“二次会の名司会者”佐々木真琴さんに頼むこと』

    「父は佐々木さんのことを友人の子供の結婚式でお見かけしたみたいで…」

    真琴は迷った。結婚式の二次会と葬式では空気がまるで違う。
    しかし、良一の真剣な眼差しと浩二の人柄に次第に心を動かされていった。

    「…わかりました。お引き受けします」

    こうして、人生初の「葬式ビンゴ大会」の幕が上がった。


    葬式当日。
    会場は予想以上に重苦しかった。喪服を着た参列者たちは静かに故人を偲び、会場の片隅に置かれたビンゴカードと景品の山は異質な存在だった。

    真琴は深呼吸し、マイクを握った。

    「えー、これより故・田村浩二様の強いご希望によりビンゴ大会を開催させていただきます!」

    一瞬、空気が凍る。視線が突き刺さる。
    今一度、真琴は覚悟を決めた。

    「皆さん、お手元のビンゴカードをご確認ください!ルールは簡単です。
    私が読み上げた数字があれば穴を開けてください!縦・横・斜めどれか一列揃えばビンゴです!」

    ぎこちない拍手が数名から上がる。

    「それでは、最初の数字を読み上げます。Bの7!」

    沈黙。
    誰もカードを見ようとしない。

    「Gの52!」

    またも沈黙。しかし次の瞬間小さな男の子が声を上げた。

    「52、あった!」

    それは浩二のひ孫、直人だった。

    「はい、52ありますね!でもまだビンゴにはなっていませんよ!」

    その言葉をきっかけに少しずつ空気が変わり始めた。
    戸惑いながらもカードを見る人が増え、やがてあちこちで「リーチ!」「ビンゴ!」と声が上がるようになった。


    景品は浩二の愛用していた釣り竿、使い込まれたゴルフバッグ、若い頃によく聴いたレコード…
    どれも彼の思い出が詰まった品々だった。

    「この釣り竿、おじいちゃんと一緒に釣りに行ったときのだ!」

    「このレコード、昔よく浩二叔父さんが聴いてたなぁ…」

    景品を手にした人たちは浩二との思い出を語り始めた。
    会場はいつしか温かい空気に包まれていく。


    そして、最後のビンゴが出た。
    手を挙げたのは浩二の親友・山田だった。

    彼が受け取ったのは一枚の古びた写真。
    そこには、若き日の浩二と山田が肩を組み満面の笑みを浮かべて写っていた。

    「……浩二、お前、本当に最後まで俺たちを笑わせるんだな」

    写真をじっと見つめながら山田は静かに語り始めた。


    「俺と浩二はガキの頃からの親友でな…いつも一緒だった。
    お前のバカみたいに明るい笑顔にどれだけ助けられたかわからないよ」

    彼の声は震えていた。しかしそれは悲しみだけではなかった。

    「……でも、浩二。お前がいなくなったら誰が俺を笑わせてくれるんだよ」


    静まり返る会場。
    誰もが故人との思い出を胸に浮かべていた。

    やがて、一人が拍手を始めるとそれは次第に大きくなり会場全体に広がった。


    前代未聞のビンゴ大会は大盛況のうちに幕を閉じた。


    片付けを終えた真琴に良一がそっと封筒を渡した。
    「実は…父から佐々木さんへのメッセージがあるんです」
    中には1枚の便箋が入っていた。

    『佐々木さんへ。
    俺のバカ息子が無理なお願いをしただろう。すまんな。
    でも、あんたの司会でみんなを笑わせてほしいんだ。
    人生は一瞬の連続。笑っている間に終わるのが一番いい。
    俺の葬式の日にみんなが笑ってくれたなら…俺は最高に幸せだ。
    無理なお願いなのは百も承知。
    どうか、よろしくお願いします。  田村浩二』

    読んでいるうちに、真琴の目頭が熱くなった。

    良一は空を見上げた。
    「父は星になりました。でもきっと今日もどこかで笑っています。
    そんな自慢の父です」


    真琴も夕焼け空を見上げた。
    (田村さん…あなたのビンゴ大会、最高でしたよ)

    その夜、真琴はいつもより少しだけ星空が近く感じられた。
    そして、この仕事を選んでよかったと心から思ったのだった。


    終わり



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    依頼者さんと独身偽装男との話し合いにお付添いしました
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