
陰キャと情熱とロックンロール
雨上がりの午後の教室。
窓の外の紫陽花がしっとりと濡れて重たげに咲いている。
僕は教室の隅の席で古びたヘッドホンをつけたまま机に突っ伏す。
周りのクラスメイトは楽しそうに談笑したり、スマホをいじったりしている。そんな喧騒がヘッドホンから漏れる微かなエイトビートにかき消されていく。
僕の世界はいつもそうだ。
ヘッドホンの向こう側とこの現実の薄い膜一枚で隔てられている。
入学早々明るいクラスメイト達から陰キャ認定を頂いた。
目立つことを極端に嫌い、話しかけられると途端に言葉が詰まってしまう。友達は少ないしいても表面的な付き合いばかりな僕にはぴったりだ。
そんな僕にとって唯一の逃げ場所であり、心の拠り所がロックンロール。
初めてロックンロールを聴いたのはYouTubeだったと思う。歪んだギターの音、突き刺さるようなボーカル、そして何よりも胸の奥底に突き刺さるような衝動的なエネルギー。
それは静かに息を潜めて生きてきた僕にとって全く異質な、そして強烈な光だった。
それ以来、僕は貪るようにロックンロールを聴き続けた。パンク、ガレージ……ジャンルは問わない。ヘッドホンから流れる爆音の中で臆病な自分を忘れ、ギターを掻き鳴らしステージ上で叫ぶ妄想の中で毎日満足している。
放課後、僕はいつものように一人で音楽室に向かった。
ピアノの隅に置かれた埃を被ったエレキギター。それはまだ軽音楽部があった頃に使っていたものらしいが、今は忘れ去られたようにそこに置かれている。
誰もいない音楽室の静寂の中で僕はギターを手に取った。指先はぎこちなくコードを押さえる度に弦が震える。それでも僕は夢中でギターを掻き鳴らした。
ギターの音は僕の心の奥底に溜まっていた言葉にならない感情を無理やり引きずり出すようだった。
激しいコードストローク、不安定なメロディー。
誰かに聴かせるための音楽ではない。
ただ、僕自身の内なる叫びを音に変えるための衝動だった。
そんなある日、突然声をかけてきた男がいた。
「お前、ギター弾けんだろ?」
ギラついた目にピアス、カッコよく着崩した学ラン。
声の主は3年の不良 神崎先輩だった。
「……え?」
「文化祭でバンド出すんだけどギターが逃げてな。代わり、探してんだよ」
「僕、無理……人前とか……」
「下手でもいいよ。音さえ出せりゃ。お前の「Blitzkrieg bop」良かったぜ」
「!?」
そう、バレていた。音楽室での無断演奏が。
「音漏れしてんだよ、バカ」
それから毎日が変わった。
放課後の音楽室に神崎先輩たちのバンドメンバーが集まり僕もその中に加わるようになった。最初は先輩達の視線が怖くて震えてコードが押さえられなかった。でも彼らは何も言わず何度も付き合ってくれた。
神崎先輩は不器用なくせに音楽になるとまっすぐだ。
「テクはどうでもいい。伝わればいいんだよ」
その言葉に何度も救われた。
そして文化祭当日。
体育館のステージ裏はざわついていた。出番を待つ他のバンドたちの声、チューニングの音。それらすべてが僕には遠い世界のものだったはずなのに、今、そのど真ん中にいた。
「緊張してんのか?」
神崎先輩が肩を叩いてくる。
「…うん、ヤバいくらい」
「よし、最高の状態だな」
「え、なんで?」
「ロックはそういう時に爆発するんだよ」
笑えた、ほんの少しだけ。
客席にはこんなに生徒いたっけ?と不思議に思うぐらい人がぎっしりいた。クラスメイトの顔もちらほら見える。
手に汗を握りながら僕はギターを構えた。
開幕はラモーンズの「Blitzkrieg Bop」
練習で一番やったやつだ。神崎先輩がマイクに口を近づけ叫ぶ。
「Hey ho, let’s go!」
アンプから爆音が飛び出した瞬間、僕の恐怖は消えた。
ヘッドホン越しじゃない本物の音。
逃げ場のない現実のど真ん中で僕は初めて叫んでいた。
演奏が終わった瞬間、客席から大きな歓声と拍手が起こる。
その中には僕を「陰キャ」と笑っていたやつらも叫んでいる。
神崎先輩がニヤッと笑って言った。
「よう、“陰キャ” お前、ロックンローラーじゃん」
僕も笑った。
生まれて初めて、心から笑えたんだ。
終わり
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小さな子供をほったらかしにして浮気しているシタ妻の頭の中を見てみたい、、、
— 浮気_独身偽装_失踪@ブルーフィールド (@yokohama_BF) April 6, 2025
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