
うまみって何?だしがおいしい科学的な理由──身近な科学のふしぎ69
「おいしい」の正体を探る
昆布とかつお節でとっただし。ひと口飲むと、しみじみ「おいしい」と感じます。塩味でも、甘味でもない、あの奥深い味わい。
この味には、名前があります。「うまみ(旨味)」です。しかも面白いのは、うまみは日本人が見つけて、世界に広めた味だということ。今では海外でも「UMAMI」として通じます。
でも、うまみとは科学的に何なのでしょう。そして、なぜ昆布とかつお節を合わせると、もっとおいしくなるのでしょうか。
実はこれ、前回(第68回)でお話ししたアミノ酸が主役の話。やさしく解いていきましょう。
味には「5つの基本」がある
まず、味の整理から。人が舌で感じる基本の味は、5つあるとされています。
甘味…エネルギー(糖)のサイン
塩味…体に必要なミネラルのサイン
酸味…腐敗や未熟のサイン(第24回の渋みとは別物です)
苦味…毒のサイン(第38回のカフェインもこれ)
うまみ…タンパク質(アミノ酸)のサイン
注目してほしいのは、どれも「体にとって意味のあるサイン」だということ。甘い=エネルギーがある、苦い=危ないかも、というふうに、味は体を守り、必要なものを見分けるためのしくみでもあるのです。
そして、うまみは「アミノ酸がありますよ」というサイン。第68回でお話ししたとおり、タンパク質(=アミノ酸)は体に欠かせない栄養。だから、私たちは本能的に「うまみ=おいしい」と感じるのです。
うまみの正体:3つの代表選手
うまみのもとになる成分は、主に3つ知られています。
① グルタミン酸(昆布・トマト・チーズなど)
アミノ酸のひとつです。昆布だしのうまみの中心。日本の研究者が昆布から発見し、「うまみ」という味の存在を世界に示しました。トマト、チーズ、白菜などにも多く含まれます。
② イノシン酸(かつお節・肉・魚など)
かつお節のうまみの中心。肉や魚に多く含まれます。
③ グアニル酸(干ししいたけなど)
干ししいたけのうまみ。乾燥させることで、うまみが強くなるのが特徴です。
うまみ=グルタミン酸(昆布系)・イノシン酸(かつお・肉系)・グアニル酸(きのこ系)
和食のだしは、この3つを上手に使い分けてきたわけですね。
「合わせだし」が、格段においしいわけ
ここが、今回いちばん面白いところです。
昆布だけのだしより、かつお節だけのだしより、両方を合わせただしのほうが、はるかにおいしく感じられます。これは気のせいではありません。
うまみ成分には、「組み合わせると、うまみが何倍にも強まる」という性質があるのです。
グルタミン酸(昆布)+ イノシン酸(かつお節)
グルタミン酸(昆布)+ グアニル酸(干ししいたけ)
こうして種類の違ううまみを合わせると、単純な足し算ではなく、かけ算のように強く感じられる。これを「うまみの相乗効果」といいます。
日本の「合わせだし」は、この効果を経験的に利用してきた、まさに知恵の結晶。理屈を知らなくても、「昆布とかつおを合わせるとうまい」と気づいていたのです。
そして、世界の料理を見ると、同じ発見があちこちにあります。
トマト(グルタミン酸)+ 肉(イノシン酸)…ミートソース、ハンバーグ+トマト
チーズ(グルタミン酸)+ 肉…グラタン、チーズバーガー
野菜 + 肉や骨…西洋のスープストック、中華のスープ
世界中の「おいしい組み合わせ」は、うまみの相乗効果にたどり着いていた——そう思うと、料理って面白いですよね。
ちょっと実験:うまみを舌で比べよう
うまみの相乗効果は、おうちで体験できます。
昆布だしと、かつおだしを別々にとって、こう比べます。
昆布だしだけを味わう
かつおだしだけを味わう
2つを混ぜたものを味わう
(※塩は入れずに、だしそのもので比べるのがポイント)
→ ③が、明らかに深く、おいしく感じられるはずです。「1+1が、2以上になる」を舌で実感できます。
お子さんと一緒にやると、「なんで混ぜるとおいしいの?」という、いい問いが生まれます。第16回(発酵)でお話しした味噌やしょうゆにも、実はうまみ成分が豊富。和食のおいしさの土台が見えてきますよ。
ひとつ豆知識:「うま味調味料は体に悪い」は本当?
薬剤師として、ここは触れておきたい話です。
いわゆる「うま味調味料」(グルタミン酸を精製したもの)について、「体に悪い」というイメージを持つ方がいます。これは、過去に海外で広まった話が影響しています。
現在では、通常の食事で使われる量であれば、安全性に問題はないと、国際的な評価機関でも判断されています。グルタミン酸自体は、昆布やトマト、母乳にも含まれる、ごくありふれたアミノ酸です。
ここでも、有料記事でお伝えした見方が役立ちます。
「自然だから安全、人工だから危険」ではない(第49回でもお話ししました)
昔広まった話が、今は見直されていることがある(第30回の乳酸と同じですね)
もちろん、何でも「とりすぎ」はよくありませんし、塩分の多い調味料は使いすぎに注意が必要です。ただ、「うま味調味料=危険」という単純な話ではない——そこは、正確に知っておいてください。
まとめ
味の基本は5つ。うまみは「アミノ酸がある」というサイン
うまみの代表は、グルタミン酸(昆布)・イノシン酸(かつお)・グアニル酸(しいたけ)
種類の違ううまみを合わせると、何倍にも強く感じる(相乗効果)
合わせだしも、ミートソースも、チーズバーガーも、この効果を使っている
「うま味調味料は体に悪い」は、現在の評価では単純にそうとは言えない
次回の「身近な科学のふしぎ」もお楽しみに!