
「哀の唄は夜響く」 中編
[今回もまた「みんなのフォトギャラリー」より写真をお借りしました。本当にありがとうございます]
[なお、話が意外にも長くなったため、中編と下編に分けようと思います。前編は上編に変えさせていただきます。予めご了承ください]
[上編はこちら→https://note.com/book_sonority/n/n320a5761e3f5]
創作小説「哀の唄は夜響く」中編
教育棟の中に、一歩足を踏み入れた。まだ明かりがついているとはいえ、古いせいで少し仄暗く、怖い。早く財布を見つけ出して帰ろう。
「上の階から探すかな。となるとまずは……TRPG研究会のとこ行ってみよう。そのあとに心霊サークルのお化け屋敷で、最後がさっきここを出る前に寄ったトイレか……」
とりあえずまずは、TRPG研究会がゲーム開催兼カフェを開いていた教室へ。ガチャリと扉を開けると、昼間よりもだいぶ閑散とした空間が広がっていた。ここを探し回るも、財布は見つからない。
「ここには無いか……じゃ、次はお化け屋敷かな」
そう呟いた、その時。
「――きゃっ!」
思わず飛び出た、甲高く素っ頓狂な声。
「で、電気が、消えた……」
もう消灯時間だっただろうか、とスマホを確認してみたけど、まだその時間じゃなかった。なら、停電? なんで? ……そんなことはどうでもいい、まずは財布だ。幸いにもまだ、スマホは十分に充電されている。モバイルバッテリーを持ってきて正解だった。スマホの懐中電灯をオンにして、心霊サークルが活動していた場所へ行く。つけたままだったペリドットのイヤリングが揺れてカサカサと音を立てるのが、恐怖心を掻き立てた。
「た、タイミング悪いよね……こんな暗い時にお化け屋敷入るとか……」
お化け屋敷についた私だったが、流石に尻込みした。だって真っ暗闇の中、係員もいない、誘導の明かりもない、そんなお化け屋敷を歩かなければならないのだから!
「……でも係員がいないなら、脅かす役もいないよね。うん。大丈夫大丈夫。スマホの明かりだってあるんだし」
そう言い聞かせ、私は部屋に足を一歩、踏み入れた。大丈夫、なんともない。一歩、また一歩、さらに足を進める。と、その時。
「えっ⁉︎ タイミング最悪なんだけど!」
あれだけ充電が残っていたはずのスマホの明かりが、突如消えた。電源ボタンを押しても、うんともすんとも言わない。充電がなくなって、電源が落ちたのだ。困ったことに、モバイルバッテリーの充電は切らしている。仕方がないが、少し待てば目も闇になれるだろう。そうしてから、財布を探しに行こう。
そして、おぼろげに周りが見えるようになってから、私は再び歩き出した。壁に手を触れ、道に迷わないように。足元だけを見て、財布を探しながら。
……足が、止まった。
私の耳は、唸り声を捉えていた。
怖い。だってこの唸り声……恨んでる声だ。憎んでる声だ。低い声で、呪詛の言葉を吐いてるんだ。そんなの、聞きたくないに決まってる。でも、足が動かない。
いや落ち着け、ここには人はいないはず。つまり、聞き間違いだ。風が窓の隙間から吹き込んだいるだけかもしれない。大丈夫。さあ、前に進もう。お財布を探さなきゃ。そう言い聞かせてからようやく足を動かせる。
『――ネェ、ボクノコト、ミエル?』
冷たい息とともに、そんな言葉が耳元で囁かれる。怖くて振り返りたくないはずなのに、意に反して振り返ってしまう。
そこにいたのは、一人の少年。
『ミエルンダネ? ソウデショ?』
その少年はきっと、人ならざる者。だって、だってそうでなきゃ……半透明なわけがない!
『ネ、イッショニ、アソボウヨ?』
透けて見える手にぐっと腕を掴まれる。その手の氷のような冷たさに、そして少年の恐ろしさに、私は思わず叫び、逃げ出していた。つけたままだったペリドットのイヤリングがカサカサと音を立てるたび、それが少年の足音に聞こえて、怖かった。
「哀の唄は夜響く」下編に続く。