メインコンテンツへスキップ
見出し画像

逃げたのか、広がったのか。キャリアを振り返って見えたこと

    NewsPicksで、元ゴールドマン・サックス日本副会長のキャシー松井さんが「もし今22歳だったら」という問いに答えている動画を見た。

    そこで語られていたのは、意外にも「どの会社に入るか」ではなかった。

    若いうちは、すぐに就職を急ぐよりも、自分がこれまでいた環境とは違う場所に身を置いてみること。世界を見たり、違う文化に触れたり、予想外の人と出会ったりすること。そして、最初に決めた計画に縛られすぎず、オープンマインドでいること。

    キャリアは、最初に描いた設計図どおりには進まない。

    そんな話だった。

    この話を聞きながら、自分のこれまでを少し振り返った。

    私は学生時代に海外で学ぶ経験をした。その分、同級生より少し長く学生生活を送ることになった。

    卒業後も、いわゆる新卒の王道ルートには乗れなかった。次の進路を考えるために大学院へ進んだ時期もあったし、就職活動そのものに多くの時間を使った。

    ようやく最初に入った仕事は、地方の小さなメディアだった。

    そこで記事を書き、人に話を聞き、情報を編集し、発信する仕事を覚えた。さらに映像配信の仕事にも関わるようになり、「映像で伝える」ということに強く惹かれた。

    その結果、もっと本格的に映像制作をやりたいと思い、都会の制作会社へ移った。

    ただ、そこには長くはいなかった。

    数年で地方へ戻り、再び情報発信の仕事に戻った。

    ここだけ切り取れば、「うまくいかなくなって戻ってきた」とも言える。

    実際、自分でもそう思っていた時期はあった。

    ただ、その後、私は情報発信の経験を別の分野に持ち込もうと考えるようになった。

    それが農業だった。

    農業の現場に関わるようになると、今度は記事を書く力だけでは何も解決できなかった。

    営業も必要だった。

    売上も見なければならなかった。

    経営数字も理解しなければならなかった。

    ところが当時の私は、決算書を読めるわけでもなく、営業の経験もほとんどなかった。

    そこで、自分でお金を払って学んだ。

    経営数字の読み方を学び、営業を学び、事業計画を学び、新規事業を考え、新しい商品を作り、販路を開拓した。

    休日もかなり使った。

    平日だけでは足りず、週末も動いた。

    年末年始や盆も関係なく営業先を回ったこともあった。

    それでも、最後まで一つの壁を越えられなかった。

    自分一人分の人件費を生み出すところまで、事業を育てられなかった。

    努力が足りなかったのかもしれない。

    事業設計が甘かったのかもしれない。

    市場そのものが小さかったのかもしれない。

    いま振り返っても、答えは一つではない。

    ただ、そこで身につけた「情報を見る力」「営業」「数字を見る力」「事業を考える視点」は、その後も消えなかった。

    その後、まったく違う仕事を経験した時期もあった。

    安定した待遇ではあったが、毎日同じ作業を繰り返す中で、自分がそれまで身につけてきたものをほとんど使えない環境だった。

    そこで改めて気づいた。

    自分は、何かを考えたり、情報を整理したり、人と話したり、新しい仕組みを作ったりする仕事の方が向いているのだと。

    そして現在は、農業に近い商売の現場で働いている。

    ここでは、以前身につけた経営管理の知識も使う。

    昔やっていた情報発信の技術も使う。

    営業的な視点も使う。

    社内外の人との調整もする。

    最近では、AIを使った情報整理や業務改善にも関わるようになった。

    こうして並べてみると、不思議なことが分かる。

    その時々では、「うまくいかなかった」「逃げた」「遠回りした」と思っていた経験が、あとになって別の場所で使われている。

    映像制作に行かなければ、「伝える」ということを深く考えることはなかった。

    農業の現場に入らなければ、経営数字を勉強することもなかった。

    数字が分からなかったからこそ、自分のお金で学んだ。

    一度、まったく違う環境に入ったからこそ、自分がどういう仕事をしたいのかも見えた。

    もちろん、これを全部「良い経験だった」と美化するつもりはない。

    逃げた場面もあったと思う。

    我慢できなかったこともあった。

    もう少し踏ん張るべきだった場面も、おそらくある。

    ただ一方で、キャシー松井さんの話を聞いていると、少し違う見方もできるのではないかと思った。

    キャリアは、最初から一本の道として存在しているわけではない。

    あとから振り返った時に、点と点が線になって見えることがある。

    そして、その線は必ずしも最短距離ではない。

    むしろ、横にずれたり、戻ったり、全く違う場所へ行ったりしながらできていく。

    キャシー松井さんは、若い人に「もっと外へ出た方がいい」と話していた。

    自分にその言葉を当てはめると、少し意味が違う。

    私は、もうかなり横へ動いてきた。

    異なる仕事を経験し、異なる環境に入り、そのたびに必要なものを覚えてきた。

    だから今の自分に必要なのは、さらに別の世界へ飛び出すことではないのかもしれない。

    むしろ、これまでバラバラに身につけてきたものを、一つの場所で使い切ることなのではないか。

    情報発信。

    営業。

    経営。

    農業。

    現場。

    デジタル。

    AI。

    それぞれを別々の経験として持っているだけでは、単なる「いろいろやってきた人」で終わる。

    でも、それらを組み合わせて、一つの問題を解決したり、一つの仕組みを作ったりできれば、これまでの寄り道にも意味が生まれる。

    キャシー松井さんの「キャリアはハシゴではなくジャングルジム」という言葉は、若い人に向けた言葉に見える。

    けれど、むしろ途中まで登ってきた人間にも効く言葉だと思う。

    上へ一直線に進めなかったことを後悔するのではなく、横へ移動したからこそ見える景色を、どう次に使うのか。

    いま自分が考えるべきなのは、そこなのだと思う。

    22歳の時にこの言葉を聞いていたら、受け取り方は違ったかもしれない。

    でも、いくつもの仕事を経験した今だからこそ、「計画通りにいかなかった人生」にも、あとから意味を与えることはできるのだと感じる。

    ただし、そのためには一つ条件がある。

    経験しただけでは足りない。

    最後は、それを何かの成果に変えなければならない。

    これまでの寄り道を「遠回りだった」で終わらせるのか。

    それとも「必要な材料を集めていた」と言えるところまで持っていくのか。

    その答えは、これからの仕事の仕方で決まるのだと思う。

    参考文献・参考資料

    • NewsPicks / ニューズピックス「『30年間、女性は私1人』元ゴールドマン・サックス副会長が22歳に戻って選ぶ道とは?ウーマノミクスはママ友の一言から生まれた【NewsPicks/キャシー松井/キャリア/就活/いま私が22歳だったら】」YouTube、2026年9月25日公開。


    Mitchell, K. E., Levin, S. A., & Krumboltz, J. D.(1999)“Planned Happenstance: Constructing Unexpected Career Opportunities.” Journal of Counseling & Development, 77(2), 115–124.
    ――偶然の出来事を排除するのではなく、探索や行動によって予期しないキャリア機会につなげていく「計画された偶発性」の考え方を示した論文。

    ※本文中の自身のキャリアに関する記述・解釈は、筆者自身の経験と振り返りに基づく。 

    #キャリア #キャリア論 #転職 #働き方 #仕事 #自己分析 #人生設計 #キャリアチェンジ #学び直し #リスキリング #ジャングルジム型キャリア #キャシー松井 #NewsPicks #40代のキャリア #経験をつなぐ

     
     
    人が傷つき、信頼が失われたあとでも、もう一度つながり直せるのか。 家族との時間をとおして、「信頼回復」という静かなテーマに向き合っています。 言葉は、再生の手触り。

    あなたへのおすすめ