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Photo byshikashort

あの子のヒミツ (#noteでBL ショートショート)

     高田夜たかだ よるは、部室の窓枠に寄り掛かって外を眺めていた。
     今日は入学式なので在校生は休みだが、執行部の引き継ぎ等があって登校していたのだ。慌あわただしく作業をしていたが、少し休憩しようと窓際に腰掛けていた。
     今日は晴れて暖かかな気候だ。新入生たちも、新しい門出に胸を膨ふくらませて来校するだろう。
     いい入学式になればいいなどと考えていると、正門をくぐる新入生の中に明るい色の髪の生徒がいた。その子は慌あわただしく走ってきてうっかり誰かにぶつかり、ペコペコと頭を下げ、また全速力で駆けて校舎の中へ入っていった。

     その様子をなんとなく眺めていた。顔はよく見えなかったが、ズボンを履いていたのでおそらく男子生徒だろう。恐ろしく足の速い子だった。それほど背は高くなさそうだが、身のこなしもすばしっこそうだ。
     運動部から引っ張りだこになりそうだな…… 彼はそんなことを思いながら、作業を再開するために窓から離れた。

    ***
     入学式が行われた数日後、新入生歓迎会が開かれた。ハンドボール部やバスケ部、野球、サッカー、陸上、テニス、文化系だと軽音部、美術部、茶道部、演劇部、映画部等様々な部活動がユニフォーム紹介などをしたり、ステージ上で実演をしたりした。
     そして、高野が部長を務める天文部もスピーチをする。活動の内容や天体観測をしたりする旨を説明した。反応は微妙だが、星好きな学生は少なからずいるだろうから誰か入ってくれるだろうという気がした。

     それから数日後。新入生の歓迎会などを企画するために、高田は部室で考え込んでいる。
    「うーん……」
     今期の新入部員はたった1人だった。江口という真面目そうな生徒で、青っぽい金属のフレームの眼鏡をかけている。勉強もわりとできるようだ。星も興味があるようで、時々星座早見表を見ながら空を眺めていると言っていた。

     けれど、部の活動は最低6人は必要だ。現在3年生は高田と清川という生徒の2人、2年生は3人、1年生は1人だけとなるとギリギリの6人だ。せめてもう1人くらい入ってくれないだろうか。そんなことを悩んでいた。
     突然ガラッと入口の戸が開き、誰かが入ってくる。

    「すみません、こちら天文部の部室でしょうか」
     見かけない顔の男子生徒だ。いや……。
    「はい、そうですけど」
    「あなたは」
    「俺は部長です。他のみんなはもうすぐ来ると思う」
    「そうですか」
     彼は緊張を解ほぐすように深呼吸をした。
    「僕は入部希望者です」
    「えっ?」
     初々しい印象だったので新入生っぽいなと思っていたが。
    「もしかしてもう締め切っちゃいました?」
    と心配そうに聞く。
    「いや、まだ大丈夫だけど」
     それどころか再度勧誘しなければと思っていたところだ。
    「よかったー!」
     嬉しそうに息を吐つくと、今にも踊り出しそうな様子に、笑みがこぼれる。

    「じゃあ、入部届に名前を書いてもらえるかな。見学してから決めてもいいけど」
    「入るのは決めてるんですけど、よかったら見て行っていいですか」
    「うん。じゃあ」
     彼は高田が出した書類に名前を記入しながら器用に会話する。
    「ところで、なんで入ろうと思ったの」
    「えーと、家の近くに清川さんが住んでいて」
    「清川…3年の?」
     高野は、同級生の顔を思い浮かべた。
    「はい。彼に天文部の部員が少ないから入ってくれないかって」
    「なるほど」
     清川は高野のクラスメイトで、天文部員でもある。なんでもそつなくこなすがあまり部活に来ないので、なるべく来いとたまに言っていた。部のことを気にかけていないと思っていたが、案外良いところもあるようだ。

    「もしかして、幼なじみ?」
    「…そうですね。勉強を教えてもらったり」
    「そうか」
    「この学校に入れたのも清川さんのおかげなんですよ」
     頭をかきながら言う。
    「多分、彼がいなかったら入れませんでした」
    「あいつ、教え方が上手そうだしな」
    「ええ。中学の頃、自棄やけになっていろいろヤンチャしてたんですけど、諫いさめてくれて。
    勉強も1から教えてくれたから」
     聞きながら彼のオレンジ色の髪を見て、はたと気づく。

    「もしかして君、入学式の日に走って学校へ来てなかったか?
    それで誰かとぶつかったりして」
     そう言うと、恥ずかしそうな顔をした。
    「あれ、見てたんですか?まいったな。
    入学式の挨拶あいさつをしてもらうから、10分ぐらい早く来てって言われてたんだけど、うっかり遅くなっちゃって」
     普通そういったことを頼まれるのは、首席で入試に受かった者だ。
    「という事は、君…」
    「いや、中学の頃は全然だったんですけどね。清川様々です」
     そうだとしても、彼自身の努力や地頭などがなければできない事だろう。
    「すごいな」
    「本当ですよね」
     うんうんとうなずく。
    「いや、彼もだけど君が」
    「?僕ですか」
     高田の言葉が意外だったらしく、目を丸くした。頷うなずくと、彼はいやいやと両手を前に出して振る。
    「僕、ヤンキーだったし勉強なんて全然だったんすよ」
     今時珍しい、と思った。彼の年代なら半グレとかそういうのになりそうな気もするが。

    「じゃあ、部室の中を案内するよ」
     彼の書いた書類に『岸野 愁きしの しゅう』と書かれた文字を目の端で確認しながら、高田は席を立った。

    ***
     夏休みの直前になり、そろそろ文化祭の出し物を決めなくてはとみんなで相談し、プラネタリウムを開催する事になった。
     その準備で段ボール紙を集めたり、壁に星や七夕のような飾りをつけようという案も出る。それで、各学年で担当を決め、用意をする事になった。しかし、夏休み中は登校できないため準備はしばらく休みになった。

     夏休みが明けて新学期が始まり、静かだった校舎も生徒たちのざわめきが戻ってくる。始業式が終わり、高田はホームルームの後に掛け持ちする執行部に顔を出したら
    「ちょうどいいところへ来た。手伝って」
    と、書類の整理をさせられた。すっかり時間を取られて夕方になったので、次の日に天文部へ向かった。
     ドアを開けると、2年の中山とその仲間がつるんで談笑している。

    「お疲れ」
    と言ってよく座る奥の窓際の席に着いた。
    「お疲れっス」
    と3人は返した後、また雑談を始める。
    「1年は?」
    「まだみたいっすね。もしかしたら隣の教室にいるかも」
    と中山が返した。

     再びドアを開けて隣へ行く。そこは空き教室で、プラネタリウムを開催する場所にしようと準備をしていた。引き戸の入口を開けると岸野が中にいる。
    「お疲れ」
    と声をかけると
    「ういっす」
    とべこりと頭を下げた。そういう言い方はヤンキーっぽいと思う。礼儀は正しいのでそれは好ましいと思うのだが。

    「段ボールってどのくらい必要なんすかね…」
    と立て掛けているその山を見ながら言う。
    「そうだな…もう少し要るかも」
     活動熱心だなと思いながらそう返した。
    「まあ文化祭までまだ時間はあるし、近くにスーパーもあるからそんなに急いで集めなくてもいいぞ」
    と言うと、そうですかと言って額の汗を拭ぬぐう。
     まだ夏真っ盛りと言っていいほど暑いし、この部屋はカーテンも引いておらず、エアコンもついていないので気温が高い。入った時にむわっとした空気を感じていた。

    「エアコンをつけなかったのか?別に電気代を気にする必要はないんだぞ」
    「そんなにこの部屋にいるつもりなかったんで、すぐ出ます」
    と答える。と言っても、この気温でシャツが汗で濡れていた。

     何気なく上半身に視線をやり、ふとある事に気づく。
     ワイシャツの下に何か着けている。アンダーシャツではなく、あの形は…
     もしかしてスポブラ?

     一瞬、岸野は女子だったろうかという考えが浮かび、いや、そんな筈はずはないと首を振った。実際、今もズボンを履いている。うちの学校は女子はスカートしか選べないから紛まごう事なき男子生徒だ。
     それではなぜブラを着けているのか。いや、あれはブラではなく胸部だけを覆う男性用の下着なのか。だが、高田はそんな話を今まで聞いた事がなかった。自分が知らないうちにそういう肌着が出たのだろうか…例えば、どこか有名な下着メーカーが新しい男性用の商品を開発したとか──

     高田は様々な可能性をグルグルと考えてみるが、どう考えても可能性の高い結論へたどり着く。
     あれはたぶん、ブラだ。
     しかし、そう考えると次の疑問に突き当たる。
     なぜ、岸野はスポブラを着けているのか。罰ゲームなのか、それともそういった下着を着けなくてはいけない事情が何かあるのか。もしくは、そういった性癖嗜好しこうがあるのか。

     けれど、まだ付き合いの浅い彼についての情報と言えば、清川の幼なじみとか昔ヤンキーだった事、清川に勉強を教えてもらい、首席でこの学校へ入学した事くらいしか分からない。それと、案外天文に興味がある事くらいだ。

     どうしよう、本人に聞いてみるか。しかしこれはかなりデリケートな事案だ。下手をすると、今後の彼との関係にも大きく響きかねない。
     また、同性とはいえ下着に関しての話題を後輩に振っても良いものか……高田はしばし思い悩んだが、好奇心の方が自制心より勝ってしまった。部室へ戻ろうとする彼へ声をかける。

    「あの──」
     彼は「はい?」と振り返る。
    「言いたくなければいいんだが…その…」
     まずい。なんと聞けばいいんだろう。ブラが気になりすぎて、全く考えていなかった。
    「どうかしました?」
    と下から覗のぞき込んでくる。するとワイシャツの合わせから、チラリと胸元が見えた。というか見てしまった。グレーの下着だ、たぶん。
     これはセクハラになるかもと慌あわてて視線をそらす。
    「いや…その…」
     しどろもどろに言葉をつなぐ。ええい、ままよ。

    「岸野は変わった下着を着けているなと」
    「へ?」と言った後、彼は次第に顔色が変化する。うっすら赤くなりながら、両腕で胸元を隠した。
    「わ!見えてました⁈」
     恥ずかしい…としゃがみ込む。
    「汗で見えちゃってたんですね。やば、気をつけてたのに」
     その言い方で、以前も着ていたんだろうと推測された。

    「お前、男だよな」
    「あ、それはもちろん」
     どちらかというとかわいい顔をしているが、手は骨ばってるし喉仏もあるようだ。
     ではなぜ…?と首をかしげる高田に岸野はポツポツと話し始める。
    「暑いと、汗をかいて胸が透けたりするじゃないですか。それが嫌で…
    あとシャツと肌が擦こすれて、気になっちゃうことがあって…」
    と恥ずかしそうだ。
    「ランニングシャツを着ればいいんじゃないか?」
    「それだと下腹や背中が暑いじゃないですか。で、何かいいのないかなあと下着コーナーを見ていたら、スポブラがあって。
    サイズ展開も豊富だからAAAスリーAとかだと着ても違和感ないんですよね。それで」
     聞きながら、そんなものだろうかと少々疑問に思った。まあ辻褄つじつまは合っている、と思う。

    「体育の時なんかはどうしてたんだ」
    「前の休み時間にトイレで着替えたりしてました」
    「体育が終わった後も?」
    「はい」
     ふうん、と思う。
    「それか、時間によっては体育の後はシャツだけになったりして」
     聞いてると、なかなか大変そうだ。

    「あの…もういいですか?」
    と遠慮がちに言われ、ハッと我に帰った。暑い部屋にずっといて、2人ともフラフラになりそうだ。

    「すまんすまん、行っていいぞ」
    と言いながらあることに気づく。
    「いや、今日はもう帰った方がいい」
    「え、でもまだ時間が…」
    「他の者に見られる可能性がある」
    と言うと、あっという顔をした。
    「体操服やジャージは」
    「ある、と思います」
    「じゃあ急いで着替えてもう帰れ。岸野は調子を崩して帰ったと皆には言っておくから」
    「分かりました」
    と言い、岸野はそのまま帰宅した。

                   了 (4773字)

     なみさんと楓莉さんの #noteでBL 企画に今月も参加させていただきました(ありがとうございます)。
     今回の3つのお題は卒入学式、ヤンキー、スポブラで、聞いた時リアルで吹きました。そしてスポブラで半分くらい尺を使ってしまった() 長くなったので、お題に沿ったワードの部分だけ抜き出しました(なので少し駆け足な所があります🙏)
     あと、チクバンについても言及()したかったんですがさらに長くなるしセンシティブになっちゃうかな…🤔と自制しました。
     とても楽しかったです、ありがとうございました✨

     今気づいたんですが、この話だけだとBLとは言いがたい…?() 一応高田は岸野の事が気になってるけどまだ自覚してません。岸野と清川は仲がよく(読めば分かるか)、清川は岸野に恋愛感情があるか不明だけどかわいがってます。ブロマンスという事にしておこうそうしよう。
     他の方のはこちらから読めます↓ どんどん参加者さんが増えてらして楽しいです🙌✨  参加ご希望の方もぜひ。

    https://note.com/triple_combo/m/m266446aec24c

     今回の全文は(というかまだ終われてませんが)エブリスタに出しています。よかったらこちらもどうぞ↓
    『あの子のヒミツ』
    https://estar.jp/novels/26361675
     いちおうキリのいい所まで書いています🐕 (清川くんがお気に入りなんですが、今回の話にはほとんど出なかったのでちょっと残念)

     そして#noteでBL の自分の過去参加作品はこちら↓ バナーの画像を早く入れないと。


     
     

    時雨

     
     
    小説を書く人 魂の音を作品に BAYFMさんの it!! というラジオ番組で短編小説を朗読劇で放送 『タイトルから書く文芸賞』期待賞受賞  Amazonでショートショート集販売中🍎 『もしも僕がリンゴの木を植えなくても』 https://t.co/GsYlGhydx3

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