
時間をかける少女 #アマノ文筆クラブ
これは、ある少女が昭和の時代の小学校、しかも、その中の給食の時間へタイムスリップしてしまったお話しである。
令和の今の時代のような、食育という優しい考え方がまだなかった〝根性論〟を謳う時代のお話しだ。
「え? 何コレ」
アルミのお盆に乗せられた、これまたアルミの器に入ったカレーらしきものに、野菜サラダらしきもの、巨大なコッペパンに銀紙に包まれたマーガリン。
そして、そしてだ!
「何? このデッカイ牛乳は!」
マキちゃんは、牛乳が大の苦手。
令和の時代の時も、牛乳はいつも残していた。
でも、マキちゃんが今いる昭和の時代は、出されたものは
『ゼッタイにお残しは許しませんよ!』
と言われていた。
「なんで、なんで、私がこんな目に合わなければいけないの?」
と、半べそをかきながらも、マキちゃんは1年生ではあるが反骨精神のとても強い子であった。
「いいわ、それなら何時間かかろうと、食べて、食べて、飲んで、飲んで、給食と闘ってあげようじゃないの!」
マキちゃんの周りの子たちは、みんな食べ終わって机の上をきれいにしだしていた。
とうとう担任の先生も見かねてマキちゃんに声をかける。
「もう少し早く食べられないの?」
マキちゃんは、サザエさんのお母さんのようなヘアスタイルにしているベテラン先生を見上げて一言。
「無理です。お食事をおいしくいただくのには、たっぷりと時間をかけてちょっとずつ食べること。それが、残さず食べるコツよ、と、おばあちゃんが言っていました」
すると担任の先生は、少しムッとした顔になって言った。
「それは違うんじゃない? どんなに美味しいお料理でも、冷めてしまったら、美味しくなくなるでしょ」
「そうですか?」
そう言ったあと、マキちゃんはカレーをひと匙口に含んて、ニッコリした。
「心をこめて作った、ほんとうにおいしいお料理は、冷めてもじっくり時間をかけて口の中で味わえば、おいしいものよ、と、おばあちゃんは言っていました」
そう反発しながらもマキちゃんは、給食の半分を攻略していた。
が、最大の難物である牛乳が立ちはだかっていた。
「マキさん。もう次の授業が始まるから、別室へ行って続けてくださいな」
フネさんのようなヘアスタイルの担任の先生は、トタンで仕切られた簡易の休憩室へマキちゃんを連れて行った。
そこでマキちゃんは、最後の難物である牛乳と格闘した。
でも、ひと口入れるたびに
「オウェ」
と、なってしまう。
見かねた給食のおばさんが心配そうにマキちゃんに声をかける。
「おばちゃんが、代わりに飲んであげようか?」
「だいじょうぶ。コレは私と牛乳とのたたかいなの」
「はあ、闘いね」
その闘いは、日が暮れるまで続いた。
学校から帰宅しない娘を心配して母親が学校へ駆け込んだ。
母は、寒々しい簡易休憩室で、泣きながら牛乳と格闘している我が娘を見て愕然とした。
「何という仕打ちをするの!」
マキちゃんの母親は、とても強い人で反骨精神が強いところは、この母親譲りかもしれない。
「娘は、周期性嘔吐症を患っていて、無理に食べさせるようなストレスを与えるなんて」
と、猛攻撃を開始した。
が、相手も強者だった。
「ああ、給食費が惜しいのですね。お返ししますよ」
と、母親を侮辱した。
その一言で母親はブチギレた。
「こんな学校に娘を置いとけなーーい!」
って、言ったら、
ズボォォォーーーーーーーン
と、再び、令和の時代に戻ることができた。
令和の時代に戻れたマキちゃん親子は、どの時代にも良い所はあったかれど、悪習は直していかなければいけないと、改めて思った。
「よく頑張ったわね、偉かったわ」
と母親は、マキちゃんをグッと抱きしめた。
「だって私、時間をかける少女だもの」
と言ってニッコリ笑ってみせた。

甘野充さん、企画に参加させていただきます。
よろしくお願いいたします。
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