
定年おじさんのパスポート(厚さ2倍、見にくさ3倍)
厚さ2倍のパスポート
私のパスポートは、普通の人のものより厚さが2倍ほどある。広州の日本国総領事館で増補してもらったからだ。中国との往来が多く、入出国スタンプがびっしり。必要なページを真面目に探し始めると10分くらいかかる。だから、必要なところには付箋をそっと付けている。パスポートというより、もはや自分の海外ビジネス史である。
月の半分は中国、半分は日本
中国駐在前、出張ベースで中国事業を担当していた頃は、多いときには月2回、1週間中国に出張し、次の1週間は日本で仕事をする。その繰り返しだった。土日に移動し、現地で仕事をこなし、土日の移動中に出張報告やレポートをまとめる。月曜日から金曜日まで働き、週末は移動。今振り返ると、なかなかハードな生活だった。
香港経由の中国出張
日本と中国の往復には、JALやANAの直行便を利用することが多かった。昼間の便で移動するのが基本だったが、かつて香港には深夜便があった。これが実に便利だった。仕事を終えてから飛び乗ることもでき、日程によっては0泊2日、場合によっては0泊3日という強行軍も可能だった。今なら、そんな出張計画を立てるだけで疲れてしまいそうだ。
バスと白タクのおじさん
香港の空港に着くと、バスでイミグレーションへ向かう。中国側に入れば、いつもの白タクのおじさんが待っている。国際電話で、事前に到着時間を伝え、出待ちを頼んでおくのだ。何度も利用するうちに顔なじみになった。もちろん、白タクにはリスクがある。それも計算の内。海外ビジネスの現場では、リスクを認識したうえで判断しなければならない場面もある。今思えば、ずいぶん大胆な移動をしていたものだ。
羅湖、珠海、そして香港
羅湖のイミグレーション、珠海のイミグレーション。香港と中国本土を何度往復したことだろう。それぞれのスタンプも100回では済まないはずだ。香港から深圳へ、香港から珠海へ。国境を越えることが、特別なイベントではなく日常の移動になっていた。パスポートにスタンプが増えていくのも当然である。
香港で休日を過ごすはずが……
広州駐在中は、疲れた週末に香港で休日を過ごすこともあった。何もしない。仕事のことは考えない。そう決意して香港に出かけるのだが、電話とメールは容赦なくやってくる。あれは暴力的だった。こちらが休もうと決めても、仕事のほうは休んでくれない。せっかく香港まで来たのに、結局仕事から逃げられない。便利な通信手段も、使い方によっては休息を奪う道具になる。
パスポートは仕事人生の記録
37年間の会社人生。中国での仕事は、私のキャリアの中でも大きな部分を占めている。日本から中国事業を支えた時期もあれば、広州に駐在して現地法人の総経理を務めた時期もあった。今では、分厚いパスポートを眺めながら、当時を懐かしく思い出す。あの頃は忙しかった。移動も多かった。休みも少なかった。それでも、現地の人たちと仕事をし、さまざまな街を歩き、数え切れないほど国境を越えた。付箋をそっと付けたパスポート。そこには、出張日程表や業務報告書には残らない、私自身の仕事人生が刻まれている。定年退職した今、もうあのスケジュールをこなす自信はない。いや、正直に言えば、もうやりたくない(笑)。