
待ち時間、お預かりします#シロクマ文芸部
待つ時間は、窓口に預けられる。
行列に並ぶ四十分を預ければ、次の瞬間にはもう席に座っている。預けた四十分は口座に貯まって、好きなときに引き出せる。
便利だった。何でも預けた。
ラーメン屋の行列。病院の待合室。帰省の渋滞。
貯まった時間は、休みがほしい日に引き出した。平日の昼間に三時間。日曜の夜にもう一時間。
人生から、待ち時間がなくなった。
なのに、なんだかひどくつまらなかった。
引き出した時間で何をしたのか、ひとつも思い出せない。
思い出せるのは、昔の渋滞のほうだ。
子どものころ、お盆の帰省で、高速が三時間止まった。退屈した姉と僕に、父がしりとりを仕掛けてきた。
父は「る」で終わる言葉ばかり言った。ルール、テーブル、ボール、ビール。姉は途中で泣きそうになっていた。
あれは、帰省でいちばん楽しかった三時間だった。
窓口があったら、たぶん預けていた。
今年のお盆、窓口には寄らずに車を出した。
案の定、高速は止まった。後部座席で、娘がため息をついた。
「しりとり、しよか」
僕は「る」で終わる言葉ばかり言った。
「お父さん、ずるい」
渋滞は、まだ三十キロ続いている。
ちょうどいい。