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二十年後の平和、シエラレオネという国。

    この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
    題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」


    首都フリータウン。
    街を歩き始めたとき、道が舗装されていることにまず驚いた。

    これまで旅してきた西アフリカの街々は、道は砂だらけでぬかるんでいた。
    だが、ここは、ちゃんとアスファルトが敷かれている。

    そして、もう一つ。

    ぷぷぷ、とエンジン音が聞こえてくる。
    トゥクトゥクだ。
    三輪のバイクタクシーが、道をびゅんびゅんと走り抜けていく。

    ああ、これは、アジアだ。

    インドで、タイで、何度も乗った、あのトゥクトゥク。
    まさか、アフリカで、また目にするとは思わなかった。

    手を挙げて、一台を止めた。
    運転手は、若い男だった。二十歳くらいだろうか。

    「どこへ?」

    英語だった。シエラレオネは、イギリスの植民地だった国。

    「市場まで」
    「オーケー、乗れ」

    トゥクトゥクに乗り込む。
    ぶるるん、とエンジンが唸って、走り出す。

    風が、ふわりと頬をなでる。
    久しぶりの、この感覚。懐かしい。

    街を走りながら、気がつく。若者が、多い。
    そして、もう一つ、気がついた。

    高いビルが、建っている。
    ガラス張りの、現代的なビル。そのすぐそばに、ビニールシートだけで作られた、スラム。富と貧困が、すぐそばに、共存している。

    トゥクトゥクは、その境界線を、何も気にせず走り抜けていく。

    シエラレオネの平均年齢は、19.4歳。
    世界210位。世界で最も若い国の一つ。日本は50歳。

    トゥクトゥクが、市場の前で止まった。
    「着いたぜ」
    運転手に料金を払って、降りた。30円。

    市場は、活気に満ちていた。
    野菜、果物、魚、肉。色とりどりの品物が並んでいる。
    ここでも、若者たちが、元気に働いている。

    小さな食堂を見つけて、入った。
    おばさんが、にっこりと笑って迎えてくれた。

    「何が食べたい?」
    「おすすめは?」
    「カッサバリーフ!」

    カッサバの葉を刻んで、パームオイル、ピーナッツ、肉と一緒に煮込んだ料理だという。シエラレオネの伝統料理らしい。

    運ばれてきたのは、どろりとした緑色のシチュー。
    ご飯にかけて、ひと口、スプーンですくって口に運ぶ。

    濃厚だ。パームオイルの香りと、ピーナッツのコク。塩気が効いている。
    これまで食べてきた西アフリカの料理の中で、一番、しっかりと味がついている。うまい。

    「うまいでしょ?」
    「はい」
    「米を食べなければ、今日は食事をしていない、って言うのよ。この国では」

    米。

    食べながら、『ブラッド・ダイヤモンド』をふと思い出す。
    レオナルド・ディカプリオが主演した、あの映画。
    内戦の中で、ダイヤモンドをめぐる争い。少年兵。暴力。

    あの映画の舞台が、シエラレオネだった。
    内戦は、1991年から2002年まで続いた。
    今から、20年以上前に終わった戦争。その国を見てみたくてきた。

    だが、この街を歩いていても、その傷跡を、あまり感じない。
    なぜだろう。
    そして、気がついた。
    平均年齢、19.4歳。

    つまり、この街にいる若者たちの多くは、内戦を知らない世代なのだ。
    内戦が終わったとき、彼らはまだ生まれていなかった。あるいは、幼すぎて覚えていない。

    この若者たちは、戦争ではなく、平和を知っている。
    食堂を出ると、隣の席にいた若い男が、声をかけてきた。

    「どこから来たの?」
    「日本」
    「ワオ! 日本! いいな、日本」

    彼は、大学生だという。20歳。経済学を学んでいる。

    「この国、これから良くなると思う?」と聞いてみた。

    彼は、少し考えて、こう言った。

    「わからない。でも、俺たちは、やるしかないんだ」

    その言葉に、力があった。

    「内戦のことは、教科書で読んだ。ひどかったって。でも、俺たちは、そこにはいなかった。俺たちは、これから、この国を作っていくんだ」

    ああ、と思った。

    ギニアビサウで、わたしは思った。
    「西アフリカは50年たっても、何も変わらない気がする」と。

    だが、ここは、違うのかもしれない。
    内戦が終わって、20年。
    若い世代が、育っている。舗装された道がある。トゥクトゥクが走っている。

    まだ、貧しい。まだ、問題も多い。
    高いビルのすぐ隣に、ビニールシートのスラムがある。
    でも、ここには、前を向いている人たちがいる。

    若い男と別れて、また街を歩いた。
    夕暮れどき。
    トゥクトゥクが、ぷぷぷ、と走り抜けていく。
    若者たちが、笑いながら、道を歩いている。

    わたしは、ここで、希望を見た。
    それは、大げさなものではない。
    ただ、若者たちが、前を向いている。それだけのこと。
    でも、それが、希望なのだと思った。

    宿に戻る途中、また、トゥクトゥクに乗った。
    運転手は、やはり若い男だった。

    「この国、好き?」と聞かれた。
    「まあまあ」と、わたしは答えた。

    嘘ではなかった。

    ―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。


     
     
    異文化ライター / AI対戦会主催 / 年間マンガ500冊レビュー / SF短編小説家 / プロいく一期生 スターバックス勤務20年。ゲーム実況15年。シェアハウス10年。 ヘッダ画像はタプローム遺跡(本人撮影)。木の根が寺院を包み込む様子が神秘的。 amazonアソシエイト参加