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クレヨン一本が、わたしたちの世界をつなぐ。

    この文章は世界の街を切り取った旅エッセイです。
    題して「見知らぬ異国で、ひとりごつ」


    デリーの雑踏の中、わたしはひそかな目的を抱えていた。
    それは、この街の子どもたちに絵を描いてもらうこと。明確でシンプルな願い。けれど、一人でスラムのような場所へ足を踏み入れる勇気は、なかなか持てずにいた。

    そんな時、たまたま宿が一緒になった旅行者のゆたかさんと出会った。この計画を話すと、彼は快く協力を申し出てくれた。

    二人で、安宿が集まるサダルストリートから、狭い路地を少し入った場所へ向かう。そこはスラムというよりは、周辺の家族や子どもたちがわいわいとたわむれる、小さな遊び場といった雰囲気だった。

    さっそく、言葉が通じないながらも、身振り手振りで「絵を描いてくれないか」とお願いする。すると、何をやっているのかと、あっという間に30人以上の人たちに囲まれた。
    子どもたちの目は、わたしがもってきた画用紙とクレヨンにキラキラと輝く。わあっと歓声が上がり、画用紙やクレヨンは、ひっぱりだこになった。

    絵という道具は、言葉の壁をやすやすと乗り越え、あっという間にみんなの心をつないでくれた。

    子どもたちは夢中で指を動かす。牛の絵、デリーの街並み、そして、なぞのプロレスラー。彼らが描く絵は、どれも力強く、だが同時につたないものが多かった。

    その中で、わたしは特に目を引く一枚を見つけた。ガネーシャの絵だ。豊かな色彩と、力強い線で描かれたその絵は、幼い子どもの手から生まれたとは思えないほどだった。

    わたしは、その絵を描いた子に、
    「君の絵はたいへんすばらしい。ぜひ30ルピー(約100円)で買わせてくれ」と、拙い英語と身振り手振りで伝え、お札を差し出した。お金は一度、英語が通じる彼の父親の手に渡る。父親は、少し驚いた顔をした後、その30ルピーを、ためらうことなく全て、息子に手渡した。

    その瞬間、子どもの顔がぱあっと明るくなった。彼はとても嬉しそうで、父親も満足げににこにこと笑っている。周りの子どもたちも、自分も、そしてゆたかさんも、みんなの心のキャンバスに刻まれた、二度と消えない彩りの時間だった。

    絵は、言葉以上の力を秘めている。
    それは、国境を越え、世代を超え、人々の心を温かく繋ぎ合わせる魔法だ。デリーの路地裏で、わたしは、その魔法の輝きを見た。

    ―ああ、またひとつ、見知らぬ異国で、ひとりごつ。

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    ガネーシャの絵とそれを描いたニティス


     
     
    異文化ライター / AI対戦会主催 / 年間マンガ500冊レビュー / SF短編小説家 / プロいく一期生 スターバックス勤務20年。ゲーム実況15年。シェアハウス10年。 ヘッダ画像はタプローム遺跡(本人撮影)。木の根が寺院を包み込む様子が神秘的。 amazonアソシエイト参加