
弟と生まれて初めてサシでランチした。
たとえば、サシではちょっと無理だけど。
間に誰か入ってくれたら話ができるのにって
いう人はいないだろうか。
わたしの場合、それが弟だった。
弟とサシでは無理だった。
間に誰が入れは話せるのか。
それは母だった。
母がちよっと席を外したら
ふたりの間に、気まずい
空気が流れる。
何が気まずいのか、
わからない。
何を喋ればよいのか、
わからない。
それで、最近忙しい?
と、わたしが口火を切る。
まあまあかな。ふつう。
ふつうって、どんなんよ。
まあ同じ質問問われたら
わたしもふつうって、
言うと思うけど。
はよ、帰ってきてほしい母。
もう、話しが続かん。
空気が重い。
お茶もっと飲む?
とかわたしが聞いて、もういいとか
言われた時にゃ。
言うんだけど。弟は。
もういいって。
余白を埋めて会話を繋ごうとはして
くれないから。
まあそれが、弟の正直なとこなんだけれど。
それから年月が経ってもその関係性は
変わらなくて。
サシは無理。勘弁してください。
ふたりにしないでとか思ってたら、
母が脳梗塞で倒れた。
困った。
いつかふたりで、話さなければ
いけない事態に陥る。
それもかなり深刻なことを。
と、おもっていたら、
在宅介護をわたしが始めた頃から
雲行きが良い方向に噓みたいに
変わってきた。
弟がめちゃくちゃ話す人になった。
めちゃくちゃ動くひとにもなった。
わたしが母を抱え損ねて、車椅子に
移乗できなかったときも、LINE
一本で仕事をそこそこにきり上げて
やってきてくれたりもした。
ヒーローの登場やんかみたいに現れてくれた。
そしてさらにそこから2年ほどの
月日が流れた先日。
わたしたちは、腰越のお店でふたりで
ランチを生まれて初めてしていた。
OZmagazineとかのページに登場
しそうなそんなおしゃれなお店だった。
弟はパスタでわたしは火山カレーみたいな
ものを選んだ。
サシで弟と話しをしていた。
それ美味しい?
うん、美味しい。
めっちゃ辛いとか言いながら。
最近どっか遊びに行った?とか
下北とか行きたいけど、ひとりやったら
いきにくそうやな、興味あるんやけどなとか。
友達みたいな会話をした。
あと、父親がわたしのインスタのフォロワーの
第一号やってんとかわたしも話していた。
インスタとかやってるん親父?
へえー。
好奇心やっぱずっと強いんやな。
みてるだけらしいけどね、などなど。
弟とサシで話しているじゃないか。
いまのいま。
あの日々はなんだったんだろうと思いつつ
久しぶりに楽しい気持ちがしていた。
海岸沿いの散歩もふたりでした。
ここらへん、いつか住みたいなみたいな
ことを弟がうれしそうに話しながら。
腰越は漁港だ。
海から少し離れていても
歩いていると潮の香りが
近づいてきて、海が近いことがわかる。
その日。
海の見える場所に弟がお墓を見つけてきて
くれていて、見学に来ていた。
母が今年の4月に亡くなった。
生前、お墓は海に散骨してほしいと
言っていた。
わかるよ。わかる。
わたしもそれがいいとか、すき勝手に
思っていた。
母の言い分はこうだ。
生きてるうちに海外旅行も行けてないの
ママだけなのよって、早く連れて行けと
言わんばかりに責められていた。
ママだけパスポート持ってないって
なんか割に合わないのよって
言っていて。
だから、亡くなったらいつでもどこでも
行けるように散骨してほしいのだと言った。
そのうち行こうよとかいいながら。
果たせなかったことはごめんねの
思いしかない。
ママごめん。
散骨が現実になった。
それは海に撒くのだよね。
母の一部が海に溶けてゆくのだよねと、
あらためて思うと、心もとなくないか。
何処に会いにいけばよいのか
分からないみたいな気持ちになった。
弟も母の余命宣言からメンタルを
少し崩しながら頑張っていて。
そこにいないかもしれなくても
カタチが欲しいみたいな話に落ち着いた。
心の拠り所。
それは家族にとっての拠り所だった。
一部散骨でもよいのだろうけど。
どしようかと考えて、百歩譲って
もらってもよいだろうかと母に心のなかで
打ち明ける。
怒ってるだろうな。
海の見える場所とかどうでしょうかと。
水曜どうでしょうかみたいに心のうちで
つぶやいた。
お墓は亡くなった人のものでも
あるけど、生きてる人たちが
お参りしたくなるようなもので
よいのですよと住職の方に
教えてもらったことを思い出して、
海の見える場所にお墓を決めた。
そして花を育てるのがすきだったので
樹木葬にしてもええかなと、弟がその
霊園を見つけてくれていた。
明るくて、海風が漂ってる。
ここらへんの空気は柔らかいなって
弟も至極お気に入りで。
晴れていたこともあってその風に
吹かれてるだけで心地よかった。
樹木葬って一人一人の樹木があるのだと
おもっていたら、芝生のようなところに
故人のお一人ずつのエリアがある。
たとえは良いのかわからないけど。
前列舞台があってアリーナ席があって、
そのほかはぜんぶS席みたいな感じに見えた。
予約が取れますよといわれて。
母なら何処のエリアがすきかなと
思っていたら、弟がわたしに
選んでほしいとのことだったので。
母の性格上、ここ選び間違えたら
ずっと恨まれるよみたいに
ふたりで冗談かましながら。
陽のあたるとりわけあかるい、
真ん中を指定した。
母は、端っこが好きじゃなくて
写真もいつもセンターだったので。
お墓もセンターでということになり
弟となんかウケていた。
母のお墓も決まってホッとして
いたら。ふと聞いてみたくなる
ことがあって。
弟に変なはなしだけどね。
と切り出した。
あの場所って一人しか入れないの?
って聞いたら、追加できるんやって。
と、言うので。
わたしあそこ入りたいって、弟に
宣言していた。
入る?
うん。
入る。
まるでお風呂にはいる?みたいに
言ってくれる。
じゃあ、一人追加って係の人に、言っとくわ
って。
居酒屋の予約あと一人増えます
みたいに言っていた。
母のお墓だけじゃなく、わたしのお墓まで
決まり、この先わたしは、まだまだいろんな
ことあるだろうけど、かなり愉快に生きて
ゆこって思ってた。
