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Photo bytarohanamana

不登校と自立共育③違う方向を向く勇気

    数日後、尚子は久しぶりに近所のカフェで友人たちと会った。
    月に一度の、子育て中の母親たちの集まる、いつもの顔ぶれだ。
    「尚子さん、つむぎちゃんの調子はどう?」
    真由美が、心配そうな表情で声をかけてきた。「学校の方は…まだ?」

    「ええ、まだ行ってないの」尚子は、いつものように重苦しい表情を作ろうとしたが、なぜかうまくいかなかった。
    心のどこかで、すでに別の答えが育っていた。

    「やっぱり心配よね。うちの息子も中学で一時期不安定だったけど、カウンセラーの先生に相談して、薬もらって、なんとか持ち直したの」聡子が、経験談を語り、

    「大事なのは、早めの対応よね。放っておくと、どんどん勉強も遅れちゃうから」康子も塾や出席日数の話を続ける。

    問題を正しい形に戻すための情報が、滝のように注がれていく。
    それは、以前の尚子が求めていた話だった。

    尚子も、いつもならこの輪の中で、自分の不安を打ち明け、アドバイスを求めていた。でも、今日は違った。

    「つむぎは、最近とても穏やかなの」
    尚子が口を開くと、三人の視線が集中した。

    「穏やか?でも、学校に行ってないのよね?」
    真由美が、困惑したような表情を見せた。
    「うん。でも、本を読んだり絵を描いたり、自分のペースで過ごしていて…なんだか満ちているの」

    「それって、現実逃避じゃない?」聡子の声が、少し鋭くなった。
    「今はよくても、将来のことを考えたら不安にならない?困るのは、つむぎちゃんよ」

    「そうよ。親が導いてあげないとね」康子もうなずいた。

    その言葉は、以前の尚子自身の声でもあった。でも今は、それが自分の世界から音もなく離れていくのを感じた。

    「でも…」尚子は、ゆっくりと言葉を選んだ。
    「つむぎを見ていると、今の時間を使って、何か大切なことを学んでいるような気がするの。」

    「大切なことって、例えばどんなこと?」真由美が眉をひそめた。

    「自分のリズムで生きること。やりたいことを見つけること。それから…自分を信じること、かな」
    尚子は、つむぎの笑顔を思い浮かべた。

    微妙な沈黙が流れた。三人の表情には、心配と戸惑いが絡み合っていた。

    「尚子さん、それって…ちょっと理想論すぎない?」
    聡子が、心配そうに言った。
    「現実は甘くないのよ。社会に出たら、自分のペースなんて言ってられないし、やりたいことだけやって生きていけるほど世の中は優しくないわ」
    「そうよ。親の役割は、子どもを現実に適応させてあげることでしょう?」
    康子の言葉に、真由美も深くうなずいた。
    「つむぎちゃんのためを思うなら、やっぱり学校に行かせた方がいいと思う。このままだと、取り返しがつかなくなっちゃうかも」

    三方向から注がれる正しさ。どれも悪意はなく、ただただ善意だった。でも、なぜだろう。その言葉が、つむぎの世界とは全く違う場所から来ているように感じられた。

    尚子は、静かに微笑んだ。
    「ありがとう。みんなの言ってること、本当にわかる。でも…もう少し、つむぎを信じて見守ってみたいの」

    三人は不安そうに目を合わせた。

    「信じるって…」真由美が、言いかけて止まった。

    「尚子さん、本当に大丈夫?なんだか、以前と雰囲気が変わったような…」聡子が、心配そうに尚子を見つめた。

    「変わった、かもしれないね」
    尚子は、自分でも驚くほど穏やかな声で答えた。
    「ひびきの輪でね、つむぎと一緒にいろいろなことを学んでいるの」

    三人は、顔を見合わせた。明らかに、尚子の変化に戸惑っているようだった。

    「ひびきの輪って何それ?聞いたことないけど」
    「宗教じゃないでしょうね?」
    「子どもって影響受けやすいから」と心配の矢が飛ぶ。

    カフェを出る時、真由美が尚子の腕を軽く触った。
    「本当に心配な時は言ってね。一人で抱え込まないで」
    「ありがとう」尚子は、心から感謝の気持ちを込めて答えながら、心の内で静かに思った。
    (わたしは、一人で抱え込んでいるわけではない。つむぎと一緒に、新しい道を歩いている)

    帰り道、三人の言葉を反芻した。
    彼女たちは間違っていない。今までの“祖の時代の価値観”の中では、完全に正しい。
    でも、尚子には見えてしまった。
    つむぎの静けさの中にある、皇の時代の風景が。

    (わたしたちは、みんなと違う方向を向いている)
    少し寂しい。でも、それ以上に確かな予感があった。

    ――本当に、時代は変わり始めているのかもしれない。
    つむぎのような子どもたちは、その転換の先を照らす案内人なのかもしれない。
    そして親である自分もまた、子育てを通して、新しい時代の在り方を学ばされている。
    そのことを、今はもう疑う気持ちがどこにもなかった。

    家の前に着くと、つむぎが庭の小さな花を眺めていた。
    「おかえりなさい、お母さん」
    つむぎの笑顔を見た瞬間、尚子の中で答えが固まった。
    (わたしは、正しい道を歩いている)
    それは、誰かが決めた正しさではなく、自分とつむぎの響きが選んだ道だった。

     
     
    この世界は私たちに話しかけています。地弥生の時代から天縄文の時代への大転換の流れを、星や季節の声をすくい取り、物語にして綴る共鳴小説を日々の小さな瞬間から書いています。 読んでくださるあなたの心と共鳴しながら、皇の世界を深めていきたいと思います。

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