
碓氷峠百話#075~横川駅発の各駅停車で
第七十五話 横川発の各駅停車で
大学時代、高崎でひょんなことからJRの職員と知り合いになった。
その人は松井田から高崎へ通勤していた。
ある日のことだ。
私は上田駅から特急「あさま」に乗った。
以前にも書いたように、大学時代には「あさま」を使って碓氷峠を越えることがあった。
その日も横川駅で「あさま」を降り、横川発の各駅停車に乗り換えた。
しばらくすると、見覚えのある人がいた。
あのJR職員だった。向こうも私に気がついたと思う。
席は離れていた。
周りにはほかの乗客もいたので、わざわざ近くへ行って話すこともなかった。
しかし私は思った。
まずい。
彼は、私が上田から碓氷峠を越えて大学へ通っていることを知っていた。
それなのに、なぜ私が横川駅始発の各駅停車に乗っているのか。
普通に各駅停車で上田から来たのなら、横川始発の列車に乗っているはずはない。
しかも相手はJRの職員である。
「あさまで来たな」
そこまでは当然分かっただろう。
その先を、彼がどう考えたのかは分からない。
何とも思わなかったのかもしれない。あるいは、何か気づいていたのかもしれない。
結局、その人から何か言われることはなかった。私から聞くこともなかった。
大学を卒業してからは付き合いもなくなった。
だから三十五年たった今でも、答えは分からない。
横川駅で「あさま」を降り、各駅停車に乗り換えた。
そこで一安心したはずだった。
ところが、そこに知り合いのJR職員が乗ってきた。
あの日の碓氷峠は、横川駅で終わってくれなかった。
本宮椿