
芸術と消費
「芸術や音楽のある生活は良い。」
暮らしの中で文学、音楽、演劇、ダンス、絵画、映像等、様々な表現に接する機会があると、生活が彩りに満ちて楽しいものになるという考えかたは、多くの人が共感するものだと思う。
ただ、芸術が人に優しい営みであるとは言い切れない。鑑賞する者の価値観や経験知を圧倒するような体験をしてしまうこともあるからだ。場合によっては、そうした体験を追い求めて時間と所得を浪費させられることも、しばしばある。
先日、Kongsgaard Hudson Vineyard Syrah 2023を飲んだ際に、ふとそんなことを考えた。
Kongsgaardとその創業者であるJohn Kongsgaard氏は、今やカリフォルニアを代表する名生産者としての地位が確立された作り手であり、自社畑のChardonnayから作るThe Judge等、高額にも関わらず好事家が競って手に入れようとするワインを作り続けている。
さらに、現在のNapaを代表する生産者の一人であるGraeme Macdonald氏を始め多くの優秀な弟子がワイナリーから巣立っており、産地のメンターとしても有名と言って良い。
John氏は、Hyde VineyardとHudson Vineyardのオーナーと長く良好な関係を築いていることもあり、Carnerosに位置するこれらカリフォルニアのグラン・クリュと言って良い畑の果実でChardonnayとSyrahを仕込んでいる。
ただ、前者に注目が集まる一方で、Syrahは国内でもやや地味な扱いを受けてきた。
しかし、世紀のビンテージと言われる2023年のSyrahに関して、John氏は以下のコメントを残している。
"We have made Syrah from this 2+ acre vineyard in Carneros since the inception of the brand in 1996. Over 27 vintages it has been as distinct from its competition as the Judge is from the rest of California Chardonnay. This Syrah is a force of Nature. Of course, we make a lot of winemaking decisions as the wine ferments and ages for the 20 months before bottling, but this wine’s magnificent, undeniable voice is beyond our control. More animal than vegetable, our savory Syrah lives in its own rarefied world."
https://kongsgaardwine.com/vintage-notes/
飲んでみた感想としても、このワインは圧倒的なものだった。
黒スグリ、カシス、ハーブ、オリーブ、深煎りのコーヒー、リコリス、ドライイチジク、皮革、シダー、ヴァニラを始め複雑な香りがグラスから飛び出してくる。何より、 猛烈な凝縮感があるにも関わらず、強い酸が残っているおかげで味わいはピュアで解像度が高い。タンニンもまだ存在感はあるものの、柔らかいタンニンは味わいに奥行きを与えている。とてつもなく長く終わることのないアフターを楽しんでいる間にも味わいが変化していく。
これほどのSyrahを飲む機会は、そうないと言って良い。
カリフォルニア・ワインの世界は広い。その中でも、際立ったワインは限られるが、これはそうした例外の中でも優れたものの一つと言って良い。
ただ、一度、こうしたワインを飲んでしまうと、おいそれと同じ品種のワインを買う気になれなくなってしまう。芸術的なワインの問題と言って良いだろう。
本日のワイン:
Kongsgaard Hudson Vineyard Syrah 2023
96+pts
https://kongsgaardwine.com/

