
誰しもが、自身を正しく評価できる人はいないと心では思いつつも、他人の評価には心穏やかではいられないものだ。まして、自身のあり方が理解されない中、信じた道を進むことは難しい。自分を見失わない人だけが、歩みを進めることができるのだろう。
Cathy Corison氏は、評論家がその価値を先導してきたNapa valleyにあって、長く不遇な扱いを受けてきた。Robert Parker Jr.氏が精力的にWine Advocate誌を執筆していた頃には不名誉なスコアを付けられる等、時のインフルエンサーに評価されないことも一度や二度ではない。かといって、欧州ワインの好事家から熱烈な支持を得られないのは新興産地の不遇だろう。
1990年代から2000年代にかけて、Napaの生産者達が糖度の追求に腐心していた頃、周囲がいつ収穫するか悩んでいる頃には既に発酵を終えるような早摘みをしていたように、流行に流されないところも本流から外れているというイメージを形作ったかもしれない。
しかし、本人はそうした周囲の評価は意に介していないようだ。「かつてのNapaのワインを今も作っているだけ。」と言いながら、20年以上にわたって、穏やかなアルコール度数の、多彩な香りのカベルネ・ソーヴィニヨンを作り続けている。
なぜこうした事が続けられたのか、信念を貫く精神的な強靭性があるかのように勘ぐりたくもなる。だが実際は、「今年作ったワインが売れなければ、来年もワインを作ることができない。」と考えて行動してきたということのようだ。本人は「頑固なだけ。」と素っ気ないが、飽きず、諦めずにワインを作り続けようとする意思が道を開いたのだろう。
最近、幸運にもCorisonの自社畑であるKronos vineyardのカベルネ・ソーヴィニヨンを手に入れることができた。
カシス、ブラックチェリー、セージ、オリーブ、皮革、スミレ、甘草の溢れ出る芳香。食事と合わせてみたい欲にかられるNapaのカベルネも珍しいだろう。瑞々しい飲み口と抑制的な果実味が程よく調和している。長いアフターをビターチョコレートの味わいが引き締めている。10年以上の熟成を経て、タンニンは溶け込んでいる。良年だけあってまだまだ先があるものの、今が飲み頃だろう。Napa valleyの果実味とエレガンスが共存した素晴らしいワインだ。
Corisonのワインは、米国内では穏当な価格で取引されている。さらに、国内でもしばしば在庫を見かける。無名でも価格は高級ワインには違いないので、世間から高く評価されるブルゴーニュ・ワインのようにはいかないのだろう。
筆者としては、Napaに対して「過熟した果実味と無個性な高級ワインの産地」という先入観を持っている人達にこそ飲んでもらって、Napaのワインの魅力に気付いて欲しいところだが、周囲の評価に流されない当の本人にとってはそんな意趣返しは些事に過ぎないだろう。
本日のワイン:
Corison Kronos vineyard Cabernet Sauvignon 2012
95+pts
https://www.corison.com

