
古豪の役割
いわゆる、ボルドーの「五大シャトー」のような類型は、Napaには存在しない。でも、それは突出したワイナリーが無いことを意味しない。
1960年代以降に、ワイン産業における第二のルネサンスを迎えたカリフォルニアにあって、Napaは最も注目を集める地域だった。そして、現在まで、次々と新興生産者を生み出しながら、ワインの品質を向上させ、そのスタイルの幅を広げてきている。
成長が著しい地域の生産者達は厳しい生存競争に晒される。市場からの撤退を余儀なくされたものも少なくない。
しかし、そういう中にあって盤石の地位を築いてきた古豪も存在する。そのうちの一つがSpottswoodeだ。ワイナリー創業以来、競争の激しいNapaにあって、同ワイナリーは常にその品質と農業への取り組みから手本とされてきた生産者だ。
1972年にJack Novak氏とMary Weber Novak氏は転居のためにNapaに土地を購入した。その際、既に植樹されていた葡萄畑を引き継いだ。1973年には、隣人のRic Forman氏のすすめもあり、カベルネ・ソーヴィニヨンとソーヴィニヨン・ブランを植え、後に近隣のワイナリーに果実を販売し始めたという。
しかし、1977年にJack氏が急逝する。残されたMary氏はNapaに残ることを決意し、果実を売って生計を立てることにした。顧客にはDuckhornやShaferの名前もあったという。そうした活動を通じて徐々に評価が高まってきたこともあり、Tony Soter氏をワインメーカーに迎えて、1982年にSpottswoodeの名で自社ワインをリリースするに至る。
その後、Pam Starr氏やRosemary Cakebread氏といった著名な女性ワインメーカーを迎え入れながら、現在の地位を築いた。今はAron Weinkauf氏が醸造を担当しているが、在任期間は歴代最長となっている。
なお、Tony氏はSpottswoodeにオーガニック農法を導入した人でもあり、1992年に同ワイナリーはCCOF(California Certified Organic Farmers)認証を取得しており、2020年にはNapaで初めてCertified B-Corpワイナリーとなっている。
幸運にも、優れたビンテージである2013年のカベルネ・ソーヴィニヨンを手に入れることができた。
カシス、プルーン、ブラックベリー、オリーブ、カカオ、甘草、シダーの豊かで落ち着いた香り。期待が高まる。濃厚な飲み口だが、酸が十分に残っており、熱もひっかかりもなく、長いアフターがずっと続く。タンニンはまだ存在感があり、12年経っても、まるで若いビンテージのように感じられる。凝縮感を限界まで確保しつつ、鮮やかな表現力を失わないように作られた出色のワインだ。今後、10年でも20年でも熟成に耐えるだろう。
こうしたワインは情報量も豊富なため、ゆっくりと飲みたくなるが、それは質が低いことを意味しない。むしろ、飲むたびに味わいを噛み締めつつ、考えを巡らせるのが楽しい。
なお、現在でもSpottswoodeは様々な評論誌で高い評価を受け続けており、味わいの上でも、文字通りNapaのベンチマークと言って良い。
こうした古豪の味を基準に、新進の生産者達は自分たちの色合いを出すために工夫を重ね、新しい価値を提示する役割を担うことになる。そして、新興勢力との競争に打ち勝ち、尊敬を勝ち得る中で、古豪の評価も高まっていく。
競争と革新、多様性のカリフォルニアの根幹を支える生産者のこのワインは高級ではあるものの、同じカテゴリーのワインと比較すれば穏当な価格となている。機会があれば、ぜひ飲んでみて欲しい。
本日のワイン:
Spottswoode estate Cabernet Sauvignon 2013
95+pts
https://spottswoode.com

