
Quality Price Ratio
「美味しくて、お値打ちなワインが飲みたい。」
お酒好きに共通のこの願いは、なかなか実現しないからこそ願いのままになっている。特に、昨今の円安や物価高で可処分所得が減っている中、美味しさを担保しつつお値打ちなワインを見つけるのは簡単ではない。
それに、「美味しい」と一口に言っても、人によって何が美味しいのか、どの程度美味しいものを求めているのか幅がある。食事時に口に合う程度で良い人もいれば、強い印象が残る美味しいものを求めている場合もある。
そうなると、コスト・パフォーマンスが高く、お値ごろな範囲内でワインを探しても見つからないことが多い。悪くはない味がするが、美味しいとまでは言えないワインに昼食数回分のお金を費やしたと思うと、しっくりこない気持ちになる。
個人的には、しっかりと美味しさを担保した中で、どこまでお値頃なワインを追求できるかが好事家の腕の見せどころだと思っている。
Napaはそんなお値打ちワインを探す産地としては、最も不適格な印象を持たれている地域の一つだろう。しかし、しっかりと探せば、安いとは言えないが、お値打ちなワインを見つけることはそう難しい産地ではない。
Vine Hill RanchはNapaでも最上のワインを作っている生産者の一つにも関わらず、そのグループの中では最もお値打ちな価格でワインをリリースしている。1950年代にOakvilleの心臓部に位置する畑を取得したPhillips家は、長らく果実の販売を専業としてきたが、2008年に自社ワインをリリースした。現在はワインメーカーはAraujo等で手腕を発揮してきたFrancoise Peschon氏、栽培家はScarecrowをはじめ数々の有名畑を手掛けてきたMike Wolf氏が手がけており、強固なチームワークを発揮して実直なワイン生産を行っている。また、現在でもKinsman Eadesをはじめ実力のある生産者にも果実の販売を継続している。
先日、偶然手に入れた2018年のVine Hill Ranchを知人と分かち合う機会があった。
赤スグリ、野苺、ブラックチェリー、カシス、オリーブ、グラファイト。ピュアな果実味が印象に残る。しっかりとしたボディは感じるものの、樽香やタンニンも含めて過剰さは全く感じない。美しく長いアフターを味わっている間にグラスに手が伸びる。Napaの山側のワインのように強いタンニンや骨格を感じさせるものではないが、王道のNapaらしい大らかな果実味と透明感が共存する稀有なワインだ。2018年という優れたビンテージであったことも幸いした。
Vine Hill Ranchは決して安いワインではない。しかし、同じレベルの味わいを楽しみたいなら、2〜3倍の価格のNapaのワインを購入しなければならないだろう。Bordeauxを探すことも手だが、個性が違う点は留意しなければならない。さらに、海外の二次流通市場を見れば、ワイナリーのリリース価格よりもずっと値ごろに入手可能であることが分かる。
優れた才能と時間を掛けてチーム・ビルディングを行い、実直なものづくりを行いながら、消費者に対しては誠実な価格でワインを販売している生産者は決して多くない。ただ、宣伝が上手いとは言えないので、好事家の間でも隠れた逸品にとどまっている。だからこそお値打ちなままなのだろう。
ちなみに、世間ではこうしたものを、「QPR(Quality Price Ratio)が高いワイン」と呼ぶのだとか。
本日のワイン:
Vine Hill Ranch Cabernet Sauvignon 2018
95pts
https://vinehillranch.com
