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一騎打ち

    「叩き上げの生産者」という形容詞が似合うのは、BETA/JasudのKetan Mody氏をおいて他に存在しないのではないか。

    2010年代以降、Ketan氏は、カリフォルニア・ワインにおけるアイコンの一人だ。2016年にSan Francisco Chronicle誌のWinemaker to Watchの一人に選ばれた時には、ピノ・ノワール全盛の時代にあって、「カベルネ・ソーヴィニヨンにしか興味がない。」と言い切るなど、まるで独立独歩の精神が姿を得て歩いているような人物だ。SNSやメディアの世界にほとんど顔を出さないにも関わらず、話題の中心になるのもしばしばである。

    Ketan氏は、リーマン・ショックの直後にDiamonod Mountainにある森と言っても良い土地を購入し、自らの手で開墾した。元々、建設機材を扱う仕事に就いていたことが奏功したという。

    商業主義的なワイナリー作りには目もくれず、自社畑の傍らに建てた掘っ立て小屋に住む現代のロビンソン・クルーソーは、Dry Farmingと70年代のNapaの熱烈な信奉者であり、そんな人物が作るワインに好事家が関心を寄せない訳がなかった。

    とはいえ、独立独歩の人間も生活はしなくてはならない。自社畑から作られるJasudというワインがリリースされるまでは、BETAというSonomaやNapaの銘醸畑の果実から作られたワインをリリースして糊口を凌いでいた。そして、そのBETAのワインが業界には衝撃をもって受け止められたことが、Jasudへの期待に拍車をかけることになる。

    そんな中、悲劇が訪れる。2020年にNapaを襲った山火事により、Jasudの畑の4割近くが消失してしまったのだ。

    ところが、多くのファンがワイナリーの継続に希望を失う中、Ketan氏は黙々と新たに植樹を進め、遂に2019年ビンテージのJasudをリリースするに至る。血と汗の結晶である50ケースに満たないワインはごく僅かの好事家達を狂喜させたのみだったが、その味わいがもたらした衝撃は細波のように伝播していった。

    筆者も、先日、遂に2022年ビンテージのJasudを入手することができた。飲み頃は遥かに先だが、この誘惑に勝てる者は少ないだろう。

    ブラックチェリー、カシス、ハーブ、スミレ、グラファイト、浅煎りの上質なコーヒーの豊かな香り。極めてピュアだが、同時にタニックでもある。僅かに赤身肉のニュアンスが混じる。

    何より全く甘くない。まるで90年代以前のNapaのカベルネ・ソーヴィニヨンのように、現代的な甘みを肯定する作りとは一線を画している。素晴らしいバランスの液体は、美しく長いアフターを残していく。他には無い魅力を持った傑出したワインだ。

    こういったワインを評価することは実に難しい。その背景や成り立ちを含めて、比較対象が見つからないからだ。

    作り手の理想を叩きつけたかのような味わいに惹かれるか、そうでないのか。まるで、生産者から一騎打ちを挑まれているかのようだ。

    筆者は90年代以降のカリフォルニアにおける果実味の追求の時代は、実験として肯定的に評価している。結果、甘さを伴いつつ高次元なバランスを実現するに至ったことで、Napaのカベルネ・ソーヴィニヨンは他産地にない魅力を得ることができたと思う。

    実際、Philip TogniやDunn、Formanといった古参のワイナリーですら甘みを隠さない作りをしている。カリフォルニアのテロワールを表現するなら自然なアプローチだろう。

    評論家の中には、甘さとアルコール度数を控えたold fashionなNapaのアプローチを賞賛する向きもあるようだが、それはむしろ評価者の視点がoldであることを示しているに過ぎない。Napaの進化を適切に理解できていないからだ。

    それでも、Jasudは甘くない。

    思うに、Ketan氏は、70年代への回帰と言いつつも、タンニンの価値を強調したいのではないか。カベルネ・ソーヴィニヨンたるもの、苦味を味わうべきなのだと。そのためには、果実味はワインの表現をスポイルする要因にしかならない。

    文字通り、自らの手で道を切り拓いた生産者が何を見つめて、どこを目指しているのか。今は十分にうかがい知ることができない。そのことを理解するには、今後、数十年をかけてワインの変化と進歩を追いかける必要があるのだろう。

    叩き上げの生産者は、飲み手にも同様の精神を求めるのかもしれない。


    本日のワイン:
    Jasud Diamond Mountain Cabernet Sauvignon 2022
    94+pts
    https://www.beta-wines.com

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