
開拓精神
新興産地は、伝統産地とな異なり、新しい畑が開拓されることが多々ある。勿論、多くの生産者はより優れた土地で栽培を手掛けたいと思うものだから、未開拓の土地の中からでも、良い土地から開墾されていく。それでも、市場のトレンドの変化、産地の知識の蓄積に伴って、それまで光が当たらなかった産地が注目を浴びるようになることがある。
San Luis Obispo Coast(SLO coast)は、新興のAVAでありつつも、今やカリフォルニア・ワイン市場の中で最も熱い視線が注がれる産地の一つだ。海岸に近い冷涼な気候の恩恵を受けて、長いハングタイムを稼ぐことができる。その分、生産者には選択の余地が出てくるため、多様な品種を育てつつ、思い思いの表現を追求することができる。
そんなSLO Coastに目を付けた生産者の一人に、Saxumが挙げられる。
SLO Coastのワインと言えば、ブルゴーニュ品種を中心に冷涼気候に適した品種を手掛ける生産者の名前が多く挙がる地域だ。そんな中、果実味を前面に押し出した力強い表現を得意とするSaxumが、自社畑の開墾に乗り出した。Cayucos Ridgeと名付けられた新しい畑からは、Saxumの中でも唯一のSyrah100%のワインをリリースされるという。
カリフォルニアのSyrahは、実に多種多様なワインと表現が存在する。にも関わらず、穏当な値付けのものが多く、実に面白い領域だ。しかし、それは同時に、これまで多くの蓄積があるため、大方の表現は出尽くしていると言えなくもない。
そんな中、SaxumがCayucos Ridgeを手掛けることは、AlbanがEdna Valleyに自社畑を作り、カリフォルニアに南仏品種の旗を立てた以来の出来事だと思う。Sonoma, Napa, Paso Robles, Santa Lucia Highlands, Santa Cruz Mountains, Santa Maria Valley等、幅広い産地で栽培が試行されてきたSyrahという品種が、原点回帰かのようにSan Luis Obispoへの帰還を果たした。しかも、パイオニアであるAlbanの薫陶を受けたSaxumがそれを成し遂げたのだから。
実際に、Saxum Cayucos Ridgeは2021がファースト・ビンテージにも関わらず、各評論誌から高評価を得た。そして、2022はJeb Dunnuck氏から100ptsを与えられている。
幸運にも2022ビンテージを入手することができたので、知人との持ち寄り会に持ち込んでみることにした。
カシス、オリーブ、ブラックチェリー、上質な中深煎りのコーヒー、チョコレート、イチジク、ヴァニラの複雑な香り。濃厚であるにも関わらず、奥行きと層的な味わいが明瞭。何より、熱や重さを全く感じない。酸が強いからだろう。アルコール度数15.8%。味わいからは余裕と貫禄すら感じる。
これがデビューしたての畑から作られたワインとは思えない。Saxumのスタイルを体現しつつも、多くの人に飲みやすく、かつ複雑で飲み応えのある傑出したワインに仕上がっている。カリフォルニアのSyrahの決定版の一つに推されても不思議はないだろう。
SaxumのオーナーであるJustin Smith氏は、Cayucos Ridgeという土地の持つ可能性に注目していたものの、購買の機会に恵まれない期間が長かったという。遂にその土地を購入し植樹を始めたあとは、まるで子供が新しいおもちゃを手に入れたかのように楽しそうに語るインタビューが印象的だった。
自分の感性と直感を信じて、面白い道を自分の手で作り上げていくパイオニア精神を持つ生産者たちが、カリフォルニア・ワインの歴史をこれからも作り上げていくんだろう。新興産地ならではの楽しみだ。
本日のワイン:
Saxum Cayucos Ridge Syrah 2022
96pts
https://www.saxumvineyards.com
