
高級ワイン消費は記号か
なぜ高級ワインを飲むのか。高級ワイン消費に求める価値は、案外、一様ではない。
例えば、かのロマネ・コンティを筆頭に、世の中にはおいそれと手が出せないワインが存在するが(そして、そのほとんどがブルゴーニュ産のものだが)、これらを消費することは、「味を楽しむ」という範囲を超えて、自己顕示欲を満たすためでは無いと言い切ることは難しいだろう。
高価で、世間で高く評価されているワインを前に、いわゆる「見せびらかしのための消費」に対して禁欲的になれるほど、人間は上手く欲望を制御できない。SNSで高級ワインの投稿が多くなされ、またそれが多くの人に見られていることはその証左だろう。
カリフォルニア・ワインにも、「見せびらかしの消費」の対象となるものが増えてきている。有名なもので言えばOpus Oneがそうだろうし(Opus Oneにとっては「不名誉」なことだろう)、Napaに明るい人であればHarlan EstateやBond、Promontoryもそんな選択肢の一つであると分かる。
他方で、世の中には「無名な高級ワイン」というものも存在する。ブランドとしての信用が未確立で、いずれその価値が世間に認められるかも定かではない。そのため、「みせびらかしの消費」の対象とはならないが、それを探し求める顧客の好奇心を刺激するせいか熱狂的に支持されるため、高価でも根強い人気がある。
なお、「カルトワイン」は、既にその存在が一定程度認知されているが故にそう呼ばれるため、「無名な高級品」とは少し異なる概念だと思う。むしろ、「今後カルトワインとなり得るか議論される対象」と言ったほうが良い。
そして今、Napaにおいて「無名な高級ワイン」は成長分野と言って良い。土地や生産コストが高騰しており、必然的に、新進の生産者の多くは高級品の販売から始めなければいけないという事情はあるが、市場競争に勝って生存するためには価格に負けない価値を提示しなければならない。そして、そこまでしてでも参入する価値がNapaにはあると、多くの生産者が心惹かれていることが背景にある。
Kinsman Eadesはそんなプロジェクトの中でも最も注目と称賛を浴びているものの一つだ。Napaの中でも垂涎の畑を多く手掛けて、緻密に作り込まれた完成度の高いワインは、リリース直後から高く評価されてきた。新進生産者であるにも関わらず強気な価格設定は、当初、消費者にとっては戸惑いの材料だったが、今や二次市場での価格はリリース価格を超えている。
そんなKinsman EadesがEcotone Vineyard(旧Thorevilos Vineyard)の果実から作るAphexというワインのデビュービンテージを飲む機会があった。この畑はかつてはAbreu、今は001 vintnersが最高級のワインを生み出しているものの、果実味とタンニンを飼いならすことが生産者にとっては試練となる畑だ。
抜栓直後は赤黒系の果実が印象的だったが次第にスミレの香りも匂い立ってきた。オリーブ、ブラッドオレンジ、浅煎りのコーヒーの要素も感じられる。Ecotone Vineyardらしい凄まじい果実の凝縮感にノックアウトされる。
ここまでなら、Napaの高級ワインではしばしば見られる現象だが、味わいの分厚さは感じず、むしろ静謐な印象がある点が他とは異なる。2021vtgと若いワインにも関わらずタンニンがよく統合されていることも美点だ。
いつまでも続くかのようなアフターは大きな満足感を与えてくれる。熟成させればもっと味わいのレイヤーが明確になるだろう。Napaの頂点に位置するワインの一つと言って差し支えない、堂々たる高級ワインだ。
「無名の高級ワイン」が増えているということは、Napaが今第二のルネサンス期にあることを意味している。予想と期待を超えるワインが多く生まれていることが理解されれば、記号としてのワイン消費以上の楽しみを見出す好事家が増えるかもしれない。
本日のワイン:
Kinsman Eades Aphex 2021
96+pts
https://www.kinsmaneades.com

