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なかなか治らない行動障害の「育て直し」という関わり方

    「何度伝えても、同じ行動を繰り返してしまう」
    「どうすれば、別のやり方を覚えてもらえるのだろう」

    療育の現場では、このように悩むことがあります。

    今回は、私が「育て直し」と呼んでいる関わり方を紹介します。ここでいう「育て直し」とは、これまでの子育てを否定することではありません。安心できる関係を土台にして、必要な経験や行動をもう一度学び直すという考え方です。


    行動を変える方法はいろいろあります

    習慣になった行動は、本人も意識せずに繰り返していることがあります。そのため、「やめなさい」と伝えるだけでは、なかなか変わらない場合があります。

    行動を理解したり、変化を支えたりする考え方には、次のようなものがあります。

    ・ABCモデル
    行動科学では、行動(Behavior)を、その前のきっかけとなる先行条件(Antecedent)と、その後に起こる結果(Consequence)との関係から考えます。望ましくない行動を改善するには、行動を起こすきっかけとなる環境や、行動によってもたらされる結果を変えることが有効な場合があります。

    ・行動活性化療法
    「やる気が出ない」「憂鬱」といった気分から行動できない場合に、まず無理のない範囲で行動を変えてみることで、気分の変化を促す方法です。自分の行動パターンを把握し、取り組む行動を計画します。実行した結果を振り返り、良い変化につながった行動を少しずつ続けていきます。

    ・認知行動療法(CBT)
    思考や考え方(認知)と行動に働きかけることで、ストレスを軽減し、気持ちを楽にする心理療法です。出来事に対して瞬間的に浮かぶ考えが、感情や行動にどう影響しているかを調べ、現実的で柔軟な考え方をする練習をします。また、新しい行動を試して自分の予想と実際の結果を確かめたり、リラクセーション法で体の緊張をほぐしたりすることもあります。

    ただ、こうした説明だけでは、「理屈は分かっても、実際にはどうすればよいのか」と感じるかもしれません。それぞれ目的や適した場面も異なります。

    ここからは、私が大切にしている関わり方を、身近な例でお話しします。


    昔の安心できた感覚に、少し戻ってみる

    例えば、小学校から高校まで一緒だった二人が、大人になって公園で話しているとします。

    「昔は、みんなで縄跳びをして、暗くなるまで遊んだよな」
    「今じゃ、仕事に追われて数字ばかり見ているけどな」
    「楽しかったよな。また、みんなで会って話でもしようか」

    仕事や競争に追われていた人が、昔を思い出して、少し気持ちを緩める。こういうことはありますよね。

    この場面そのものが療育ではありませんが、私が伝えたい「育て直し」のイメージに通じるものがあります。

    安心できたところに少し戻って、そこからもう一度、考えたり行動したりしてみる。

    子どもへの支援でも、そのような土台づくりが大切だと考えています。


    「知らない」のか、「覚えたやり方ではうまくいかない」のか

    行動を教えるとき、私はまず二つの視点で考えます。

    • まだ、そのやり方を知らない

    • 覚えたやり方では、うまくいかない

    知らないのであれば、教え方を工夫して伝えます。言葉だけでは伝わりにくい子どもには、実際にやって見せたり、絵や写真を使ったりする方法があります。

    一方、すでに身についた行動を、別のやり方に変えることは簡単ではありません。

    ただし、行動の背景はこの二つだけではありません。体調の悪さ、不安、感覚のつらさ、伝えたいことを言葉にできないもどかしさなどが関係している場合もあります。

    まずは、「なぜ、この行動になるのだろう」と考えることが必要です。


    「この人と一緒にやってみたい」を育てる

    私が大切にしているのは、次のような関係です。

    • 好きになってもらい、真似をしたいと思ってもらう

    • 憧れを持ち、同じようにやってみたいと思ってもらう

    • 一緒に行うことを楽しいと感じてもらう

    言って聞かせるだけでは、伝わらないことがあります。怖がらせれば、その場では行動が止まるかもしれません。しかし、それだけでは、どうすればよいかを学んだことにはなりません。

    ご褒美を用意したり、できたことを褒めたりすることが役立つ場面もありますが、それに加えて、活動そのものの楽しさや「できた」という実感につなげていくことが大切です。

    「この先生となら、やってみたい」

    その気持ちが生まれる関係をつくることも、療育の大切な仕事なのです。


    紙風船を使って、相手と動きを合わせる

    私が行っている関わりの一つに、紙風船を使った遊びがあります。

    紙風船をつぶしたり割ったりしないように、子どもと支援者が一緒に持ち、ゆっくり動きを合わせます。

    強く握ればつぶれてしまいます。自分だけが動けば、相手とうまく合いません。遊びながら、力加減や相手の動きを感じる経験を重ねていきます。

    歩く、止まるといった場面でも、支援者が合図を出し、子どもが無理なく合わせられる速さで取り組みます。急に方向を変えたり、手を引いて従わせたりすることは避けます。

    大切なのは、大人の動きに従わせることではありません。安心して一緒に動き、「できた」と感じられる経験をつくることです。


    うまくできなかったときこそ、安心を伝える

    課題がうまくできず、子どもが泣いてしまうこともあります。

    そのときは、すぐにやり直させるのではなく、まず気持ちが落ち着くのを待ちます。

    「難しかったね」
    「大丈夫。一緒にやってみよう」

    そのように声をかけながら、もう一度取り組めそうな気持ちになるのを支えます。

    抱っこや触れ合いを本人が望み、それによって安心できる場合もあります。一方で、触れられることが苦手な子どももいます。抱きしめることを一律の方法にせず、そばに座る、距離を取って見守るなど、その子に合った関わり方を選びます。

    「もう一回、やってみようかな」

    そう思える安心感を整えることが大切なのです。


    今を否定しないということ

    もう一つのコツは、子どもの今を否定しないということです。

    「だめ!」
    「○○ちゃん、それはだめ!」

    つい大きな声で言ってしまうことがありますが、子どもには、自分自身や今していることを否定されたように感じられる場合があります。ですから、大きな声で否定することは避けた方が賢明です。

    このような場合には、まず静かにその子のそばに行きます。危険があるときは安全を確保し、落ち着いて行動を止められるように働きかけます。その後、ゆっくりと、どうすればよかったのかを伝えます。

    自分を否定されたと感じると、心が「痛い」と感じることがあります。痛ければ、その場を離れたくなることもあります。このことを覚えておいてください。

    たとえ注意されたとしても、その先生が「怖くない存在」であれば、子どもは安心して関わりやすくなります。先生を好きになり、その先生を見るようになる。その先生の近くに行きたくなることもあります。

    そうした関係の中で、「この先生のようにやってみよう」「一緒にやってみよう」という気持ちを育てていくのです。

    これが、私の考える「覚えたやり方ではうまくいかない場合の教え直し方」です。

    体技でも同じですが、引っ張ると痛みを感じても、少し押すだけなら痛みを感じないことがあります。
    身体的にも心理的にも、相手に痛みを感じさせる療育方法は、適切な関わり方とはいえないと思います。


    安心できる関係から、もう一度学び直す

    私がいう「育て直し」は、子どもを赤ちゃんに戻すことではありません。

    安心できる関係の中で、その子に必要な経験を、できるところから積み重ね直すということです。年齢だけで一律に判断せず、発達段階や本人の意思に合わせて関わる必要があります。

    なお、ここで紹介した「育て直し」は、私が実践の中で大切にしている関わり方であり、確立された治療法として紹介するものではありません。保護者様の困りごとが続く場合や、自分や周囲を傷つける行動がある場合は、医療や療育の専門職と連携し、背景を丁寧に確認することが大切です。

    好かれて、楽しんで、認められて、「もう一度やってみよう」と思えること。

    行動だけを見るのではなく、その子が安心して学べる関係をつくる。私は、その積み重ねを大切にしています。


    この記事が参加している募集

     
     
    言って聞かせても理解できない児童に「しつけ」を嫌がらずに指導する具体的なお話です。 福祉施設を10件以上・飲食店50店舗以上経営。 40年以上福祉と実社会に携わり、その中で今できる将来に役立つ子育て術を応用行動科学を交えてご紹介します。

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