
『午前零時の、ひとりぶんの招待状』
🎃 短編ハロウィン物語
キャッチコピー: あなたを探す足音が、奇跡を連れてくる。
夜の十二時を告げる鐘が鳴った瞬間、yuuの目の前に遊園地が現れた。
空には大きな銀色の月。霧の向こうでは、色とりどりのランタンが浮かび、誰も乗っていないメリーゴーラウンドがゆっくりと回っている。
入り口に立つ案内板には、金色の文字が浮かんでいた。
「今夜限りのハロウィン・パーティー 午前零時開演」
そのときだった。
『パーティーの時間だ!』
頭上のスピーカーから、弾むような声が響いた。
けれど、広場には誰もいない。
楽しげな音楽が鳴っているのに、テーブルに並んだお菓子は手つかず。空のカップが揺れ、椅子だけが誰かを待つように並んでいる。
yuuは、ふと気づいた。
どのテーブルにも、招待状が一枚ずつ置かれている。
ただひとつを除いて。
中央のテーブルには、白い封筒が二つ。片方には「主催者」と書かれ、もう片方は宛名が空白だった。
yuuは空白の封筒を手に取った。
中には、銀色の小さな鍵と、たった一行の文字。
——観覧車のいちばん高い場所で、待っています。

胸の奥が、かすかに揺れた。
今夜、会いたい人がいた。
顔も、名前も、まだ知らない誰か。それでも、ずっと前から知っているような気がする人。
なぜ会いたいのか、自分でもうまく説明できなかった。ただ、今夜なら会える。そんな気がしていた。
yuuは鍵を握り、観覧車へ向かった。
ところが、乗り場にたどり着くと、係員のいない改札が音もなく閉じた。鍵穴は見当たらない。代わりに、透明なガラスに文字が浮かんでいる。
「ふたりそろわなければ、扉は開きません」
「……どういうこと?」
yuuは鍵を差し込める場所を探した。柱の裏も、床の隙間も調べた。けれど何も見つからない。
焦ってガラスを叩くと、観覧車が大きく揺れ、手の中の鍵がするりと落ちた。
鍵は床を転がり、排水溝の隙間へ消えてしまった。
「うそ……!」
思わずしゃがみ込む。
もう一度、鐘が鳴った。
残り時間は、あと三十分。
yuuは唇を噛んだ。誰かに助けを求めれば、鍵を取り戻せるかもしれない。でも、この遊園地には誰もいない。さっきまで聞こえていた声さえ、今は沈黙している。
ふと、足元に小さな影が伸びた。
振り返ると、カボチャのランタンがひとつ、地面に転がっていた。灯りの中には、小さな星形の穴が三つ開いている。
さっき広場で見たランタンと同じ模様だ。
yuuはランタンを拾い、広場へ戻った。
テーブルの上に並ぶ灯りをひとつずつ調べていく。
星形の穴が三つあるものは、全部で三つ。どれも観覧車の方角を向いていた。
最後のひとつを持ち上げたとき、底に小さな紙片が貼りついているのを見つけた。
——鍵は、なくした場所ではなく、落ちた先にある。
yuuは排水溝へ戻った。
ランタンの光を隙間へ差し込むと、底に銀色の鍵が光っていた。けれど、指は届かない。
少し考えてから、yuuは自分の髪に留めていた細い飾りピンを外した。ピンの先を曲げ、鍵の輪に引っかける。
何度か失敗した。鍵が滑り、あと少しのところでまた落ちる。
それでも、今度は手を止めなかった。
ようやく鍵を引き上げたとき、遠くで音楽が変わった。
遊園地のすべての灯りが、一斉に観覧車を照らし始めた。
yuuは改札へ走った。
今度はガラスの中央に、小さな鍵穴が浮かんでいた。
鍵を回す。
扉が開いた。
ゴンドラに乗り込むと、観覧車はゆっくりと動き始めた。下の景色が小さくなり、月が近づいてくる。
半分ほど上ったところで、向かい側の座席に人影が現れた。
黒いシルクハット。銀の刺繍が施されたコート。顔は月明かりに隠れてよく見えない。

「やっと来てくれた」
聞き覚えのある声だった。
広場で聞いた、あの声。
「あなたが、私を呼んだの?」
相手は頷いた。
「そう。でも、君が来るかどうかは分からなかった」
「どうして私なの?」
彼は少しだけ笑った。
「この遊園地はね、会いたい人がいる者にしか見えないんだ。誰かに会いたいと願って、ここまで歩いてきた人だけが、最後のゴンドラに乗れる」
yuuは窓の外を見た。
広場の灯りが、星屑のように遠ざかっている。
「あなたも、誰かに会いたかったの?」
「うん」
彼は膝の上で手を組んだ。
「ずっと待っていたんだ。でも、待っているだけじゃ、誰にも会えないって、今夜ようやく分かった」
「……それで、私を呼んだの?」
「君が自分で探しに来てくれたから」
観覧車が頂上に達した。
月が、ふたりの間を白く照らす。
彼は帽子を取った。そこにいたのは、透き通るような肌と、少し寂しそうな瞳を持つ青年だった。輪郭は淡く、身体の向こうに夜空が透けて見える。

「僕は、この遊園地の最後の招待客なんだ」
彼の声が、少しずつ小さくなる。
「朝が来たら、ここは消える。僕も一緒に」
yuuは思わず身を乗り出した。
「じゃあ、どうしたらいいの?」
青年は首を横に振った。
「もう、君が来てくれた。それだけで十分なんだ」
その言葉が、なぜか嫌だった。
会いたかった誰かにようやく出会えたのに、出会った瞬間から別れを受け入れなければならないなんて。
yuuは、彼の手を取ろうとした。
指先は冷たい霧をすり抜けた。
もう一度。今度は両手で包むように。
やはり、触れられない。
青年は困ったように笑った。
「無理だよ。僕はもう、この世界の人間じゃないから」
yuuは手を引っ込めた。
そして、しばらく考えたあと、彼の帽子を指さした。
「それ、貸して」
「え?」
「いいから」
青年が戸惑いながら帽子を差し出す。yuuはその帽子を自分の膝に置き、髪から外した飾りピンをそっと留めた。
「これ、私の大事なものなの。今夜、鍵を拾うために使った」
「でも……」
「返してもらいに来るから」
青年は目を見開いた。
yuuは、まっすぐ彼を見た。
「あなたが待っているだけじゃ会えなかったように、私も一度会えただけで終わりにしたくない。だから、次は私があなたを探す」
その瞬間、帽子に留めた飾りピンが淡く光った。
青年の輪郭に、少しだけ色が戻る。
彼は自分の手を見つめた。指先が、今度ははっきりと形を持っている。
「……本当に?」
「うん。約束する」
観覧車がゆっくりと下降し始めた。
地上へ戻る頃には、遊園地の灯りは消えかけていた。青年はyuuの隣に立ち、もう一度帽子をかぶった。飾りピンは、そのまま胸元に留めている。

ゲートの向こうには、夜明け前の静かな街が広がっていた。
青年は一歩、外へ踏み出した。
消えなかった。
彼自身も、それに気づいて驚いていた。
「僕……まだ、ここにいる」
yuuは笑った。
「じゃあ、これから一緒に探そう。あなたが帰れる場所も、私がまたあなたに会える方法も」
遠くで、最後の鐘が鳴った。
遊園地のゲートが閉じる直前、あの声が頭上から降ってきた。
今度は、弾むような大声ではなかった。
「来てくれて、ありがとう。次は、僕から君を迎えに行くよ」
yuuは振り返った。
ゲートの向こうで、メリーゴーラウンドが一度だけ回った。
そして、朝の光が差し込む頃。
yuuの手の中には、銀色の鍵が残っていた。
鍵の持ち手には、小さな星が刻まれている。
その星の隣に、いつの間にか文字が増えていた。
——次の満月に。
yuuは鍵を握りしめ、空を見上げた。
今度は、自分が待つ番だった。

今回はきゅうりさんのプロンプトをお借りして遊びました。
ありがとうございます😊