
【小説】クレープ屋の恋
竹下通りから一本入った路地裏のクレープ屋のテラス席で、二人は並んで座っていた。香ばしい生地の香りと、甘い生クリームの匂いが風に乗って漂ってくる。手に持ったクレープの温もりが、肌寒い午後の空気に心地よかった。
あみだくじで決めた前回の旅行計画のメモをスマホの画面に映しながら、彼女がくすっと笑った。
「ねえ、本当にオーストラリアに行けるのかな。」
「大丈夫だよ。ただの妄想で終わらせるつもりはないから。」
彼はそう言うと、画面を切り替えてひとつの株価チャートを見せた。そこには「京セラ」という文字と、右肩上がりのグラフが表示されている。

「日本航空じゃないの?」
彼女が不思議そうに首をかしげる。
彼はお気に入りのクレープをひとくち口にしてから、静かに語り始めた。
「日本航空を劇的に再建させたのは、京セラの創業者である稲盛和夫さんの経営哲学なんだ。単に利益を追うマネーゲームではなく、全従業員の幸せを願う誠実な考え方に惹かれたんだよ。」
「そうなんだ。」
「僕たちがオーストラリアのシドニー市内に『ボンダイビーチ』という名前のエステ店を持つ夢のために、まずは現地視察をする旅費を、この京セラの株価が支えてくれている状態なんだ。」
「それで」
「だから、温かくて誠実なこの会社の成長と一緒に、僕たちの夢も育ててきたんだよ。」
彼女の瞳が小さく見開かれ、すぐに柔らかい笑顔へと変わった。
「まずは東京からシドニーまでの往復航空券代だね。今なら二人で約30万円かな。」
「うん。」
「京セラ株の成長でその資金を作って、さらにその先にあるシドニーでのエステ店『ボンダイビーチ』の開業資金につなげていくんだ。」
クレープを食べながら、二人はスマホの画面上で株価のニュースや業績の数値を覗き込んだ。
真面目なお金の話のはずなのに、未来の夢と結びついているからか、会話はどこまでも弾んだ。
二人のあいだに流れる時間は、これまで以上に濃密で温かいものになっていく。
「もし、さらに10万円の利益が出たら、飛行機の席をちょっとだけ豪華にしようか。」
「さらに50万円増えたら、エステ店の看板を最高のデザインにしよう。」
彼女が楽しそうに提案すると、彼も笑顔で頷いた。稲盛さんの言葉をひとつメモ帳に書き写し、自分たちの店の接客方針にどう活かすかを語り合う時間は、お互いの人柄や誠実さを深く知る特別なひとときとなっていた。
スマホのメモ帳には、今日の日付とともに、京セラの株価が4000円で上値を抑えられている状況での対応策と目標株価、そして今、早めに売却する場合の利益額が記されていた。
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※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。この小説はフィクションです。