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読み切り恋愛短編集【れれこい】 11.インソムニア 803

    読み切り恋愛短編集【れれこい】

    ※読み切りですが、関連のある章には同じヘッダー画像を使用していますので、ご参考になさってください



    第12話 インソムニア


     「あ、また忘れるところだった」
    やれやれと思いながら起き出して睡眠導入剤を服む。
    いい加減に覚えろよ、と麻子は思う。
    服んでもなかなか眠りは訪れないのだけれど。


     職場を退職した後、暫くのんびりするつもりで求職活動をしなかった前田麻子に
    「短期でいいから、旦那の事務所を手伝ってくれない?3ヶ月後には新入社員が入ってくるから」
    と元同僚が声をかけてきた。
     PCには休職中の丸2年間さわっていないし、元々得意ではないからオフィスワークは無理だと言ったけれど、決まったフォーマットに顧客からの情報を入力するだけ、スピードは求めない、3ヶ月だけという誘いに乗ってみた。
     自転車で通える近場というのも気楽そうだったから。


     出張で不在だった前田さんに初めて会ったのは、麻子が4回目に出勤した朝。
    チーフという肩書きは、他の社では何に当たるんだろう?
     「初めまして。前田さんっていうんですね。僕も前田です。失礼でなければ他のスタッフが呼んでるように下のお名前で呼んでもいいですか?」
    と挨拶をされて嫌な気がしなかった。
    何故かしら?
    清潔感かな?


     出張や外回りの多い前田さんとオフィス内で会う時間は短いけれど、日が経つにつれ出勤するのが楽しみになった。
    今日は会えた、今日は喋れたと、口には出さないけれどまるで恋する少女のよう。
     これではヒロニイに会いたくて学校に行っていた中学時代と同じじゃないの。
    まさか自分の中に、未だこんな気持ちが残っていたなんて驚いちゃう。
    心の中で想うだけなら、別にいいよね。
    誰にも迷惑をかけてないもの。

     昼食時は応接室で、他の女性スタッフと一緒にお弁当を食べる。
    3ヶ月限定なんだから仲良くなる必要はないと思っていたけれど、近場とはいえ自宅に帰るのは面倒だし、何より前田さんが戻ってくるかもしれないから。
     「ただいま戻りました」
    の声が聞こえるだけで嬉しい。
    初々しすぎる自分に、我ながら笑えちゃう。


     前田さんが麻子より5つ下でバツイチだということは、お昼休憩のときに教えてもらった。
    じゃあ不倫にはならないな、と安心した自分に
    「おいおい、何を考えてるんだか」
    とツッコミを入れる。
     今となっては、3ヶ月だけという期限が恨めしい。
    前田さんの気持ちが判らないのも悩ましい。
    「私もバツイチなんです。連絡先を交換しませんか?」
    なんて言える筈もないしね。
    前田さんから言ってくれないかしら?


     前の職場にいたときは激務だったから、眠れないのには苦労した。
    激務ゆえに却って、神経が休まらなかったのかもしれない。
    睡眠導入剤とのお付き合いは、休職してから。
     長女の由美なんかは帰宅したら家にいる間中、眠っているんだけど、あれも一種のストレス反応なのかな?
    そのくせ、休みの日には早朝から出かけて行く。
    早起きしてでも一緒に出かけたいお相手がいるのだとしたら、我が娘ながらちょっと羨ましい。


     スーパーのセルフレジであたふたしているご高齢のご夫婦を見て、素直にいいなぁと思う。
    クリニックの待合室で夫様のボヤキに面倒くさそうに返事している女性を見て、私には側にいてくれる人はいないんだよと寂しく思う。
     夫と離縁したときには、やれやれと肩の荷を降ろしたのに。
    恋愛も同居も結婚も、もう結構だと確かに思ったのに。


     勤務は後1ヶ月半で終了してしまう。
    延びてもいいよと思う。
    遅まきながら、スキンケアやメイクを頑張ろうと思う。
    髪の生え際をまめにリタッチしようと思う。
    若見えする格好をしようと思う、若作りではなくて。
     まるで親に隠れてキスミーのシャインリップを塗ってた、中学時代の私みたい。
    装うのは自分の為だけど、誰かがモチベーションになるなら、それもいいじゃない。


     今日は忘れずに睡眠導入剤を服んだ。
    でもきっと寝付けない。
    深呼吸を繰り返してみても、自分の心臓の音が大き過ぎるから。
    目を閉じても、瞼の裏に前田さんが現れるから。
     なのに夢には出てきてくれないんだよね。
    眠っても夢で会えないなら、眠れなくてもいいかとぐるぐると考えているうちに、1時間くらいは直ぐに過ぎてしまう。


     仕方がないから「夢で逢えたら」や「Love Love Love」の歌詞を思い浮かべてみる。
    目を閉じたまま声を出さずに、心臓の音をメトロノームにしてゆっくりと何度も歌ってみる。


    #夢で逢えたら #鈴木雅之 ⤵️

    #LoveLoveLove #DreamsComeTrue ⤵️




    後日譚⤵️


    (秋実あきざねれれ子)


    *****************

    ※創作です

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