
月、満ちて|#シロクマ文芸部
「月を見るのは15になってからね」
母の言の葉。
耳にこびりついて、いまだに離れない。
母は、頑なにわたしに月を見せてくれなかった。
どうして見ちゃ駄目なの?と一度母に尋ねたことがある。
母は困ったように、微笑んだ。
「……月が満ちてないのよ」
母はそれ以降、月について話すことはなかった。
15になる前の夜。
窓から煌々とした光が囁いていた。
唆されたわたしは、気づいたら外に出ていた。
空は真っ暗だった。
「おか…あ…さん…?」
異様な姿の母が振り返る。
悲しそうに目を伏せた。
「見てしまったのね」
母のお腹は、ほんのりと輝いていた。
まるで、空に浮かぶ、まんまるの満月を宿しているかのようだった。
「あなたに…満ちた月を見せてあげたかった」
「でも、もう無理ね」
ぽつりと、母の目から涙がこぼれた。
母のお腹は、もう光っていなかった。
その後、母は月を産むことはなかった。
ほどなくして、母は旅立っていった。
月も同じ頃、雲隠れした。
月を見ること。
わたしには無縁の世界となった。
夜空を見上げる。
星がきらきらと降り注ぐ。
やはり、月は見えなかった。
わたしの目から、満月のような涙が零れ落ちた。

小牧幸助さんの「月を見る」に参加させていただきました!