
コペルニクスのいたずら書き #シロクマ文芸部
(約1,000字)
月を見るカナヨの動きは、テーブルの下で両の足がぷらぷらして落ち着かない。手元のゲーム機には流行りのシールが貼られ、一緒にいる僕たちは期待の眼(まなこ)の真っ直ぐさに「愛らしい」では足りない感情を抱いていた
「お月さまではね、ウサギがお餅をついて私たちにお団子を食べさせる準備をしてるの。ちょっと遠いから、マッツンのととちゃんがお月さままでエレベーターを建てかけて、わたしを招待してくれるの。そしたらお月さまでマッツンとお団子たべるよ」
どうやらマッツンは同じ組の男の子らしい。マッツンのお父さんが宇宙開発の技術に関わる会社にいて、いずれ月までエレベーターで行けるという話をカナヨは信じて疑わない。月までのエレベーターは、柿の木に梯子を掛けるような単純な構想ではないが、カナヨのお団子はファンタジーと未来技術の夢がないまぜになっている
これは、現実的な修正が必要なのか・・・
僕は大人の常識をワクワクするカナヨの夢につまらない「正しさ」の枠を押し付けようとしていた
「お月さまの写真を撮っておこうか。カナヨンとお月さまのツーショット」
ゲーム機の裏にはキラキラの膨らんだウサギのシールが街灯に反射する。そのキャラクターシールが映えるように僕の手元のインスタントカメラに向かって、ニヤリと笑う4歳児がスポットライトが当たるみたいに闇を照らした
幾何学模様のブランケットを腕に掛けて、彼女がマグカップと水筒をトレーに乗せてきた。外国製の温かいココアが魔法瓶を満たす
「お団子は、お月さまで食べられるのかなぁ」
キリにはカナヨの可愛い夢を壊すことは出来ない。現実を知るのはカナヨのタイミングに任せたい。子どもの時間はずっと続かないことを知っている
「キリちゃんも、お団子食べるの連れてってあげるよ」
数秒、宙に視線を泳がすと、口を真一文字につぐむ意志が見てとれた
「マッツンは、あと10年くらいのしんぼうだって・・・キリちゃんも一緒に、ね」
こじんまりとしたプラスチックのカップを大事にする手にはココアの湯気が立ち上がる
インスタントカメラから静かに現れた画像は現実ほどの輝きは映らない
僕は、肉眼ほど綺麗に映らない月の上に黒マジックでウサギの輪郭を描いた
コペルニクスをバッテンにして、出臍は品がないと怒るだろう
カナヨの反応を楽しみにして、白い封筒に写真をしのばせた

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締切は9/30(水)23:59。作品には #シロクマ文芸部 を