
「なぜ」を何百回でも聞く。~起業家が何度でも立ち上がるための、最後のセーフティーネットをつくる~
自分は、経営者に「なぜ?」を問い続ける人です。
なぜ、この会社を始めたのか。
なぜ、この事業なのか。なぜ、あなたがやるのか。
一度聞いて終わりではありません。何十回でも、何百回でも聞く。
同じ問いでも、会社の状況や本人の経験によって、出てくる答えは変わるからです。
そして、自分がここまで「なぜ」にこだわるのには理由があります。
起業家にとって、一番深いところにあるセーフティーネットをつくりたい。
自分がCBOとしてやりたいことの根底には、ずっとこれがあります。
スタートアップは、何度でも壊れる
スタートアップをやっていれば、計画通りにいかないことの方が多い。
最初につくったプロダクトが売れない。想定していた顧客が欲しがってくれない。
採用した人が辞める。資金調達ができない。大切な仲間と意見が合わなくなる。昨日まで正しかった戦略が、環境が変わった瞬間に通用しなくなることもあります。
だから、スタートアップにはピボットという言葉がある。
「手段は、何度変えてもいい。」
プロダクトを変えていい。顧客を変えていい。ビジネスモデルを変えていい。場合によっては、会社の形そのものを変えてもいい。
自分と会社がまだ残っているなら、何度でもビルドし直せる。
自分はそう思っています。
でも「なぜ」が消えたら、つくり直せない
一方で、簡単には失ってはいけないものもある。
それが、「なぜ、自分はこれをやっているのか」です。
プロダクトがなくなっても、つくり直せる。事業計画が崩れても、書き直せる。Webサイトもロゴも組織図も、必要なら全部変えればいい。
でも、「そもそも、なんで自分はこんなことをやっているんだろう」となった瞬間、起業家は前に進む理由そのものを失ってしまう。
自分が怖いのは、事業が失敗することではありません。
起業家自身が、自分のWHYを見失うことです。
事業が壊れることと、起業家の心が折れることは違う。
事業ならつくり直せる。でも、つくり直す理由がなくなったら、本当に終わってしまう。
WHYは、順調な時のためにあるのではない
会社のWHYや理念というと、Webサイトや採用資料に載せる言葉だと思われることがあります。
もちろん、それも大切です。でも、自分にとって一番重要な役割はそこではありません。
WHYは、会社が一番苦しい時に使うものです。
売上が落ちた時。事業がうまくいかなかった時。仲間が離れた時。
何をやっても正解が見えなくなった時に、戻ってこられる場所。
「でも、自分はこれをやりたかったんだ」と思い出せる。
それがWHY(原体験)だと思っています。
だから、会社が順調な時にこそ、何度も掘っておく。
何に怒っていたのか。誰を助けたかったのか。何を変えたかったのか。
未来で迷った自分が戻ってこられるように、原点に杭を打っておく。
それが原体験を掘る意味の一つです。
原体験は、過去の話ではない
自分は「原体験ドリブン」という考え方をずっとやっています。
でも原体験は、単に子どもの頃の思い出を聞くことではありません。
何に違和感を感じるのか。何を見ると放っておけないのか。
どんな人を見ると応援したくなり、何を絶対に許せないのか。
そこまで掘っていくと、その人固有の価値観や判断基準が見えてくる。
だから原体験は、過去を懐かしむためのものではありません。
過去を説明するためではなく、未来を選択するために原体験を使う。
自分にとって「原体験ドリブン」は、そのための考え方です。
WHYがあるから、HOWを変えられる
WHYを大切にすると、「最初に決めたことを変えてはいけない」と思われることがあります。
自分は、むしろ逆だと思っています。
WHYがあるから、HOWを大胆に変えられる。
「ピボット」の語源はバスケの軸足を変えずに方向転換することを言う。ここでいう軸足はなぜである。むしろなぜがなく変えてしまったら、それはトラベリングになり、迷走や暴走になってしまう。
自分たちが本当に実現したいことが分かっていれば、そのための手段には執着しなくていい。
商品も市場も組織も、必要なら変えればいい。
「この事業を守らなければ」ではなく、
「このWHYを実現するために、今は何をすべきか」と考えられる。
ブランドも同じです。社会も、顧客も、会社も、人も変わり続ける。
だから表現や事業も、常に変わっていい。
ただし、変化するたびに原点へ戻る。
原点に戻る → 変わる → また戻る。その繰り返しがブランドを強くする。
CBOは「きれいにする人」ではない
だから自分が考えるCBOは、ロゴをつくったり、会社を格好よく見せたりするだけの人ではありません。
ビジュアルも言葉も顧客体験も重要ですが、それらはすべて表層に現れた結果です。一番深いところには、「この会社は、なぜ存在するのか」がある。
そこからVISION、事業、組織、商品、デザイン、コミュニケーション、顧客体験までつなげていく。
自分がCBOとしてやりたいのは、その一貫性をつくることです。
そして、もっと深いところでは、
経営者が迷った時に、一緒に原点まで戻れる人でいること。
自分にとってCBOは、ブランドをつくる人であると同時に、
その会社が戻ってこられる場所を守る人でもあります。
AI時代だからこそ、「なぜ」はもっと重要になる
最近、この考え方はAIともつながってきました。
AIはHOWを猛烈な速度で民主化=陳腐化しています。
文章を書く。デザインする。コードを書く。調査する。分析する。
以前なら専門家に頼んでいたことを、一人でもかなりできるようになってきました。
だからこそ、これから価値が上がるのは、
「どうやるか」より「なぜやるか」だと思っています。
AIが100通りのHOWを出してくれるなら、人間に残るのは、何を選び、何を捨てるか。
どこへ向かい、なぜそこへ向かいたいのかという判断です。
WHYが弱ければ、選択肢が増えるほど迷う。
WHYが強ければ、迷いなく進める、迷っても途中のセーブポイントがあるから、リカバリーの時間も早くなり、AIはその実現速度を何倍にもしてくれる。
一番深い場所にある、経営者のセーフティーネット
資金があれば会社は延命できる。優秀な人材がいれば、事業を前に進められる。
良いプロダクトがあれば、顧客を増やせるかもしれない。
でも、それらを全部失った時。
最後にもう一度立ち上がれるかどうかを決めるものは何なのか。
自分は、「それでも、なぜ自分はこれをやりたいのか」だと思っています。
だから自分は、何百回でも「なぜ?」と聞く。
順調な時にも、迷っている時にも、うまくいかなくなった時には、もっと聞く。
その人の一番深いところにある原点を、一緒に探す。
そして何かあった時に、「ここから、もう一度つくろう」言える場所を残しておく。
ブランドをつくる人というより、ブランドが壊れても、事業が変わっても、
もう一度始められる原点を守る人。
自分はこれからも、
「なぜを問い続ける人」であり続けたいと思っています。