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悪に優しきこの国で −裁かれぬ悪と、救われる悪−【第3話】服役後の褒美

    俺の名は小谷修吾おたりしゅうご。44歳。20歳の時、強盗で捕まり、20年服役していた。学生時代から不良仲間と悪さを繰り返し、年少にも入ったが、更生プログラムだとかで、すぐに出所したよ。

    学校は退学させられ、俺は半グレ生活に染まった。
    あとは強盗を繰り返して、大金を手にし続けた。貧乏育ちだったからか、いつかは『金きん』に囲まれた生活をしたくて、奪った金は『金』のインゴットに変えていた。

    紙は腐るが『金』は腐らねぇ。あの重みは本物だ。

    2000年代初頭。『金』は1000円/g 程度だったから、10kg 位はすぐに手に入ったさ。年寄りって〜のは、何であんなにタンス預金してるんだろうね。金は生きてる内に有効に使ってこそ、その価値があるのにさ。

    だけど、ある日ヘマをして警察に目をつけられてしまった。逃亡したとしても、逃げ切れるとは思えない。それより『金』を隠した方が賢明だと俺は考えた。

    一発勝負に賭けたとしてもどうせ│泡銭《あぶくぜに》だ、損はねぇ。万が一隠し通せたら、出所後の生活は│安泰《あんたい》だしな。

    俺は実家の畑にある代々の墓の中に『金』を隠した。この辺りは洪水も土砂崩れも心配はない。両親はまだ草臥くたびれる年じゃねえからいちいち墓を開ける事もねぇはずだ。

    まあ、万が一に備えて、餓鬼の頃に遊んだ里山にも分散したがな。

    案の定、俺はすぐに捕まった。殺人は犯していなかったが、ババアに怪我をさせたのがマズかったな。後遺症が残ったらしく、情状酌量も微々たるもんだった。

    まあ、年少時代から慣れてるから務所は苦痛じゃねぇし、なんか知らね〜が、『服役囚にも人権を』とかなんとかで弁護士が勝手に騒ぎ立てて、刑務官もだんだん優しくなるしよ。20年なんてあっと言う間だった。

    出所後、俺はあの墓を確認した。金きんはしっかりあった。調べてみりゃ〜『金』が10倍に跳ね上がっているじゃね〜か。確かに一部の物価は上がってるが、失われた何十年だっけ? 高度成長期やバブル時みたいな高騰はしてね〜から、金の価値はそのまんまの価値だよな。

    俺は何もしてねぇ。『金』が勝手に爆上がりしただけだ。他人から奪った金で、これからの人生豪遊できるかもな。……まあ、たかが億、豪遊には足りねぇか。
    とりあえず、暫くは遊んで暮らすよ。20年か……服役してなかったら途中で捌さばいちまったかもしれねぇから、俺にとっちゃありがたい時間だったな。

    ああ、あのババアか? 数年後、寝たきりになっておっ死んじまったって聞いたけどな。もう10年も前の話だ、詳しいこたぁわからねぇよ。

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    ​【以下法律的解説として】

    ​本作品において、主人公・小谷修吾が「奪った金で高笑いできる」背景には、日本の法律(刑事法・民事法)における決定的な構造と限界が存在します。

    ​1. 刑事上の責任(刑期満了による完全な服役)

    ​修吾は懲役20年の判決を受け、これを全期服役して出所しました。日本の刑罰制度において、服役を終えた者は「罪を償った(刑の執行が終了した)」とみなされるため、過去の同じ事件で再び逮捕・処罰されることはありません(一事不再理の原則)。

    ​2. 民事上の「損害賠償請求権」の壁(20年の壁)

    ​被害者が奪われたお目当ての金品や損害賠償を取り戻す場合、民法上の「不法行為による損害賠償請求権」を行使する必要があります。

    しかし、民法第724条には以下の規定があります。

    • ​被害者または法定代理人が損害及び加害者を知った時から「3年間」行使しないとき

    • ​不法行為の時から「20年間」行使しないとき(除斥期間・消滅時効)

    ​修吾が20年間刑務所にいたことで、事件発生から20年が経過し、民事上の賠償請求権は時効により完全に消滅しています。仮に被害者が修吾の金の隠し場所を突き止めたとしても、法的に賠償を強制することが極めて困難な状態に陥ります。

    ​3. 「金(ゴールド)」という資産の匿名性

    ​銀行口座や株式と異なり、現物の「金インゴット」や「現金」は個人の所有権を示すデータが金融機関に残りません。さらに、近年の世界的なインフレと金相場の高騰(2000年代初頭の約1,000円/gから2020年代には10,000円/g超へと10倍以上に跳ね上がり)により、犯罪によって得た不正な資金が、服役している「時間」そのものによって巨額の含み益を生むという皮肉な現象が発生します。

    ​4. 法の限界と「逃げ得」の現実

    ​「罪を犯しても、時間を稼ぎ、現物で隠し通せば勝てる」。

    この物語はフィクションですが、厳格な法治国家のルール(時効・刑罰の終了・所有権の立証責任)が、結果として被害者の救済よりも「悪党の完全逃げ得」を成立させてしまうという、現行法制度の不条理な側面を浮き彫りにしています。


    本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
    著作権は著者に帰属します。無断転載・複製を禁じます。


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    noteに登録したのは、2025年1月です。 主に手がけているのは短編小説です。人間の機微を描く『恋愛』『不倫』、思考を揺さぶる『社会派』、想像力を広げる『ファンタジー』など、ジャンルにとらわれず多岐にわたるテーマを描いています。

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