
悪に優しきこの国で −裁かれぬ悪と、救われる悪−【第2話】騙す奴ら
俺の名は新冠宏斗。30歳。半グレを仕切って、今まさに詐欺の真っ最中なんだ。
詐欺メールに騙されて個人情報を入力する阿呆は絶えないし、テレビや警察があれ程注意したって、電話の向こうで煽れば、慌てるのが人間の性。騙されない奴らなんか存在しないのさ。
俺たちは毎晩他人の金で豪遊してる。
そんな俺たちに吸い寄せられる女も多い。俺たちはただの詐欺グループじゃなく、会社を設立した立派な社長って訳。
女たちには店を任せて、真っ当に稼がせ、まあ、裏では薬も売り捌いているから、配下の人数なんか分からね〜けど、毎月の売り上げは莫大な金額になるね。
もっとも稼ぎ頭は詐欺だけどな。
最近じゃ闇バイトに食いつくアホもいるから、俺たちは何もしなくていいんだ。実行犯は奴ら! 俺たちは知らぬ存ぜぬで、売り上げだけ懐に入るって流れが出来ちまっている。
女の中にはもっと稼ぎたい奴もいて、そいつには若い兄ちゃんへのハニトラや、ジジイとの模擬恋愛で金を毟らせてるけど、俺からの指示はない。万が一の時、誤魔化せないからな。
俺たちは常に赤の他人同士の関係なんだよ。まあ、仮にチクりやがったら、それがこの世との別れの挨拶になるだけだがな。
毎日豪遊したって使い切れない金があとからあとから補充されるんだ。
金は動いてこそ経済が回る。俺たちは社会貢献している、一般市民。例えそれがペーパーカンパニーだとしても、海外からの腹黒いペーパーカンパニーに比べりゃ可愛いもんだけどな。
だから俺たちは捕まらない。切れる尻尾はいくらでもあるんだ。
俺たちは今日も騙される側から金を奪う。捕まらなければ無罪なのさ。

【以下法律的解説として】
本作品において、主人公・新冠宏斗が「自分たちは捕まらない」「切れる尻尾はいくらでもある」と高笑いする背景には、現代の組織犯罪に対する現行法および捜査上の決定的な壁が存在します。
1. 共謀共同正犯(指揮役・指示役)の立件の難しさ
刑法上、直接手を下していない首謀者・指示役を処罰するには「共謀(意思の連絡と指揮命令関係)」を裁判で証明しなければなりません。
作中の宏斗のように、テレグラム等の秘匿性の高い通信アプリを使用し、指示を口頭や間接的な表現に留め、闇バイトなどの実行犯と「赤の他人」の関係を維持された場合、実行犯が捕まっても「指示役の特定」や「共謀の立件」に至らないケースが多発しています。
2. 「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」と組織犯罪処罰法の限界
従来の暴力団のような固定的な上下関係や代紋が存在せず、ネットを介して流動的に結成・分散を繰り返す現代の犯罪組織に対しては、従来の「組織犯罪処罰法」の要件(継続的な組織性)を当てはめることが困難な場合があります。資金の流れ(マネーロンダリング)もペーパーカンパニーや暗号資産を経由することで足取りが追いにくくなっています。
3. 被害回復の絶望的困難(被害者の権利の形骸化)
詐欺被害に遭った被害者が民事訴訟で勝訴したとしても、押収された資産がペーパーカンパニーや海外口座、暗号資産に隠蔽されている場合、差し押さえるべき「実体資産」が存在しません。結果として、「裁判には勝ったが、1円も手元に戻ってこない」という不条理な事態が横行しています。
4. 「捕まらなければ無罪」という現実の不条理
「指示役まで捜査の手が届かない」「奪われた資産が返ってこない」という現行法制度の隙間を突き、末端の実行犯だけを切り捨てながら肥え太る現代の犯罪組織。
本作品は、法治国家における「立証責任の壁」と「匿名型犯罪」が組み合わさった時に生じる、極めて理不尽で胸糞悪い社会の暗部を描き出しています。
本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
著作権は著者に帰属します。無断転載・複製を禁じます。
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