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悪に優しきこの国で −裁かれぬ悪と、救われる悪−【第8話】犯罪加害者の家族

    私の名は小谷耕造おたりこうぞう、46歳。先日、強盗傷害で捕まった息子、小谷修吾おたりしゅうごの父親です。

    ​息子は学生時代から悪さばかりをして、周囲に迷惑を掛け続けてきました。

    親の育て方が悪かったと言われればそれまでですが、犯罪を犯した時には成人した一人の大人です。 正直なところ、家を出た大人の行動まで管理することなんて不可能です。

    ​それでも、世間的には「親が謝罪するのが当然」という風潮があります。妻は心労で憔悴し、マスコミの前で涙を流しながら土下座をして謝り続けていました。

    連日のマスコミ報道によって一気に噂が広まり、田舎のこの地域では、もはやまともに外を歩くことすら難しくなりました。 ​唯一の救いは、息子に子供がいなかったことです。もし結婚して子供がいたとしたら……。

    学校では凄まじい「いじめ」の標的になっていたでしょうし、離婚して苗字を変え、転校を余儀なくされていたかもしれません。親の目が届かない学校という場所では、子供を庇うことも助けることもできませんから。

    ​確かに息子は重大な罪を犯しました。被害者の方に怪我を負わせてしまいました。

    ですが、何も知らなかった家族が、なぜここまで責め立てられ、迫害されなければならないのでしょうか? マスコミの過熱報道なのか。コメンテーターの勝手な推測なのか。どちらにしても、私たちの知らない話が、あたかも知っていたかのように話され、私たちは更に追い詰められています。

    ​それでも、私たちに行く当てはありません。 世間の冷ややかな目に耐えながら、先祖代々の畑を守り、身を潜めて暮らしていくしかないのです。 息子が罪を償い、出所してくる日まで……。

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    ​【以下法律的解説として】

    ​本話で描かれた加害者父親の独白は、刑事責任を超えて加害者家族へ波及する「連座制なき社会的制裁」と「プライバシー侵害・二次被害」の深刻な不条理を浮き彫りにしている。 ​

    1. 近代法における「自己責任原則」と連座制の否定
    日本の法制度(刑法)は「個人の自己責任原則」に基づいており、成人の子が起こした犯罪について、原則として親や家族が法的責任(刑事罰や民事上の賠償責任)を負うことはない。 しかし現実の社会や過熱するマスコミ報道・SNS上の拡散においては、「親の道義的責任」や「連座(身内同罪)」を追求するバッシングが横行する。法的責任が存在しないにもかかわらず、社会的・経済的死を強制されるという法と世間のギャップが存在する。 ​

    2. 報道の自由と「連座的プライバシー侵害」の限界
    憲法21条が保障する「表現の自由・報道の自由」に基づき、重大犯罪(強盗傷害等)における容疑者の実名や背景報道は広く認められている。 しかし、その副産物として無関係な家族の実名、自宅、実家の場所、職業などがネット上で特定・拡散(晒し上げ)されるケースが絶えない。名誉毀損やプライバシー侵害として法的措置(損害賠償請求等)をとることは可能だが、一度拡散された情報の完全削除は極めて困難であり、被害を受けた家族は「引っ越しや改姓(名前変更)」を余儀なくされる。 ​

    3. 加害者家族支援の制度的空白
    司法や行政の枠組みにおいて、犯罪被害者への支援体制の整備(被害者等支援法など)が進められる一方、「犯罪者の家族」に対する公的な保護・支援プログラムはほぼ存在しない。 加害者の子供に対する学校での嫌がらせやいじめ、地域社会からの集団的排除(村八分)に対し、国家が積極的に介入して保護する法制度は整備されておらず、結果として「罪のない家族が社会的迫害に耐え続ける」というもう一つの不条理構造が放置されている。 ​法の原則では「罪は犯した個人のもの」とされながらも、実社会では「家族全員の連帯責任」として私刑が下される。 加害者家族が背負わされるこの果てしない罰もまた、法の理屈では救えない現代社会の歪みそのものである。


    本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
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    noteに登録したのは、2025年1月です。 主に手がけているのは短編小説です。人間の機微を描く『恋愛』『不倫』、思考を揺さぶる『社会派』、想像力を広げる『ファンタジー』など、ジャンルにとらわれず多岐にわたるテーマを描いています。

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