
鹿の魔導士#7 小さな三人と、風と蜜の家
★鹿の魔導士#7 小さな三人と、風と蜜の家
原作・絵 ちろ/原作・文 スピカ
ミツバチの魔女に導かれ辿り着いた先は、一面に色鮮やかな花々が咲き誇る「花の街」だった。甘く優しい香りを乗せた風が吹き抜け、どこを見渡しても見たこともない美しい花々が咲き乱れていた。
街を見下ろす丘の頂上。色とりどりの花畑の真ん中にたたずむ小さく可愛らしい家が、ミツバチの魔女の住処だった。

ギィと木枠の扉を開けた瞬間、足元でもぞもぞと小さな影が動いた。
「この子はカメ。あたしの弟子だよ。仲良くしておくれ」

そこには、のんびりとした瞳で見上げてくる小さなカメがいた。こうして、身寄りのなかったヒキガエルの少女の新しく賑やかな生活が始まった。
ミツバチの魔女のもとで始まった魔法の修業。
「魔法っていうのは、力任せに振るうもんじゃない。こうなりたいと強く願うことなんだ。あんたの髪はただの髪じゃない。髪の毛の一本一本で風を感じ、世界と一緒に呼吸をする……そんな感覚さ」
三つ編みをほどき、少女は髪に神経を集中させた。風の動きを感じ、空気に溶け込むイメージを重ねた。けれど、そう上手くはいかなかった。強く願いすぎて髪が逆立ってしまったり、風を捉えきれずに転んでしまったりする日々だった。
実は、先輩弟子であるカメもまた、魔法があまり上手く使えずに悩んでいた。小さな手足を懸命に動かしても、甲羅がほんの少し光るくらいで、なかなか思った通りの魔法にならないのだった。
「ねぇ、夜になったらこっそり練習してみない?」
いつからか少女とカメは、ミツバチの魔女が眠りについたあと、月明かりの下で秘密の特訓を始めるようになった。
「こうやって風を感じて……」「うーん、こうかな?」

少女が髪をふわりとなびかせれば、カメも負けじと甲羅を輝かせようと踏ん張った。お互いの失敗を見てはくすくすと笑い合い、上手くいかないもどかしさを分かち合う時間は、二人にとって特別な絆を育むものとなっていった。
もちろん修業ばかりではなく、日中の楽しみにしていたのは晴れた日のお出かけ、ピクニックだった。
三人で街を一望できる絶景の丘へ出かけ、シートを広げた。ミツバチの魔女が作ってくれた特製のハニートーストを頬張った。
サクッとしたパンの食感と、口いっぱいに広がる濃厚な蜜の甘み。それだけで、夜の特訓の疲れも、失敗した悔しさもどこかへ吹き飛んでしまった。
笑い合い、時に励まし合いながら。ミツバチとカメとヒキガエル。少し変わった三人組の、穏やかで温かな日々が過ぎていった。

続く…
👆前回までのお話はこちらからどうぞ!
★前回に引き続き、ヒキガエルの魔女(500歳)の過去のお話でした。