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過ぎたるは猶及ばざるがごとし

    てい(橋本愛)と柴野栗山(嶋田久作)の論語バトルは圧巻でした。

    相手が儒学者なだけに、ていはお得意の教養で攻めまくります。

    「女郎は親兄弟を助けるために売られてくる孝の者。
    不遇な孝の者を助くるは正しきこと。
    どうか、儒の道に損なわぬお裁きを願い出る次第です。」

    夫・蔦重は「孝行者の女郎たちを助けるのは正しいことだ」とキッパリ締めくくり、まさに名演説でした。

    「ああ言えばこう言う」という点では、無鉄砲な蔦重(横浜流星)と似た者同士とも言えますね。
    とはいえこの場合、こうするしかなかったのでしょう。
    相手が儒学者なら儒学で攻めるで見事に納得させてしまいました。

    栗山はてい●●の主張を認め、「厳罰は回避するべきだ」と定信に助言。
    知性だけでなく、とんでもない度胸も併せ持つてい●●は、まさしく蔦重の妻として、これほど相応しい人はいないでしょう。

    これまで蔦屋重三郎を描いた映画やドラマでは、妻が注目されることはほとんどなく、従順な女性という印象で描かれがちでした。
    「なぜ蔦重は彼女を妻に選んだのか?」という疑問を抱いていた方も多いと思いますが、今回のてい●●の設定は、その答えを見せてくれるものでした。

    話を盛っているとしても、このてい●●の人物像には、ある種の“スッキリ感”がありました。

    ~過ぎたるは猶なお及ばざるがごとし~

    古代中国の思想家・孔子の言葉で、その意味は「過剰も不足にも偏らず、中正こそ望ましい」というもの。

    厳罰ではなく「身上半減」の判決で済んだのは、てい●●の懸命な訴えが功を奏した結果です。


    執念か、我が儘か

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    「以後は心を入れ替え、真に世のためとなる本を出すことを望んでの沙汰である」

    奉行所からそう伝えられると、蔦重の減らず口●●●●がまた発動します。

    「真に世のため。それが難しい。どうでしょう、真に世のためとは何かを、お奉行様、いちど膝を詰めて……」

    語り合いたいとでも言いたかったのでしょう。
    しかし、てい●●はすかさず走り寄り、「おのれの考えばかり…べらぼう!」と夫を殴りつけます。
    その様子に一同は唖然、場が凍りつきました。

    まったく蔦重は、その口●のせいで、かつては養父の駿河屋(高橋克己)にもよく殴られていましたね。
    つくづく懲りない男です。

    闇堕ちした蔦重

    春町(岡山天音)が自刃し、他の戯作者たちも次々と蔦重のもとを去る中、北尾政演まさのぶ(古川雄大)が他所で心学の本を書いたことで、蔦重は激怒します。
    その時、政演は「二度と蔦重には作品を提供しない」と言い放ちました。

    この時、「蔦重は変わってしまった」と感じた視聴者も多かったでしょう。
    かつては広い視野を持ち、どんなピンチにも臨機応変に対応してきた彼が、思い通りにならない相手を罵倒するなど、これまでにはなかった姿でした。

    奉行所でのやり取りも、まさにその悪い面が露見したもの。
    てい●●が止めなければ、事態はさらに悪化していたでしょう。

    自分の言動がどれだけ周囲を困らせているか、まったくわかっていない。
    「そういうところですよ、蔦屋さん」と鶴屋(風間俊介)に言われた通りです。
    本人は気が済むのかもしれませんが、巻き添えを食らう人間はたまったものではありません。

    「片寄りのない中正を心がけるべきはあなたです!」
    てい●●をはじめ、周囲の誰もがそう思ったはずです。

    もっと空気を読み、忖度も考えるべき。これでは単なる我儘です。
    北尾政演まさのぶ(山東京伝)が受けた「手鎖50日」という刑のほうが、むしろ厳しいのではないかと感じます。

    定信をお白州に登場させたわけ

    まず言っておきますが、老中首座という最高権力者・松平定信が、庶民の蔦重を直接裁くなど、実際にはありえない設定です。

    それでも登場させた。

    これは非常に巧みな創作であり、「表現の自由」と「権力による抑圧」という相反するテーマを象徴的に描いた重要なシーンでした。
    同時に、定信が「寛政の改革」を断固推し進める意志を示し、蔦重との対立を明確にする演出でもあります。

    とはいえ、定信も文芸を愛する一人の人間。
    ベストセラーを連発する版元・蔦重がどんな人物か、実際に会ってみたいという好奇心もあったでしょう。
    リスペクトしていた人物を裁かねばならないという、その複雑な心中がうかがえます。

    「有罪」と断定されたあとの蔦重の減らず口●●●●には、呆れると同時に、勇気を超えた“執念”すら感じられました。

    前回取り上げた、
    白河の 清きに魚も 棲みかねて もとの濁りの 田沼恋しき
    を、面と向かって言ってのけるのですから、大した度胸です。

    さらには、

    「反省はしない。これからも自分が良いと信じる本を世に問う」
    とまで言ってのけるのですから、定信の怒りはマックスに達したはずです。

    それを、てい●●との論語バトルを経た栗山の助言で「身上半減」で済んだのですから、ある意味、強運の男です。
    しかも釈放されてすぐ、「身上半減ノ店」という看板を掲げて人々を呼び込むのですから、反省などまるでなく、むしろご公儀をからかっています(笑)。

    ※確証はありませんが、「身上半減」の“身上”とは年収を指し、“全財産”を意味する「身代」ではありません。
    年収の半分を没収されたという説が本当なら、蔦重があそこまで強気だった理由もわかります。


    束の間だった歌麿の幸福

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    一方、歌麿(染谷将太)は妻・きよの死を受け入れられず、腐乱し始めた遺体に寄り添い、なお絵を描き続けています。

    その様子を見た蔦重の言葉には、思わずギョッとしました。

    「お前は鬼の子なんだ! 生き残って命描くんだ! それが俺たちの天命なんだよ!」

    「今それを言う?」と思いましたが、歌麿に現実を突きつけ、正気に戻らせるため、歌麿の心の傷ともいえる実母の言葉をあえて引用したのかもしれません。
    怒りのやり場を失った歌麿は、蔦重の背中を殴り続け、その後、彼に心を閉ざしてしまいます。

    これは今後の展開への伏線でしょう。
    蔦重と距離を置くようになった理由を、感情的にも象徴的にも表現した重要な場面でした。

    唐丸時代からの二人の歩みを思うと、視聴者としても切なさが拭えません。

    絵師と版元

    今後、歌麿は「大首絵」として女性の上半身をアップで描いた作品を発表し、大ヒットを飛ばします。
    二人は「売れっ子絵師」と「名版元」という関係に変化していく中で、その心の距離の変化にも注目したいところです。

    次回の予告では、北斎(くっきー!)や、「里見八犬伝」の著者・後の曲亭馬琴=滝沢瑣吉さきち(津田健次郎)も登場します。

    そして、肝心の「写楽」。
    キャストがまだ未発表なのを見ると、すでに登場している人物の中にいるのかもしれません。
    写楽の登場こそ、最も劇的でショッキングな瞬間になりそうです。
    ますます名版元としての蔦重の腕の見せ所が続くでしょう。

    その後、蔦重も病に倒れ、かつての威勢を失っていくことになります。
    その人生の浮き沈みを、横浜流星さんがどう演じ分けるのか、ぜひ注目したいところです。

     
     
    エッセイスト (主に読書、歴史に関して書いています。 1961年生まれ大阪府出身。読書好き。歴史好き。ハンドメイド好き。妄想好き。 著書「レキジョークル奥の枝道」シリーズ7冊目をただいま執筆中。<https://amzn.to/3vgIGz9>

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