なぜMarshall 1912なのか。アンプの違いを記録するために、キャビネットを固定する
ギターアンプの音を記録するとき、キャビネットを無視することはできない。
同じアンプでも、接続するキャビネットとスピーカーが変われば、音の輪郭は大きく変わる。
低域の量感も、中域の押し出し方も、高域の硬さも変わる。
マイクを立てる位置を少し動かすだけでも、結果は変化する。
そのため、異なるアンプを比較するときには、基準となるキャビネットが必要になる。
CSLでは、その役割をMarshall 1912に任せている。
小型だが、軽量ではない
Marshall 1912は、1×12インチのスピーカー・キャビネットである。
Marshallの公式製品ページによれば、JCM900シリーズの1×12インチ・コンボ用エクステンション・キャビネットとして作られた。
外形寸法は幅510mm、高さ465mm、奥行290mm。
重量は14.6kgである。
1×12インチとしては、極端に小さくも軽くもない。
搭載されているスピーカーは、Celestion G12B-150。
許容入力は150W、インピーダンスは8Ωである。
現在は生産を完了している。
Vintage 30ではない
Marshallのキャビネットと聞くと、Celestion Vintage 30を想像する人も多いと思う。
しかし、1912のストック・スピーカーはVintage 30ではない。
搭載されているのはG12B-150である。
CSLで1912を使う理由のひとつは、このスピーカーにある。
Vintage 30には、誰にでも認識しやすい強いキャラクターがある。
ミックスの中でギターを前へ出すうえでは、それが利点になる。
一方で、異なるアンプの色合いを比較するときには、スピーカー側の主張が強く聞こえる場合もある。
CSLが探しているのは、どのアンプにも同じ完成形を与えるスピーカーではない。
アンプごとの違いを観察しやすい基準である。
G12B-150を搭載した1912は、その用途に向いている。
「最も良いキャビネット」を決めたいわけではない
1912が、あらゆる場面で最良のキャビネットだと言いたいわけではない。
4×12インチには、4×12インチでしか得られない押し出し方がある。
オープンバックのコンボには、空間への広がりがある。
10インチ、12インチ、15インチでは、それぞれ音の立ち上がり方が異なる。
アンプによっては、専用キャビネットや内蔵スピーカーで鳴らした方が魅力を理解しやすい。
それでも、比較のためには基準が必要になる。
CSLでは、アンプ固有のキャビネットを使った音と、1912へ接続した音を分けて考える。
前者は、そのアンプが本来持っている世界を確認するための音。
後者は、異なるアンプを同じ条件へ置き、差分を観察するための音である。
大出力アンプから小型アンプまで
1912に搭載されたG12B-150は、150Wの許容入力を持つ。
そのため、小型アンプだけでなく、比較的大きな出力を持つヘッドアンプも扱いやすい。
もちろん、接続するアンプの出力、インピーダンス、アッテネーターやロード機器の定格は、個別に確認する必要がある。
高出力アンプを無条件で接続できるという意味ではない。
しかし、CSLで幅広いアンプを同じ条件で比較するうえで、150W・8Ωという仕様は扱いやすい。
国産の小型アンプ。
ラック型プリアンプとパワーアンプの組み合わせ。
1990年代の多チャンネル・ヘッド。
現代的なハイゲインアンプ。
異なる時代の機材を、同じキャビネットへ接続する。
そのとき、アンプごとの設計思想が見えやすくなる。
比較の基準として使う
音作りでは、正解をひとつに絞る必要はない。
用途に応じて、キャビネットもスピーカーも変えてよい。
IRを使い分けてもよい。
しかし、記録の基準は頻繁に動かさない方がよい。
CSLにおけるMarshall 1912は、万能のキャビネットではない。
最高級のキャビネットとして選んだわけでもない。
異なるアンプを同じ場所へ立たせるための、基準線である。
華やかな主役ではない。
だが、主役が変わるたびに舞台まで作り直してしまえば、違いは見えにくくなる。
1912は、アンプの色を観察するための舞台として使う。
参考資料:Marshall公式製品ページ「1912(生産完了)」
https://www.marshallamps.jp/products/cabinets/1912/