少ないことは、弱さではない。Diezel Einsteinと、現代ハイゲイン・アンプの引き算
現代的なハイゲイン・アンプという言葉から、どのようなものを想像するだろうか。
複数のチャンネル。
MIDI。
チャンネルごとの細かなEQ。
複数のマスター・ボリューム。
ノイズゲート。
エフェクトループ。
録音用出力。
多段階のボイシング。
たくさんの音を作れる。
ライブで切り替えられる。
スタジオでも再現できる。
1990年代以降、ハイゲイン・アンプは多機能化していった。
それは自然な流れだった。
歪みが深くなるほど、音作りは難しくなる。
低域は暴れやすい。
高域は痛くなりやすい。
中域の位置で、前へ出るか埋もれるかが変わる。
ライブではリードとリズムの音量差も必要になる。
空間系エフェクトをきれいに使うためのループも必要になる。
複数の音色を瞬時に呼び出したくなる。
だから、アンプは複雑になった。
しかし、複雑であることだけが現代性ではない。
必要なものを選び、不要なものを削る。
その結果として、使いやすいアンプもある。
Diezel Einsteinは、そのようなアンプである。
Diezelとは何者か
Diezelは、ドイツのギターアンプ・メーカーである。
現代的なハイゲイン・アンプを語るうえで、避けて通れない名前の一つである。
Diezelのアンプは、単に歪みが深いだけではない。
低域が整理されている。
音の輪郭が残る。
強く歪ませても、コードの形が見える。
音量を上げたときに、音が崩れすぎない。
金属的な硬さだけでなく、密度がある。
そうした印象を持つプレイヤーは多いと思う。
Diezelの代表的なアンプとしては、VH4やHerbertがよく知られている。
VH4は4チャンネル構成を持つ現代ハイゲイン・アンプの象徴的な存在であり、Herbertはさらに大出力で、Mid CutやMIDI制御を含む多機能なモデルとして語られることが多い。
その中で、Diezel Einsteinは少し違う位置にある。
2チャンネル。
Channel 1に3つのモード。
Channel 2はハイゲイン。
Master 1とMaster 2。
PresenceとDeep。
シリアルとパラレルのエフェクトループ。
Compensated Out。
Diezelらしい実用機能は備えている。
しかし、VH4やHerbertのような巨大なシステム感とは違う。
Einsteinは、Diezelの音を、より少ない操作体系へまとめたアンプである。
簡略版ではない
Einsteinを語るときに注意したいことがある。
それは、Einsteinを単に「HerbertやVH4より機能の少ないDiezel」として見ないことだ。
機能が少ない。
だから下位。
そういう話ではない。
アンプの価値は、搭載された機能の数だけで決まらない。
むしろ、少ない操作で何を成立させるかに設計思想が出る。
多機能アンプは、多くの場面に対応できる。
しかし、操作が増える。
どのチャンネルを使うか。
どのモードを使うか。
MIDIで何を保存するか。
どのマスターへ割り当てるか。
どのEQをどう使うか。
選択肢が増える。
Einsteinは、その選択肢をある程度絞っている。
それによって、演奏者がアンプと向き合う場所が変わる。
音作りの中心が、メニューや切替ではなく、手元とチャンネルの使い分けに戻る。
これは弱さではない。
引き算である。
Diezelは、多機能だけのメーカーではない
Diezelという名前から、複雑な多チャンネル・アンプを想像する人は多いと思う。
VH4。
Herbert。
Hagen。
VHX。
複数のチャンネルを持ち、ライブやスタジオで細かく音色を切り替えられるアンプである。
この印象は間違っていない。
Diezelは、現代的な多機能ハイゲイン・アンプを作ってきたメーカーである。
しかし、それだけではない。
Diezelのラインナップには、より少ない構成でDiezelらしい音を成立させるアンプも存在する。
たとえば、Diezel Big Maxは1チャンネルの真空管アンプである。
多くのチャンネルを切り替えるのではなく、一つのチャンネルの中で、クリーンからドライブまでを扱う。
Diezel公式も、Big Maxを単一チャンネルながら幅広いドライブを得られるアンプとして紹介している。
これは、Einsteinを考えるうえでも重要である。
Einsteinは、Diezelの中でたまたま機能を減らした例ではない。
Diezelには、巨大な多機能アンプを作る方向と、少ない構成の中で音の密度を成立させる方向が並んでいる。
Einsteinは、その後者にもつながるアンプとして見ることができる。
つまり、Diezelらしさはチャンネル数で決まるわけではない。
整理された低域。
密度のある中域。
深く歪ませても崩れにくい輪郭。
弾いたときの強い反応。
それらが残っていれば、チャンネル数が少なくてもDiezelである。
Einsteinは、そのことを示している。
Channel 1に3つの顔を持たせる
Diezel Einsteinの特徴は、Channel 1にある。
Channel 1には3つのモードが用意されている。
クリーン方向。
クランチ方向。
より強い歪み方向。
この3つは、単に音量やゲイン量が違うだけではない。
プリアンプ内で異なるゲイン段を選び、Channel 1の性格を大きく変える。
つまり、Channel 1は一つのチャンネルでありながら、かなり広い範囲を担当する。
ここが面白い。
通常、多機能アンプなら、クリーン、クランチ、リードを別チャンネルに分けたくなる。
それぞれにGain。
それぞれにEQ。
それぞれにVolume。
わかりやすい。
しかし、EinsteinではChannel 1の中に3つのモードを置いている。
これは便利でもあり、不便でもある。
便利なのは、Channel 1だけで広い範囲を作れること。
不便なのは、3つのモードが完全に独立した3チャンネルではないこと。
しかし、この不便さがEinsteinらしい。
音色を大量に保存して切り替えるのではなく、一つのアンプの中で、基本的な表情を選ぶ。
そのうえで弾く。
Cleanは、ただ歪まない音ではない
Diezelのようなハイゲイン・アンプでは、歪みばかりが注目されやすい。
しかし、Einsteinのマニュアルでは、クリーン・トーンについてかなり丁寧に説明されている。
クリーンは、単に歪まない音ではない。
硬く、パーカッシブな音。
柔らかく、温かく広がる音。
ピックアップやギターによって変わる音。
クリーンには幅がある。
これは重要である。
ハイゲイン・アンプにおけるクリーン・チャンネルは、しばしば付属機能のように扱われる。
歪みチャンネルが主役。
クリーンは、必要なときに鳴ればよい。
しかし、良いクリーンはアンプ全体の印象を変える。
入力段の余裕。
アタックの出方。
低域のまとまり。
高域の硬さ。
コードの響き。
クリーンが良いアンプは、歪みへ進んだときの反応も見えやすい。
Einsteinは、ハイゲイン・アンプでありながら、クリーンを単なる補助として扱っていない。
Channel 2は、万能ではなく方向がある
Channel 2は、Einsteinのハイゲイン側である。
Diezelらしい密度のある歪み。
強い中域。
リードや重いリズムに向く音。
公式マニュアルでも、Channel 2は単音やヘヴィなリズムに向けたチャンネルとして説明されている。
ここで大事なのは、Channel 2が何でもできる万能チャンネルではないことだ。
方向がある。
中域がある。
押し出しがある。
歪みが深い。
それでも輪郭を残す。
この方向性が、Einsteinの個性になっている。
多機能アンプでは、チャンネルごとに大きく別の世界を作ることがある。
しかし、Einsteinでは、アンプ全体の声が比較的はっきりしている。
どの音もDiezelである。
その中で、クリーンからクランチ、ハイゲインへ進む。
別のアンプを何台も並べたような変化ではない。
一台のアンプの中で、段階を変える。
Less is often more
Diezel Einsteinのマニュアルには、Channel 2について「less is often more」という考え方が示されている。
これは、ハイゲイン・アンプでは特に重要である。
歪みは、増やせば迫力が出る。
しかし、増やしすぎると弱くなる。
ピッキングの輪郭が消える。
低域が潰れる。
コードが見えなくなる。
ノイズが増える。
バンドの中で前へ出なくなる。
ハイゲインは、ゲイン量の競争ではない。
どこまで歪ませるか。
どこで止めるか。
その判断が重要になる。
Einsteinは、深く歪むアンプである。
しかし、ただ最大まで上げればよいアンプではない。
Gainを少し戻す。
中域を聞く。
Masterを上げる。
Deepを調整する。
Presenceを決める。
ギター側のボリュームやピッキングも使う。
そうして初めて、Diezelらしい密度が見えてくる。
Master 1とMaster 2
Einsteinには、Master 1とMaster 2がある。
この機能は地味に重要である。
ライブでギターを弾くと、音色だけでなく音量差が必要になる。
リズムでは少し下げる。
ソロでは前へ出す。
同じ歪みのまま音量だけ上げる。
クリーンと歪みのバランスを取る。
マスター・ボリュームが一つだけだと、音色切替と音量切替が結び付いてしまう。
Einsteinでは、2つのマスターを使い分けられる。
これは、多機能アンプとして過剰な機能ではない。
実用上必要な機能である。
Diezelらしいのは、こうした実用性を残している点だ。
機能を削る。
しかし、ライブや録音で必要な機能は残す。
Einsteinの引き算は、単なる簡素化ではない。
PresenceとDeep
Einsteinには、PresenceとDeepがある。
Presenceは高域側の反応に関わる。
Trebleとは違う。
Trebleがプリアンプ側の音色調整として働くのに対し、Presenceはパワーアンプ側のフィードバックや高域の返り方に関係する。
音の明るさだけではなく、前への出方や硬さにも影響する。
Deepは低域側の反応に関わる。
Bassとは違う。
Bassを上げると、プリアンプ側で低域が増える。
Deepは、よりパワーアンプやスピーカーへ近い場所の低域感、押し出し、奥行きに関係する。
ハイゲイン・アンプでは、低域の扱いが難しい。
低域が足りないと薄い。
増やしすぎると潰れる。
キャビネットによっても変わる。
音量によっても変わる。
Einsteinは、PresenceとDeepによって、アンプ全体の反応を調整できる。
これは、単なるEQではない。
弾き心地に関わる機能である。
Compensated Outという現実的な機能
Einsteinには、Compensated Outがある。
これは、スピーカー・キャビネットを通したような補正を加えた出力である。
現在の基準では、IRローダーや高精度なキャビネット・シミュレーションを使うことが多い。
そのため、古いCompensated Outは軽く見られがちである。
しかし、当時のアンプにこの機能がある意味は大きい。
アンプの音を、PAや録音機器へ送りやすくする。
マイクを立てられない場面で使う。
ライブで補助的に使う。
練習や簡易録音で使う。
Diezel Einsteinは、ただ大音量でキャビネットを鳴らすためだけのアンプではない。
現場で使うための出力も考えられている。
現代のIR環境とは違う。
しかし、アンプを外部システムへ接続するという発想は、今へつながっている。
エフェクトループを二つ持つ意味
Einsteinには、シリアルとパラレルのエフェクトループがある。
これも、地味だが重要な設計である。
シリアル・ループでは、アンプの信号全体が外部エフェクトへ送られる。
ディレイやリバーブ、空間系をしっかり通したい場合に使いやすい。
パラレル・ループでは、アンプの原音とエフェクト音を混ぜる。
ラック型エフェクトを使う時代には、この考え方が重要だった。
原音を残す。
エフェクトだけを加える。
音の芯を失いにくい。
現在では、ペダルやマルチエフェクター側でルーティングを作ることも多い。
しかし、アンプ側にループの選択肢があることは、実用上大きい。
Einsteinは、シンプルな2チャンネル・アンプでありながら、外部機材との接続はしっかり考えられている。
多機能ではなく、必要機能が残っている
Einsteinを見ていると、Diezelが何を削り、何を残したのかが見えてくる。
削られているもの。
4チャンネル構成。
複雑なMIDI制御。
多段階のチャンネルごとの切替。
巨大なシステム感。
残されているもの。
広い範囲を持つChannel 1。
強い個性を持つChannel 2。
Master 1 / Master 2。
PresenceとDeep。
シリアル / パラレルのループ。
Compensated Out。
つまり、Einsteinは単純なアンプではない。
必要なものは残っている。
しかし、演奏者が迷いやすい部分はある程度絞られている。
これは、現代アンプの別の完成形である。
機能を増やして完成度を上げるのではなく、機能を整理して完成度を上げる。
Herbertとの距離
Diezel Herbertは、非常に完成度の高い現代ロック・アンプである。
大出力。
3チャンネル。
Mid Cut。
MIDI。
複数の機能を一つの巨大なシステムとして統合する。
現代ハイゲイン・アンプの到達点の一つと言える。
Einsteinは、その方向とは違う。
Herbertの簡略版ではない。
Herbertが、音色と制御を大きなシステムとしてまとめたアンプだとすれば、Einsteinは、Diezelの声をより直接的に扱うアンプである。
選択肢を減らすことで、弾く側の判断が前に出る。
どのモードを使うか。
どこまでGainを上げるか。
Deepをどこまで入れるか。
Presenceをどう決めるか。
Masterをどの音量で使うか。
プレイヤーが、アンプと直接やり取りする。
Big Maxへつながる見方
Einsteinを、HerbertやVH4から機能を減らしたアンプとしてだけ見ると、少し狭い。
むしろ、Diezelが持っているもう一つの方向を見た方がよい。
少ない構成で成立させる方向である。
Big Maxは1チャンネル・アンプである。
チャンネルを切り替えて複数の音を呼び出すのではなく、Gainと弾き方、ギター側の操作で幅を作る。
それでもDiezelである。
このことは、Einsteinの位置づけを変える。
Einsteinは、Diezelの多機能路線から外れた例外ではない。
Diezelが持つ「整理された構成で、音の密度を残す」という方向の一部である。
Herbertのように巨大なシステムとして完成させる。
Einsteinのように2チャンネルへまとめる。
Big Maxのように1チャンネルへ絞る。
チャンネル数は違う。
しかし、Diezelらしい音の密度や反応をどう残すかという問いは共通している。
シンプルに見えて、単純ではない
Einsteinは、見た目だけならわかりやすい。
2チャンネル。
3バンドEQ。
Master。
Presence。
Deep。
しかし、触ると単純ではない。
Channel 1の3モード。
Channel 2の中域。
PresenceとDeepの効き方。
Masterの位置。
ループの使い方。
ギター側の出力。
これらが組み合わさる。
特にDiezelのようなアンプは、音の密度が高い。
少し動かすだけで、バンドの中での見え方が変わる。
低域を増やしすぎると、迫力があるようで前へ出ない。
高域を上げすぎると、輪郭は出るが硬くなる。
ゲインを上げすぎると、弾きやすいが弱くなる。
Einsteinは、シンプルな操作系の中に、こうした調整の余地を残している。
CSLで記録する意味
CSLでDiezel Einsteinを記録する意味は、単にDiezelの別モデルを残すことではない。
現代ハイゲイン・アンプには、複数の方向がある。
多機能化する方向。
MIDIで制御する方向。
チャンネルを増やす方向。
Mid CutやDepthなどで細かく調整する方向。
一方で、少ない構成へまとめる方向もある。
Einsteinは、その例である。
Diezelらしい密度を残す。
クリーンからハイゲインまでを扱う。
ライブに必要なマスターやループは残す。
しかし、巨大なシステムにはしない。
このバランスは、記録する価値がある。
特に、Herbertのような多機能なDiezelと並べると、Einsteinの意味は見えやすい。
同じメーカーでも、同じ答えを出しているわけではない。
そして、その引き算はDiezelにとって例外ではない。
Diezelは、多機能化と同時に、少ない構成でDiezelらしさを成立させる道も残してきた。
Einsteinは、その両方を理解するための重要なアンプである。
少ないことは、弱さではない
Diezel Einsteinは、現代ハイゲイン・アンプである。
しかし、過剰な多機能アンプではない。
2チャンネル。
Channel 1の3モード。
Channel 2のハイゲイン。
Master 1 / Master 2。
Presence。
Deep。
ループ。
Compensated Out。
必要なものはある。
しかし、すべてを細かく分けてはいない。
そこに意味がある。
アンプの機能は、多ければ多いほどよいわけではない。
機能が多いほど、操作の自由度は増える。
しかし、演奏者が迷う場所も増える。
Einsteinは、その自由度を少し整理している。
Diezelの音を、直接弾ける形にする。
複雑さを減らしながら、現代的なハイゲインの密度は残す。
少ないことは、弱さではない。
それは、設計上の選択である。
Diezel Einsteinは、現代ハイゲイン・アンプにおける引き算の答えである。
そしてその引き算は、Diezelにとって例外ではない。
多機能化と同時に、少ない構成でDiezelらしさを成立させる道も、Diezelの中には残されていた。
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Chuuni Sound Lab
「過去を掘り返さず、未来を作る。Diezel Herbertという現代ロックアンプの完成形」
https://note.com/chuuni_sound_lab/n/ncca34363ee58
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「多機能ヘッドは、なぜ必要になったのか。Laney VH-100Rという90年代の回答」
https://note.com/chuuni_sound_lab/n/n89418d25fb24
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「操作が多いアンプは、本当に複雑なのか。多機能化が増やしたのは、迷いではなく再現性だった」
※公開後にURLを追記
参考資料
Diezel Amplification
「Manuals and technical support」
https://www.diezelamplification.com/support/
Diezel Amplification
「Diezel Einstein Manual」
https://www.zikinf.com/manuels/diezel-einstein-50-head-manuel-utilisateur-en-37418.pdf
Diezel Amplification
「Big Max」
https://www.diezelamplification.com/bigmax/
Diezel Amplification
「Premium guitar amps made in Germany」
https://www.diezelamplification.com/