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Dual Rectifierは、なぜ弾き心地まで変えられるのか。真空管整流とシリコンダイオード整流

    ギターアンプを比較するとき、最初に注目されるのは音色である。
    高域が強い。
    中域が太い。
    低域が大きい。
    歪みが細かい。
    クリーンが透明である。
    イコライザーを動かせば、音色は変わる。
    スピーカーを替えても変わる。
    キャビネットを替えても変わる。
    真空管を替えても変わる。
    しかし、アンプの違いは音色だけではない。
    弾いた瞬間に、どのように音が返ってくるのか。
    強く弾いたとき、すぐに音が立ち上がるのか。
    少し沈み込んでから膨らむのか。
    低音弦を弾いたとき、硬く返るのか。
    柔らかくまとまるのか。
    聴く音だけでなく、弾いたときの感触がある。
    Mesa/Boogie Dual Rectifierは、その違いをわかりやすく体験できるアンプである。
    名前の通り、整流方式を切り替えられる。
    真空管整流。
    シリコンダイオード整流。
    さらに、BoldとSpongyという電源設定もある。
    同じアンプ。
    同じチャンネル。
    同じイコライザー。
    それでも、弾き心地は変わる。

    整流とは何か

    ギターアンプは、家庭用電源から電気を受け取る。
    しかし、壁のコンセントから供給される電気を、そのまま真空管回路へ使うわけではない。
    交流を直流へ変換する必要がある。
    その役割を担うのが整流である。
    英語ではRectificationと呼ばれる。
    Rectifierは、整流器という意味である。
    真空管アンプでは、整流管を使う方法がある。
    一方で、半導体のダイオードを使う方法もある。
    どちらも、交流を直流へ変換する。
    目的は同じである。
    しかし、動作の仕方は同じではない。
    特に、アンプへ大きな信号が入ったとき、電源の反応に違いが現れる。
    その違いが、演奏時の感触へつながる。

    真空管整流は、少し沈み込む

    真空管整流を選ぶ。
    コードを強く弾く。
    低音弦をパームミュートする。
    音が出る。
    その瞬間、わずかに柔らかい感触がある。
    アタックが完全に消えるわけではない。
    しかし、硬い板へ直接音を当てるような反応ではない。
    少し沈む。
    少し膨らむ。
    少し遅れて返る。
    この感触は、サグと呼ばれることが多い。
    アンプへ大きな信号が入る。
    回路が、より多くの電力を必要とする。
    その瞬間、電源電圧が一時的に下がる。
    音が少し圧縮される。
    強く弾いたときほど、反応が柔らかくなる。
    真空管整流では、この変化が現れやすい。
    Mesa/Boogieの資料でも、真空管整流は、より柔らかく、圧縮感があり、弾力のある方向として説明されている。
    ギターを弾くと、アンプが少し呼吸する。
    音が完全に一定ではない。
    演奏へ追従しながら、わずかに揺れる。

    シリコンダイオードは、速く返る

    シリコンダイオード整流を選ぶ。
    同じように、コードを強く弾く。
    低音弦をパームミュートする。
    反応が変わる。
    音がすぐに立ち上がる。
    低域が締まる。
    輪郭が見えやすい。
    アタックが前へ出る。
    Mesa/Boogieの資料では、シリコンダイオード整流は、より大きなパワーとヘッドルームを持ち、極端なゲイン設定でも低域をタイトに保ちやすい方向として説明されている。
    特に、速いリフでは違いがわかりやすい。
    低い弦を刻む。
    短い音を連続して出す。
    音を止める。
    一つずつのアタックが見えやすい。
    真空管整流では、少し柔らかくまとまる。
    シリコンダイオード整流では、より明確に分かれる。
    どちらが優れているかではない。
    演奏へ何を求めるかで変わる。

    サグは、欠点なのか

    電源電圧が下がる。
    反応が遅くなる。
    音が圧縮される。
    低域が少し柔らかくなる。
    工業製品として考えると、不安定な動作にも見える。
    常に一定の反応を返した方が、性能が高い。
    そのように考えることもできる。
    しかし、ギターアンプは測定器ではない。
    演奏するための機材である。
    ピッキングを受け止める。
    強く弾いたとき、少し丸くする。
    コードをまとめる。
    音を伸ばしやすくする。
    サグは、単なる欠点ではない。
    演奏者とアンプの間に、少し柔らかな層を作る。
    強く弾けば、すべてがそのまま大きく返るわけではない。
    少し圧縮される。
    その結果、弾きやすく感じる場合がある。
    特に、単音のリード。
    少し古いロックのクランチ。
    大きくコードを鳴らす演奏。
    真空管整流の柔らかさが合う。
    一方で、低いチューニング。
    速いパームミュート。
    輪郭を崩したくないリフ。
    そのような演奏では、シリコンダイオードの速さが合う。
    サグが多ければよいわけではない。
    少なければよいわけでもない。
    必要な反応が違う。

    Rectifierという名前が示したもの

    Dual Rectifierという名前は、単なる装飾ではない。
    整流方式を選べる。
    この機能を、製品の名前へ置いた。
    アンプの音を考えるとき、歪み量やイコライザーだけでは足りない。
    電源の反応も、音楽的な要素になる。
    その考え方を前面へ出した。
    Dual Rectifierが登場した1990年代、ハイゲイン・アンプへ求められるものは変化していた。
    強い歪み。
    大きな低域。
    低いチューニング。
    大きなキャビネット。
    パームミュートしたときの圧力。
    しかし、常に同じ反応が必要なわけではない。
    タイトにしたい。
    少し柔らかくしたい。
    速く返したい。
    少し沈ませたい。
    整流方式の切替は、歪みの量ではなく、弾き心地を選ぶ機能だった。

    BoldとSpongy

    Dual Rectifierには、整流方式とは別に、BoldとSpongyという設定がある。
    この二つは、同じ機能ではない。
    真空管整流とシリコンダイオード整流は、交流を直流へ変換する方法を選ぶ。
    BoldとSpongyは、アンプへ供給する電圧の状態を変える。
    Boldでは、通常の電圧をアンプへ供給する。
    音には余裕がある。
    低域が強く返る。
    アタックが立つ。
    ヘッドルームが広い。
    音の輪郭を保ちやすい。
    Spongyでは、供給電圧を下げる。
    アンプ全体の反応が少し柔らかくなる。
    音が沈む。
    圧縮感が増える。
    高域の倍音が見えやすくなる。
    中域の印象も変わる。
    Mesa/Boogieの近年の取扱説明書では、Spongyを内蔵Variacのような機能として説明している。
    Variacとは、供給電圧を調整するための可変変圧器である。
    アンプへ入る電圧を下げることで、通常とは異なる反応を得る。
    BoldとSpongyは、単なる音量切替ではない。
    アンプ全体の感触を変える。

    二つの切替は、別々に考える

    真空管整流。
    シリコンダイオード整流。
    Bold。
    Spongy。
    二つの切替がある。
    少し混乱しやすい。
    しかし、役割を分けて考えるとわかりやすい。
    整流方式は、電源が大きな入力へどう反応するかを変える。
    BoldとSpongyは、アンプ全体へ供給する電圧の状態を変える。
    組み合わせによって、弾き心地が変わる。
    シリコンダイオードとBold。
    反応が速い。
    低域が締まる。
    輪郭が明確になる。
    現代的なリフへ使いやすい。
    真空管整流とSpongy。
    反応が柔らかい。
    沈み込みが増える。
    コンプレッションが加わる。
    単音やクランチで弾力を感じやすい。
    ただし、これは固定された正解ではない。
    シリコンダイオードとSpongyを組み合わせてもよい。
    真空管整流とBoldを組み合わせてもよい。
    前者では、ダイオードの速さを残しながら、全体を少し柔らかくできる。
    後者では、真空管整流の弾力を残しながら、電源側の余裕を確保できる。
    Dual Rectifierは、四つの性格へ単純に分類するアンプではない。
    複数の要素を組み合わせ、必要な反応を探すアンプである。

    音色ではなく、弾き心地を調整する

    アンプの設定を考えるとき、イコライザーへ目が向きやすい。
    Bass。
    Middle。
    Treble。
    Presence。
    Gain。
    これらは重要である。
    しかし、整流方式を変えると、ノブの位置を変えなくても、弾いたときの印象が変わる。
    低域が締まる。
    少し膨らむ。
    アタックが速くなる。
    音が柔らかくまとまる。
    これは、単純な周波数補正ではない。
    イコライザーでBassを下げれば、低域の量は減る。
    しかし、低域の返り方が完全に同じになるわけではない。
    コンプレッサーを加えれば、音をまとめることはできる。
    しかし、電源段の反応と完全に同じではない。
    整流方式は、音色を後から補正する機能ではない。
    弾いた瞬間に、アンプがどう返事をするかを変える。

    小音量では、違いが見えにくい場合もある

    整流方式を切り替えれば、いつでも劇的に変わる。
    そうとは限らない。
    アンプの設定。
    音量。
    ゲイン。
    キャビネット。
    スピーカー。
    ギター。
    演奏方法。
    条件によって、差の見え方は変わる。
    特に小さな音量では、パワーアンプが十分に動かない。
    整流方式の違いが、わかりにくい場合がある。
    一方で、大きな信号を入れる。
    低音弦を強く弾く。
    パームミュートする。
    コードを鳴らす。
    音量を上げる。
    そのとき、反応の差が見えやすくなる。
    整流方式は、イコライザーのように常に明確な変化を出す機能ではない。
    弾き方と音量によって現れる機能である。
    ここに面白さがある。

    録音では、何を記録するのか

    Kemperプロファイルや録音でアンプを記録するとき、整流方式の違いは少し難しい。
    マイクで収録されるのは、最終的にスピーカーから出た音である。
    特定の弾き方。
    特定の音量。
    特定のキャビネット。
    特定のマイク位置。
    その条件で鳴った音を記録する。
    しかし、演奏者が感じる反応のすべてを、そのままマイクへ収められるわけではない。
    強く弾いたときの沈み込み。
    身体へ返る低域。
    キャビネットが動く感触。
    ピッキングとアンプの間に生まれる弾力。
    それらは、録音された音だけでは伝わりにくい。
    それでも、記録する意味はある。
    シリコンダイオードとBoldで作った、速く締まった音。
    真空管整流とSpongyで作った、柔らかく沈み込む音。
    同じアンプでも、設定によって録音される結果は変わる。
    重要なのは、どの条件で記録したのかを残すことである。
    アンプ名だけでは足りない。
    設定も、アーカイブの一部である。

    Rectifier以外にも残った考え方

    整流方式を選べるアンプは、Dual Rectifierだけではない。
    Mesa/Boogie自身も、さまざまな機種で真空管整流とシリコンダイオード整流を使い分けてきた。
    Lone Star。
    Road King。
    Roadster。
    Mark V。
    Stiletto。
    機種によって、使える出力。
    チャンネルごとの割り当て。
    電源設定。
    Rectifier Trackingの動作。
    設計は異なる。
    整流方式を切り替える機能は、Rectifierシリーズだけの演出ではない。
    アンプの感触を設計するための方法として、ほかの製品へも広がった。
    また、整流方式を切り替えられないアンプでも、整流管を使うか、ダイオードを使うかは、設計の一部である。
    演奏者が選べない場合でも、メーカーは選んでいる。
    どのような反応を持たせるのか。
    どの程度、沈ませるのか。
    どの程度、速く返すのか。
    どの程度、余裕を残すのか。
    整流は、見えにくい場所でアンプの性格を作る。

    速さと柔らかさの間で

    真空管整流は、古い。
    シリコンダイオード整流は、現代的である。
    そのように単純化はできない。
    速い反応が必要な演奏もある。
    柔らかな反応が必要な演奏もある。
    低い弦を刻む。
    輪郭を残す。
    低域を締める。
    シリコンダイオードが合う。
    単音を伸ばす。
    コードを大きく鳴らす。
    アンプの弾力を感じる。
    真空管整流が合う。
    どちらか一つが、優れているわけではない。
    Dual Rectifierが示したのは、二つの方法を選べる価値である。
    整流方式は、スペック表の端に書かれた技術用語ではない。
    弾いた瞬間に現れる。
    アンプが、どのように返事をするのか。
    その感触を選ぶための機能である。
    音色を作る。
    歪み量を決める。
    低域を調整する。
    それだけではない。
    弾き心地を設計する。
    Dual Rectifierという名前には、その考え方が残っている。


    関連記事

    Chuuni Sound Lab
    「Mesa/Boogieは、一つの音ではない。MarkシリーズとRectifierが作った二つのハイゲイン」
    ※公開後にURLを追記
    Chuuni Sound Lab
    「歪みの基準を変えた。Mesa/Boogie Dual Rectifierと、初期2chモデルを記録する意味」
    https://note.com/chuuni_sound_lab/n/n1802aa99fa36
    Chuuni Sound Lab
    「マスターボリュームは、何を変えたのか。大音量の結果だった歪みを、設計する」
    ※公開後にURLを追記


    参考資料

    MESA/Boogie
    「Dual & Triple Rectifier Solo Heads Owner’s Manual」
    https://mesa-boogie.imgix.net/media/User%20Manuals/2chRecto.pdf
    MESA/Boogie
    「90s Dual Rectifier Solo Head Owner’s Manual」
    https://mesa-boogie.imgix.net/137154_90s-Dual-Rectifier_241105.pdf
    MESA/Boogie
    「Dual Rectifier 100 Watt Head」
    https://legacy.mesaboogie.com/amplifiers/electric/rectifier-series/dual-rectifier/head.html
    MESA/Boogie
    「Multi-Watt Dual & Triple Rectifier Owner’s Manual」
    https://mesa-boogie.imgix.net/media/User%20Manuals/3chRecto_multiWatt.pdf
    MESA/Boogie
    「Roadster Owner’s Manual」
    https://mesa-boogie.imgix.net/media/User%20Manuals/Roadster_130613.pdf
    MESA/Boogie
    「Road King Series II Owner’s Manual」
    https://mesa-boogie.imgix.net/media/User%20Manuals/RoadKing2_v1.pdf
    MESA/Boogie
    「Lone Star Special Owner’s Manual」
    https://mesa-boogie.imgix.net/media/User%20Manuals/LoneStarSpecial.pdf
    MESA/Boogie
    「Mark V Owner’s Manual」
    https://mesa-boogie.imgix.net/media/User%20Manuals/070425-MkV_160928.pdf

     
     
    Chuuni Sound Lab(CSL)は、ギターアンプや周辺機材を実機で検証し、歴史の脇道に残された音をKemperプロファイルとして記録・販売するプロジェクトです。

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