
JCで到達したRolandは、なぜ真空管へ寄り道したのか。BOLT-30という通過点
Rolandのギターアンプについて考えるとき、最初に思い浮かぶ名前はJazz Chorusだと思う。
JC-120。
ソリッドステート・アンプ。
濁りの少ないクリーントーン。
ステレオ・コーラス。
真空管アンプの代用品ではない。
真空管を使わないからこそ成立した、独自の音である。
そのRolandが、1980年前後に真空管パワーアンプを搭載したシリーズを作っている。
BOLTシリーズ。
Rolandアンプの歴史を一直線に見ると、少し不思議な存在である。
Ace Toneという前史
Rolandの創業者である梯郁太郎氏は、Roland以前にAce Toneを手掛けていた。
Ace Toneは、電子オルガン、リズムマシン、エフェクターだけでなく、ギターアンプも展開していた。
公開されている資料では、ソリッドステート・アンプだけでなく、真空管アンプも確認できる。
つまり、梯氏のアンプ開発の出発点に、真空管アンプが存在しなかったわけではない。
ただし、Ace ToneとRolandは別のブランドである。
Ace Toneの真空管アンプから、後のRoland BOLTシリーズへ技術が直接継承されたと断定できる資料は確認できていない。
ここでは、Roland以前の前史として触れるに留める。
Rolandブランドの最初のアンプはJC-120だった
Roland公式の50周年資料では、Rolandブランドの最初のアンプとして、1975年のJC-120 Jazz Chorusが紹介されている。
JC-120は、真空管アンプを再現するための機材ではなかった。
Roland公式の記事でも、一般的な真空管アンプの暖かい歪みとは異なる方向を目指したアンプとして説明されている。
ソリッドで、素直で、透明感がある。
現在では当たり前のように語られる「JCクリーン」も、登場時点では必ずしも誰にでも歓迎されたわけではなかった。
真空管アンプの歪みを好むギタリストにとって、JCの音は硬く、素っ気なく聞こえたかもしれない。
しかし、その濁りの少なさは、時間とともに別の価値として認識された。
エフェクターと組み合わせやすい。
音の分離がよい。
クリーンをクリーンのまま出せる。
内蔵コーラスにも、他のアンプにはない広がりがある。
Rolandは、真空管を使わないことを弱点にしなかった。
ソリッドステートだから成立する音を作った。
JC-120は、その一つの到達点だった。
それでもBOLTシリーズを作った
Roland公式の旧製品アーカイブには、BOLTシリーズの取扱説明書が残っている。
BOLT-30
BOLT-60
BOLT-100
CSLで所有しているのは、最も小さいBOLT-30である。
出力は30W。
12インチ・スピーカーを1基搭載したコンボアンプである。
BOLTシリーズの特徴は、ハイブリッド構成にある。
プリアンプ部はソリッドステート。
パワーアンプ部は真空管。
Rolandは、JCで確立したソリッドステート路線を捨てたわけではない。
一方で、すべてをトランジスタへ任せることもしなかった。
スピーカーを駆動するパワー段へ、あらためて真空管を置いた。
完全なオールチューブ・アンプへ進むのではなく、Rolandが得意とする電子回路と、真空管パワーアンプを組み合わせる。
BOLTシリーズは、Roland流に真空管を取り込もうとした試みとして見ることができる。
BOLT-30は、シリーズの中でも少し異なる
公開されている実機解析記事では、BOLT-30の出力管は7591を2本、位相反転段には12AT7を使用すると報告されている。
BOLT-60やBOLT-100で使われる6L6系とは異なる。
7591は、現在のギターアンプでは一般的とは言いにくい真空管である。
古いAmpegアンプなどで知られている。
BOLT-30は、単にBOLTシリーズを小型化しただけの機材ではない。
出力管の選択も含め、シリーズ内で少し異なる位置にある。
ただし、7591×2という仕様は、Roland公式の取扱説明書だけでなく、実機を確認したメンテナンス記事を補助資料として参照した情報である。
古いアンプでは、個体差や修理歴もあり得る。
CSLでも、所有個体の現物を優先して記録する。
現在では少し古く聞こえるドライブ
CSL所有のBOLT-30を実際に鳴らすと、内蔵プリアンプのドライブには強い癖を感じる。
滑らかな歪みではない。
現代的なハイゲイン・アンプのように、低域を整理しながら輪郭を前へ出す音でもない。
少しざらつく。
ジャリジャリとした質感がある。
強く歪ませても、エッジの立ち方は現在の感覚とは異なる。
クリーンについても、JCのように明確な完成度を感じる音ではなかった。
これは、CSL所有個体を弾いたときの主観である。
BOLT-30というモデル全体について、無条件に断定できることではない。
経年劣化や個体状態の影響も完全には否定できない。
しかし、外部プリアンプを使った検証を行うと、少し見え方が変わった。
MAIN INからパワー部を確認する
BOLT-30には、PRE OUTとMAIN INがある。
MAIN INへ外部プリアンプを接続すると、内蔵プリアンプとフロントパネルのMASTER VOLUMEを迂回し、真空管パワー部へ直接信号を送れる。
CSLでは、Two Notes Le LeadをMAIN INへ接続して確認した。
結果は悪くなかった。
BOLT-30の真空管パワー部は、実用的な音で動作した。
Fryette Power Station PS-2Aと比較すると、PS-2Aの方が太く、扱いやすい。
BOLT-30のパワー部は、少し線が細い印象を受ける。
それでも、明確に破綻しているわけではない。
ストック・スピーカーでも鳴る。
Marshall 1912へ接続すると、さらに良い。
この切り分けから、CSL所有個体で感じた違和感の中心は、真空管パワー部ではなく、内蔵プリアンプ側にある可能性が高いと考えている。
MAIN INには音量調整がない
BOLT-30のMAIN INは、現代的な外部プリアンプ入力として親切に作られているわけではない。
MAIN IN以降には、独立した音量調整がない。
BOLT-30の真空管パワー部は固定ゲインで動作する。
最終音量は、MAIN INへ送る外部プリアンプ側の出力レベルで決まる。
通常入力を使う場合、フロントパネルのMASTER VOLUMEでパワー部へ送る信号を調整できる。
しかし、MAIN INへ直接接続すると、そのMASTER VOLUMEを迂回する。
この挙動は、一般的なギターアンプのRETURN挿しでも見られる。
RETURN以降にRETURN LEVELやGLOBAL MASTERを持たないアンプでは、本体側で音量を調整できない。
BOLT-30だけが異常なのではない。
ただし、現在の視点で見ると少し不親切ではある。
PRE OUTとMAIN INは、多機能なエフェクトループというよりも、内蔵プリとパワー部の接続点を、そのまま外へ開いたパッチポイントに近い。
簡素である。
その簡素さもまた、BOLT-30が作られた時代を感じさせる。
故障なのか、設計なのか
内蔵プリアンプのドライブに感じたざらつきが、BOLT-30本来の音なのか。
それとも、CSL所有個体の経年劣化によるものなのか。
完全には断定できない。
しかし、外部プリアンプをMAIN INへ接続すると、パワー部は問題なく鳴った。
ストック・スピーカーでも鳴る。
Marshall 1912でも鳴る。
その結果を踏まえると、所有個体で感じた質感の中心は、内蔵プリアンプ側にあると見るのが自然である。
そして、個体不良の可能性を残しつつも、もともとの設計上のキャラクターである可能性も高いと考えている。
現在のアンプであれば、より滑らかに整えるかもしれない。
低域を整理する。
高域のざらつきを抑える。
ピッキングの輪郭を、別の形で前へ出す。
BOLT-30のドライブは、そのような現代的な整理を通過していない。
BOSSエフェクターに通じる質感
BOLT-30のドライブを弾いていると、真空管プリアンプを追い込んだ歪みとは少し違う印象を受ける。
むしろ、古いBOSSのオーバードライブやディストーションをアンプへ接続したときの質感に近いものを感じる。
これは、回路が同じだと断定する話ではない。
BOSSの特定モデルが、そのまま内蔵されていると言うつもりもない。
あくまで、実機を弾いたときの印象である。
当時のRoland/BOSS製品に通じる、少し硬く、ざらついた歪み。
現在では、それを古い設計と見ることもできる。
しかし、現在のアンプが均質化したからこそ、逆に個性として扱える。
滑らかではない。
万能でもない。
現代的なハイゲインでもない。
だからこそ、残す意味がある。
Micro Jugg MJ-3とは結果が違う
CSLでは、日本ハモンド Micro Jugg MJ-3も所有している。
MJ-3も、ソリッドステート・プリアンプと真空管パワーアンプを組み合わせた国産ハイブリッド・アンプである。
表面だけを見ると、BOLT-30との共通点は多い。
国産。
小型コンボ。
ソリッドステート・プリ。
真空管パワー。
しかし、実際に弾いた印象は異なる。
MJ-3には、クリーンからクランチにかけて張りがある。
ピッキングの立ち上がりも明確である。
ストック・スピーカーの状態でも、音に芯があった。
BOLT-30の内蔵プリには、別の癖がある。
同じハイブリッド構成でも、同じ音にはならない。
分類名だけでは、アンプの音を説明できない。
Rolandは、その後COSMへ進む
Rolandは、BOLTシリーズへ定住しなかった。
真空管パワーアンプを使ったハイブリッド・アンプを、Rolandアンプの中心に据え続けたわけではない。
その後、Rolandはデジタル技術によって、アンプや楽器の挙動を再構成する方向へ進む。
COSM。
Composite Object Sound Modeling。
BOSS公式の記事では、COSMは1995年に登場したRoland VG-8 V-Guitar Systemで初めて導入されたと説明されている。
後のCUBEシリーズでは、COSMによる複数のアンプ・モデルが搭載された。
JC。
ブリティッシュ・コンボ。
ハイゲイン系アンプ。
物理的に真空管を使うのではなく、デジタル処理によって複数のアンプ・サウンドを再構成する。
ここで、Yamaha DGシリーズとの共通点も見えてくる。
Yamahaは、Fシリーズでソリッドステート・アンプを作った。
Soldanoとの協業で、Tシリーズというフルチューブ・アンプも作った。
その後、ECM技術を使ったDGシリーズへ進んだ。
Rolandは、JCでソリッドステート独自の音へ到達した。
BOLTシリーズで、一度だけ真空管パワーアンプを取り込んだ。
その後、COSMによってアンプそのものをデジタルで再構成する方向へ進んだ。
両社は、同じ道を歩いたわけではない。
しかし、アナログ回路の中で複数の回答を試し、その後にデジタルへ進んだという点では似ている。
時代を素通りした真空管パワーアンプ
BOLTシリーズを、Rolandの代表作と呼ぶことは難しい。
Rolandのギターアンプ史において、中心にあるのはJCである。
後年のデジタル・アンプを考えるなら、COSMも重要である。
BOLTは、その間にある。
JCでソリッドステート独自の音へ到達したRolandが、一度だけ真空管パワーアンプを取り込んだ。
しかし、そこへ定住はしなかった。
オールチューブ・アンプへ進むわけでもない。
JCの延長線上に留まるわけでもない。
後年のCOSMへ、そのまま直結するわけでもない。
短い通過点である。
だから、面白い。
成功した機材だけが、歴史ではない。
時代と少しずれてしまった設計。
現在では古く聞こえるドライブ。
それでも、別の機材にはない質感。
Roland BOLT-30。
JCで到達したRolandが、一度だけ通過した真空管パワーアンプの時代である。
参考資料
Roland公式「JC-120」
https://www.roland.com/jp/products/jc-120/
Roland公式「40 Years of Roland Jazz Chorus」
https://www.roland.com/jp/promos/jc_40_years/
Roland公式「Roland 50th Anniversary - 1970s」
https://www.roland.com/global/roland-50th-anniversary/
Roland公式「レガシー製品情報:取扱説明書(A-G)」
https://www.roland.com/jp/support/archives/archive_manuals_a-g/
Roland公式「BOLT-30 取扱説明書」
https://lib.roland.co.jp/support/jp/manuals/res/1808780/BOLT-30_j.pdf
Roland公式「BOLT-60 取扱説明書」
https://lib.roland.co.jp/support/jp/manuals/res/1808779/BOLT-60_j.pdf
Roland公式「BOLT-100 取扱説明書」
https://lib.roland.co.jp/support/jp/manuals/res/1808776/BOLT-100_j.pdf
BOSS公式「COSM Revisited」
https://www.boss.info/us/community/boss_users_group/1319/
BOSS公式「The V-Guitar Story」
https://articles.boss.info/the-v-guitar-story-how-roland-and-boss-designed-the-future-of-electronic-guitar/
Roland公式「CUBE-30」
https://www.roland.com/global/products/cube_30/
長田(猫舌)のblog「Roland BOLT-30 schematics」
https://juggbox.blog.jp/archives/20243619.html
長田(猫舌)のblog「Roland BOLT-30(2)」
https://juggbox.blog.jp/archives/20293868.html
Roland BOLT-30 Schematic
https://bee.mif.pg.gda.pl/ciasteczkowypotwor/%23pro_audio/Roland/Roland Bolt 30 Schematic.pdf
Blue Book of Guitar Values「ACE TONE Guitar Amplifier Models」
https://bluebookofguitarvalues.com/guitar-amplifiers/manufacturers/ace-tone