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連載小説『ショート・ノーズド・エレファンツ』35「道程」/ユウイ

     高架になっている京王線の線路を横目に見ながら、篠原は進んだ。
     道がよく分からなかったので、目印になる線路からなるべく離れないように気をつけながら、篠原は進んだ。
     道はどこも混雑していた。どこも大都会の中心地か、それ以上の込み具合だった。
     大きな交差点があるところや何本かの道が交錯しているような通りでは、必ずといっていいほどひどい渋滞が起きていた。
     ――その原因は明白だ。一度停電でも起きたのか、信号がちゃんと作動していなかったのだ。付近一帯のありとあらゆる信号が、深夜の田舎の県道のように、黄色の点滅状態になってしまっていたのだった。そのため、交差点に差し掛かるたびに全ての車がいったん止まり、しばらくの間お互いに牽制し合うので、通り抜けるのにものすごく時間が掛かってしまうのだ。
     それの対処をするためだろう。大きな交差点のところには、必ず制服を着た警察官の姿があった。交差点の中央のところや分離帯の一番端のところに立ち、笛の音と赤い誘導棒、それに、身振り手振りだけを使って、必死になって押し寄せる車をさばいていた。
     けれど、あまり効果はないようだった。一度始まってしまった混雑は、一向に解消される様子はなかった。交差点内で立ち往生してしまった車から、ものすごい勢いでクラクションが鳴らされて、続いて、意味の分からない謎の言葉を、ドライバーたちが大きな声で叫び始める。
     その怒声に反応して若い警官が申し訳なさそうに頭を下げると、ドライバーたちは怒った顔を窓から出して、かさにかかって何かを叫ぶ。
     違う方向からも怒声とクラクションが飛んできて、それが徐々に四方の車に伝染し始め、警官は泣きそうな顔であちこちに頭を下げ続ける。
     そんな風な愉快ならざる光景が、どの交差点でも何度も繰り返されていて、篠原もなんだか見ているだけでイライラしてきた。

     京王堀之内の駅前付近まできたところで、反対側の道路脇にできた、大きな人だかりが目に入った。見覚えのある看板を掲げた鉄筋二階の建物と、それを取り囲むようにして集まっている数多くの人々の群れ。それから彼らの上げる怒声。
     ……あれはいったいなんだろう? いったい、何をやっているのだろう? 
     そう少しの間考えて、篠原はすぐに思い当たった。
     ……青地に白のあの看板は、街で何度も見たことがあった。確か、どこかの銀行の看板だった。集まっている人々の様子や、肌で感じる雰囲気からも、たぶん間違いないだろう。
     ……どうやら、歴史の教科書や外国のニュース映像などでしか見たことのない、「取り付け騒ぎ」が起きているようだ。
     ――集まっている人々は、おそらく、三、四十人はいるだろうか。小さな広場の脇にある二階建ての瀟洒な感じの建物を、弧を描くようにして取り囲み、口々に何かを叫んでいる。必死の形相で叫んでいる。
     怒っているのか嘆いているのか、それとも、ただ興奮しているだけなのか、ともかく、みんな切羽詰まった顔をして、懸命に何かを叫んでいる。
     言葉の意味は分からずとも、その声色と表情から、彼らに強い不満があることだけは、篠原にも理解できた。
     前庭の植え込みはすでにグチャグチャに踏みつぶされてしまっているし、入り口の扉に石を投げつけている人もいるし、中には、雨どいを伝って二階のテラスまでよじ登ろうとしている人もいて、建物周辺の一帯は、かなりひどい状態になっていた。
     けれど、それも仕方がないことだった。彼らの気持ちも分からなくはなかった。
     ……事態発生から約半日、銀行が、早くも営業をやめてしまっていたからだ。

     
     
    文学好き。主に純文学。たまに実作もします。

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