
珊瑚の話
珊瑚の話
朝の港。
古い倉庫の脇で、海面に揺れる光を眺めていると、ふと頭をよぎった。
珊瑚は、何を考えて海の中で枝を伸ばしているのだろう。
動物なのに、植物のように見える。
一本の枝が伸び、その先でまた枝分かれしていく。
長い時間をかけて、海の中に形を残していく。
「……折れても、また伸びますからね」
隣で声がした。
網を抱えた漁師が、岸壁に腰を下ろしていた。
いつからそこにいたのか、分からなかった。
「え?」
「珊瑚です」
漁師は海を見た。
「波が強いと、折れるでしょう」
「……はい」
「でも、折れたところから伸びることもある」
それだけ言って、網を肩に担いだ。
「じゃあな」
漁師は倉庫の向こうへ歩いていった。
海面に、朝の光が細かく揺れている。
枝のような波が、岸壁に寄せては戻っていく。
しばらく見ていた。
それから、港を歩き出した。