
なぜルイ・ヴィトンは高すぎると感じられるようになったのか?―世界の高級ブランドを揺るがす「価値の逆転」
高級ブランドが売れなくなったのではない。消費者が「高いお金を払う理由」を、以前より厳しく問い始めている。
ルイ・ヴィトンやディオールなどを傘下に持つLVMH。その主力であるファッション・レザーグッズ部門が苦戦しています。
一方、中国では伝統的な金細工を高級ジュエリーへと発展させた「ラオプーゴールド(老鋪黄金)」が急成長しています。
この対照的な動きを、単なる中国の愛国消費として捉えると、本質を見誤ります。
世界の高級ブランド市場で、価値を判断する基準そのものが変わり始めているのです。
1.高級ブランドは、なぜ値上げできたのか
高級ブランドの価値は、素材や製造原価だけでは決まりません。
歴史、職人技、希少性、社会的地位。
それらが組み合わさり、高額な価格を正当化してきました。
しかも、高価であること自体が所有欲を刺激する場合があります。経済学でいうヴェブレン効果です。
実際、McKinseyなどの分析では、2019〜2023年の高級品業界の成長の約80%が、販売数量の増加ではなく値上げによるものでした。
しかし、値上げだけで価値を高め続けることはできません。
価格と消費者が認める価値の差が広がれば、憧れは不信へと変わります。
2.ブランドの大衆化という矛盾
高級ブランドには構造的なジレンマがあります。
企業として成長するには、店舗を増やし、販売数量を拡大する必要があります。
ところが、商品が普及するほど希少性は薄れます。

つまり、
売上拡大 → 大衆化 → 希少性の低下 → 高価格の正当性が揺らぐ
という矛盾です。
もちろん、すべてのブランドがこの悪循環に陥るわけではありません。
重要なのは、価格に見合う品質、独創性、サービスを維持できるかどうかです。
3.ラオプーゴールドが示す、もう一つの価値
中国で急成長するラオプーゴールドには、欧州の高級革製品とは異なる特徴があります。
それは、金そのものに市場価値があることです。
同社の商品には、三つの価値が重なっています。
① 金という実物資産の価値
② 中国の伝統技術や意匠が生む工芸価値
③ ブランドが生み出す希少性や社会的価値
例えば、ブランドバッグは中古市場で売却できますが、その価格はブランドへの需要に大きく左右されます。
一方、金製品には、ブランド人気とは別に金属としての換金価値があります。
もちろん、金価格は変動しますし、購入時の加工費やブランドプレミアムまで回収できるわけではありません。
それでも、消費する満足と、資産としての価値を一つの商品に重ねられる点は重要です。
実際、ラオプーゴールドの業績には、金相場の変動や価格改定も影響しています。
単なる文化回帰ではなく、実物資産性と高級ブランド性を融合させたビジネスモデルなのです。
4.世界で変わり始めた「価値の基準」
こうした変化は中国に限りません。
大きなロゴより控えめなデザイン。大量生産品より職人の手仕事。所有することより特別な体験。
消費者が重視する価値は多様化しています。
ただし、ブランドの権威が無意味になったわけではありません。
歴史や信用、社会的評価も、それ自体が価値を持ちます。
問われているのは、その価値に対して、現在の価格が妥当なのかということです。
5.この変化は、あらゆる仕事に共通する
これは高級ブランドだけの問題ではありません。
名門大学の学歴、有名企業の看板、資格、老舗の暖簾、社会的肩書。
いずれも過去に蓄積された信用によって、現在の評価を支える仕組みです。
しかし、過去の信用と現在の価値創造能力は、必ずしも一致しません。
AIによって知識や情報が容易に手に入る時代には、その違いが一層明確になります。
結論|本当のブランド力とは何か
高級ブランド市場で起きているのは、単なる価格競争ではありません。
過去の権威に対して支払う価格と、現在得られる価値との再評価です。
ラオプーゴールドの事例は、文化、工芸、ブランド、実物資産という異なる価値を統合する可能性を示しています。
もちろん、その高価格が常に正当化されるとは限りません。
これから重要になるのは、既存の権威に依存することではなく、顧客が納得する価値を生み出し続けること。
本当のブランド力とは、高い価格を付ける力ではない。高い対価を支払う理由を、時代に合わせて更新し続ける力なのです。
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