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【ショート】 小さな天使の落とし物

    ―― short story ――


    「あっ」


    光のネックレスが落ちていく。

    遥か遠い地上まで真っ逆様。

    冷や汗が伝い、顔が青ざめていく。


    「どうしよう……地球に落っことしちゃった」


    涙目になりながら、雲の上の端に立ち、建物がびっしり詰まった場所を見つめる。

    そのとき、強い風が吹いた。

    「そんなところにいると、落ちるぞ」

    振り返ると、大天使さまが後ろに立っていた。

    じわっと視界が滲む。

    大天使さまの顔がひきつった。

    「……おい、なにを泣く?」

    「落としてしまったんです」

    ぽろっと頬を伝った涙が、ネックレスを追うように雲を突き抜けて地上へ落ちていく。

    大天使さまの大きな手が、私の頭を撫でる。

    「なにを落としたんだ」

    「……光のネックレス」

    それは、とても小さな声にしかならなかった。

    でも、大天使さまの手が止まるには充分だった。

    「……なぜ、外した」

    低い声。

    体が震える。

    「ネックレスのチェーンが絡まっていたので、直そうと外してしまいました」

    深いため息が聞こえた。

    「あれが、どれほど大切なものか分かっているのか」

    「……翼を作るための光を集めているんです」

    「分かっているなら、大切にしろ」

    大天使さまは、また私の頭を撫でた。

    「一緒に取りに行こう」

    「えっ」

    顔を上げる。

    すると、青い光に包まれ、大天使さまの姿が変わった。

    長い髪は短くなり、服装もTシャツにジーンズ、足元はスニーカーに変わっていた。

    「人間の男の人みたい」

    「お前もだ」

    大天使さまは水でできた透き通った私の手を取った。

    青い光に包まれると、体の水が肌色になり、水色の髪が黒色に変わった。

    「……すごい」

    気がつくと、雲から足が離れていた。

    「行くぞ、雨」

    抱き上げられると、大天使さまの首にしがみつく。

    「はい」

    大天使さまはTシャツの背から器用に羽を広げると、雲から飛び降りた。

    真下を覗くと、地上は夜だった。

    星々の間をすり抜ける。

    月は私を見て、ため息をついた。

    「木に引っかかっているよ」

    「よく見ていてくれた」

    大天使さまは、月へお礼を言った。

    大きな湖があった。

    大天使さまに促され、私は目を瞑る。

    力を込めると、一本の木が光った。

    「……あった」

    大天使さまが私を抱えようとしたとき、船着場に数人の人影が見えた。

    差し出された手を取り、湖畔を歩き始める。

    「お、お二人さん。乗っていくかい?」

    見ると、手漕ぎボートだった。

    ネックレスの引っかかっている木は、ちょうど湖の反対側だった。

    大天使さまは、ポケットからお金を出すとおじさんに渡した。

    「毎度! どうぞ、お幸せに!」

    おじさんの言葉に私は首を傾げた。

    大天使さまは私の手を引いた。

    声をかけようと顔を上げると、耳が赤く見えて、黙った。

    手漕ぎボートに乗る前に看板があった。

    『恋人同士で乗ると幸せになれる』

    ……恋。

    オールが水をかくたびに、ボートがゆっくり揺れた。
    向かいに座る大天使さまの手を、つい見てしまう。

    「どうした」

    「……なんでもありません」

    水面に目を落とすと、月が二つに割れていた。

    対岸へ着くと、木の枝に私のネックレスが引っかかっていた。

    大天使さまが手を伸ばして取ってくれた。

    「ありがとうございます」

    微笑むと、大天使さまも笑った。

    「さぁ、帰るぞ」

    大天使さまが私の首にネックレスをつけてくれた。


    雲に戻ると、大天使さまに「気をつけなさい」と言われ、頷いた。

    もう外さない。

    心に誓う。

    それから大天使さまは元の姿に戻り、天上へ姿を消した。

    ……初めて会話をしてしまった。遠くから眺めていた方。

    大天使さまが消えたあとも、しばらくその場所を離れられなかった。

    そっと、ネックレスに触れる。

    踵を返すと、私は仕事に取り掛かった。


    雨を降らせる。

    ネックレスに光がたまった。

    少しずつ。

    いつか、羽がもらえるように。

    休憩していると、大天使さまが私の前にいた。

    「……大天使さま?」

    「困っていることはないか」

    「はい。大丈夫です」

    「そうか。ならいい……早く、天へ来い」

    大天使さまは、そう言って、すぐに天上へ戻った。

    そして、次の日も、その次の日も、毎日、大天使さまは来た。

    少し、体が溶けた。











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