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317億ドル市場の内側で何が起きているか。音楽ビジネスのリアルを数字で読み解く

    こんにちは!「種田 慶郎 a.k.a. はっちょん 」です。

    実は、自分も若かりし頃から10年くらい前までは、テレビの音楽番組やコンサートの運営にも関わっていまして、一応、「音楽業界の端くれ」の端っこのほうには属していたように思うのですが、ちょっと目を離した途端、マーケットやビジネスの急激な変化に、周回遅れで置いてけぼりにされまくっております。

    今回は、同じ様に、音楽業界やビジネスの現状や課題を、わかっているような、そうでもないような皆様と一緒に探ってみたく思います。

    ではまず、この数字を見ていただきましょう。

    2025年、世界の録音音楽市場の収益が史上初めて300億ドルを突破しました。317億ドル、前年比6.4%増。2024年の4.7%増からさらに加速しています。これを発表したのはIFPI(国際レコード産業連盟)が毎年出す「GLOBAL MUSIC REPORT 2026」。2026年版の数字は過去最高の更新でした。

    表の数字だけ見れば、黄金時代到来ですが、実際に中身を追いかけると、喜べない話もたくさん出てくるようです。

    220億ドルをストリーミングが稼ぎ、それでもレコード盤が売れている

    全体317億ドルのうち、220億ドル超、率にして69.6%をストリーミングが占めています。SpotifyやApple Musicなどの有料サブスクリプションだけで52.4%。広告モデルを合わせた69.6%という数字を見れば、ストリーミングなしで音楽市場を語ることはできません。

    有料サブスクリプションの利用者数は8億3,700万人。これも過去最高です。

    面白いのは、「ストリーミングの時代」に物理メディアが反転上昇していることです。CD・レコード盤・音楽映像ソフトを合わせたフィジカル収益が2025年に53億ドル、前年比8.0%増。2024年は3.0%減だったので、鮮やかな反発です。

    特にアナログレコードが前年比13.7%増で、19年連続の成長を達成しました。

    19年連続!です。

    デジタルで何でも聴けるからこそ、パッケージとして所有したいというファン心理が、フィジカル市場を維持させています。「手で触れる体験」への需要は、意外なほどしぶとい。

    CDも前年比3.7%増、音楽映像も10.8%増とそれぞれ成長しています。「デジタルアクセス」と「フィジカル所有」の二層でエコシステムが最適化されつつあるという見方が、データには素直に表れています。

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    中国がドイツを抜いて世界4位になった。

    2025年のトップ10市場は、1位アメリカ、2位日本、3位イギリスまでは変わらず。4位に中国が入り、ドイツが5位に後退しました。中国の前年比成長率が20.1%。トップ20市場の中で最速の成長です。

    テンセント・ミュージックやネットイースなど、国内の巨大プラットフォームが無料ユーザーを有料サブスクへ移行させるフェーズに本格突入した結果です。ラテンアメリカも15年連続の市場拡大を続けており、2024年は前年比22.5%増。アジア地域全体でも前年比10.9%増という二桁成長です。

    グローバルの話をするときに「欧米とアジア(日本・韓国)」という切り口では、もう足りません。中南米、東南アジア、中国を含めた多極化した市場として捉えないと、10年後の動きを読み間違えます。音楽資本の重心が非英語圏へとシフトしているのは、データが明確に示しています。

    一方、成熟市場のカナダは9位へ後退、ドイツは5位へと相対的地位を落としました。新興市場の成長と成熟市場の踊り場。この二極化は、今後の投資先や協業先を考える上では無視できなさそうです。

    3,988億円の日本市場、そのうちCDが1,686億円という世界的な異常値

    日本は世界2位の市場です。2025年の前年比成長率は8.9%増で、数字だけ見ると力強い。日本レコード協会(RIAJ)の推計では、音楽ソフト+音楽配信の合計市場規模は3,988億円。

    内訳が独特で、フィジカル(物理メディア)が57%、デジタルが43%。グローバルではデジタルが圧倒的多数になっているのに、日本だけフィジカルが過半数を維持しています。

    CD市場が1,686億円。これは世界的に見ても異常な規模です。

    なぜ、これだけCDが売れるかは、音楽ファン以外の方にはわかりにくいかもしれません。日本ではCDが「音楽を聴くためのメディア」だけではなくなっています。

    握手会の参加券、オンラインイベントの当選権、ランキングを上位に押し上げるための応援ツール。そういった付加機能がCDに紐づいているのです。

    販売数量は1億649万枚で前年比98%と微減している一方、金額は維持されています。ちなみに、音楽ビデオ市場も507億円で数量が前年比110%と健闘しており、まさに「フィジカル大国」であります。

    CD大量廃棄問題、ESGに引っかかる

    その結果、CD大量廃棄が日本特有の社会問題となってしまってもいます。

    握手券・投票券目的で大量購入されたCDが、山の中に数百枚単位で不法投棄される事件が繰り返されています。国会の環境委員会でも取り上げられ、製品の廃棄に至るまでの環境負荷に企業が責任を持つべきとする「拡大生産者責任(EPR)」の観点から、批判の矛先がメーカーに向いています。

    日弁連の廃棄物部会などからは、メーカーへの無償引取義務の設定や、販売時にリサイクル料金を上乗せする制度の導入を求める声が上がっています。

    ESG投資が企業評価の絶対基準となっている現在、過剰生産と廃棄を前提とするモデルは機関投資家からのダイベストメント(投資撤退)リスクを内包しています。業界が自浄作用を働かせる時期に来ています。

    ストリーミングも1,377億円まで育ってきた。でも、消費者の意識は変わってきている

    いっぽうの国内音楽配信市場(ストリーミング・サブスクリプション)も1,377億円に達し、成長を維持しています。

    デジタル音楽ソリューションブランドのTuneFabが2026年5月に発表したレポートによれば、日本の音楽サブスク利用者の意識は「単なるサービス選択」から、自分のライフスタイルに合わせてデジタル音楽環境を組み立てる「Smart Listening(スマートリスニング)」へと変化しているとのこと。

    月額料金の安さだけを比較する段階を終え、ファミリープランの使い勝手や、Amazon Echoなどのスマートスピーカーとのシームレスな連携、ハイレゾ音質や空間オーディオの有無、歌詞表示機能の充実度、そういったところで選ぶようになっています。

    ポッドキャストの利用率も、20代では27.3%、10代では34.0%に達しています(第5回ポッドキャスト国内利用実態調査)。音楽プラットフォームは「聴くだけのサービス」から、音楽・ニュース・学習を統合した総合音声メディアへと変わりつつあります。プラットフォーマーがこの変化を取り込めるかどうかが、VOD市場との差別化軸になります。

    ライブ市場6,443億円。でも、地方のホールが消えていく

    録音音楽市場以上に勢いがあるのが、国内のライブ市場です。コンサートプロモーターズ協会(ACPC)のデータでは、2025年の総売上高は6,443億円(前年比105.3%)、動員数は約6,000万人。ともに過去最高を更新しました。

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    人気の外タレも、続々日本へ!

    チケット1枚あたりの平均単価は10,740円(前年比104.2%)。制作費の高騰やプレミアムチケットの導入が背景にありますが、「ライブに行く」という体験へのお金の出し方が変わっています。

    若年層離れと富裕層・熱狂的ファンへの依存深化というリスクも内包しています。

    問題は会場規模別のデータを見たときに明確になります。

    アリーナクラス(2,729公演)は前年比101.9%で堅調。Kアリーナ横浜、2025年2月開業の「あなぶきアリーナ香川」、同年10月開業の「TOYOTA ARENA TOKYO」など新設施設が稼働し、大型公演の受け皿は広がっています。

    一方、ホール(主に2,000人規模、13,498公演)の動員数が前年比93.3%に落ちています。

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    需要が下がったわけではありません。高度経済成長期からバブル期にかけて建てられた地方の公共ホールが、40〜50年の寿命を一斉に迎え、閉館や大規模改修に追われています。会場が物理的になくなっている。

    これが深刻なのは、音楽業界の育成サイクルを壊すからです。新人アーティストはライブハウスからホールへ、ホールからアリーナへと動員規模を広げながら成長します。その中間ステップが消えていくと、次世代を育てる場所がなくなる。公演が中核都市に集中し、地方での音楽体験が希薄になる。

    逆の視点から見れば、中規模エンターテインメント施設の開発・運営は、都市開発や不動産ファンドにとって有望な投資領域(ホワイトスペース)です。

    PFIを活用した民設民営での新設アリーナや多目的ホール事業の需要は、今後さらに拡大します。音響設備やデジタル配信設備(5G/6G環境)を初期から組み込んだオペレーションができる企業には、大きなビジネスチャンスが眠っています。

    「バズった。でも売れない」問題の正体

    TikTokやYouTube Shortsで楽曲がバズる。数百万回の再生。でもSpotifyでの継続リスニングに繋がらない。ライブのチケットが売れない。

    MIDiA Researchが2025年に発表したレポートが、この現象を「All eyes, no ears(目は集まるが、耳は動かない)」と評しています。うまい言い方だと思います。

    音楽が、ダンス動画やVlogの背景として「消費される素材」になってしまった。短尺で30秒流れるBGMとして認知されても、それがアーティストへの持続的な関心に転換するとは限らない。ソーシャルでの接触から、長期ストリーミング、ファンダム形成へと至る期待の連鎖に、深刻なひびが入っています。

    この脆弱性を業界全体に知らしめたのが、2024年から2025年にかけてのユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)とTikTokのライセンス交渉決裂です。TikTok上からUMG所属アーティストの全楽曲が3ヶ月間にわたって完全にミュート・削除されました。プロモーションの主軸を一民間企業のアルゴリズムに過度に委ねることの危うさを、業界が痛感した出来事でした。

    チャートの話をすると、日本では「Billboard JAPAN」が今やデファクトスタンダードです。CD、ダウンロード、ストリーミング、動画再生、ラジオなど複数指標を合算する総合方式。かつてオリコンチャートが「枚数だけ」を競い、ファンダム主導の大量購入でランキングが歪んでいた「失われた10年」がありました。それを終わらせた象徴が米津玄師の「Lemon」です。ストリーミングと動画再生という純粋な聴取行動が積み上がった結果でした。

    ただ、Billboard JAPANにも新しい問題が出てきました。ストリーミング市場の成熟で、過去の名曲が上位に居座り続け、新曲が入り込めない状況が発生した。これを解消するため、2025年後半から「リカレント・ルール」を導入しています。長期滞留曲のポイント比重を下げて、チャートに新陳代謝を促す措置です。

    現代の「ヒット曲」を評価するには、三つの軸が必要だと思っています。

    時間の軸(持続性):リカレント調整後も、どれだけ長くリスナーのプレイリストに滞留し聴かれ続けるか。

    広がりの軸(多面整合性):CD、ストリーミング、動画、ラジオ、カラオケ、UGCなど複数のメディアチャネルを横断して支持されているか。

    経済の軸(収益転換):プラットフォーム上の数字が、実際の権利収入やライブ動員といった経済的な果実に結びついているか。

    この三軸を国際規模で達成した例として、Creepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」があります。アニメ「マッシュル」とのタイアップを起点に、TikTokのダンスチャレンジが欧州や中央アジアへ波及しました。日本発の楽曲がグローバル市場でどう広がるかを示す、現時点では最良のケーススタディです。

    1再生0.3〜0.5円。10万回再生で数万円しか入らない現実

    クリエイターの経済的な実態にも触れておきます。

    SpotifyやApple Musicで中小・インディペンデント系アーティストが受け取るロイヤリティは、1再生あたり0.3〜0.5円程度。楽曲が10万回再生されても、手元に残るのは3〜5万円。制作費、PR費、ライブの運営コスト、生活費。全部自己負担のインディペンデントアーティストにとって、持続できる収益モデルではありません。

    現在の主流は「プロ・ラタ方式」。プラットフォーム全体の総再生数で収益を按分するため、メガヒット楽曲に収益が集中します。ニッチなジャンルや中堅アーティストへの皺寄せは構造的に発生します。

    代替案として議論されているのが「ユーザー・セントリック・ペイメント(UCP)」。ユーザーが支払ったサブスク料金を、そのユーザーが実際に聴いたアーティストにのみ分配する仕組みです。熱心なファンを持つ中堅アーティストの収益が安定しやすくなる。「どれだけ愛されているか」を収益に反映できるモデルです。

    ブロックチェーンを活用したトークンエコノミーで直接収益化を目指す動きも出ています。Evening Music Recordsが展開する「EVENING Web3 Music Streaming」などはその例で、「再生回数」ではなく「リスナーとのエンゲージメントの深さ」を収益化するパラダイムシフトを目指しています。まだ試行段階ですが、方向性としては長期的に正しいと思っています。

    AIと詐欺が同時進行している

    生成AIの話は、良い面と悪い面が同時に急激に進んでいます。

    悪い面から。IFPIが2026年5月、「Keep Music Sound. End Streaming Fraud(音楽の響きを守れ。ストリーミング詐欺を終わらせよう)」というグローバルキャンペーンを立ち上げました。日本ではFIMI等が支援しています。

    ストリーミング詐欺とは、ボットやクリックファームで再生回数を水増しし、本来アーティストに分配されるべきロイヤリティを不正に掠め取る行為です。IFPIのCEO、Victoria Oakley氏は「サイレントな脅威」と表現しています。

    これを悪化させているのが、生成AIによる「フェイク楽曲」の工業的な大量生産です。AIが数秒で生成した無数のノイズや単調なビートがプラットフォームにアップロードされ、ボットで24時間回し続けることで、詐欺がスケールしています。プラットフォーム、アグリゲーター、ディストリビューターが連携してAI監視システムを構築することが急務です。

    国内での良い面の代表例がSOUNDRAWです。日本のAI音楽生成サービスで、学習データに使うのは完全に自社の社内プロデューサーが制作した楽曲のみ。著作権侵害リスクをゼロにした状態で運営しています。この倫理的なスタンスが評価され、LGエレクトロニクスがグローバル展開するスマートテレビプラットフォーム「webOS」(世界1億台超で稼働)への技術提供を実現しました。

    同社はこの技術を応用した店舗向け空間BGMサービス「SpaceMusic AI」も公開しています。飲食店、ホテル、アパレル、オフィスなどで、JASRAC等への著作権処理不要のBGMを即日導入できる。「芸術作品としての音楽」と「商業空間を満たす機能的BGM」を技術で明確に切り分けた、現時点での最適解の一つです。

    生成AIのアウトプットが法務・倫理の基準をクリアし、エンタープライズの商流に乗せられるか。AIビジネスにおいて経営陣が判断すべき基準はここです。

    自社の学習データの出処を説明できるガバナンス体制の構築は、今後のAIビジネスの前提条件になります。

    VODが6,740億円。音楽市場(3,988億円)を上回っている

    可処分時間を奪い合う、競合の話も避けられません。GEM Partnersの調査によると、2025年の日本の動画配信(VOD)市場は6,740億円、前年比14.3%増で再加速しています。NetflixとPrime Videoが牽引しています。

    それは、日本の録音音楽市場(3,988億円)を大きく上回る規模です。消費者の「耳の時間」と「サブスク予算」を、音楽と映像が直接奪い合っています。ゲーム産業なども含めると、音楽プラットフォームが戦っている相手は、音楽業界以上に強敵です。

    この文脈で、音楽プラットフォームがポッドキャストや学習コンテンツを取り込み、総合音声プラットフォームへと進化しようとしている動きは、防衛戦略とも読めます。

    経産省の「20兆円」目標と、スモールワールド戦略

    経済産業省は2025年6月、「エンターテインメント・クリエイティブ産業戦略(5カ年アクションプラン)」において、日本のコンテンツ産業全体の海外売上高を20兆円に引き上げる目標を掲げました。

    国内録音音楽市場が3,988億円ですから、国内に閉じた議論では到底届かない話です。

    ネットワーク科学の研究(arXiv:2503.09526)では、音楽産業のコラボレーションに「スモールワールド特性」があることが確認されています。ジャンルや地域で密接に結びついたコミュニティが、影響力のあるハブを通じてグローバルな波及を起こすメカニズムです。

    Creepy Nutsの成功も、アニメという強力なハブと、TikTok上のUGCというノードが複雑に絡み合った結果です。日本のIPやアーティストを世界に出すには、海外向け広告を打つだけでは届かない。影響力のある海外プレイヤーとの戦略的な提携を意図的に仕掛ける必要があります。

    以上、「駆け足解説」となってしまいましたが、俯瞰での現状はご理解いただけましたでしょうか?

    それではまた、こちら「はっちょんブログ」でお会いしましょう!

     
     
    元気溌剌!投資関連とメディア、エンタメ、ゲーム業界あたりをふらふらしてます!中小企業、スタートアップ支援も始めました。 エンタメの「熱狂」と、ビジネスの「冷徹な論理(構造化思考)」をハイブリッドした勝利の方程式設計の求道者です。 https://taneda.com/

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