
3年で替わる担当者と、10年続くまちの取り組み
引き出しの奥に、名刺が何十枚もたまっている。ほとんどは、もう別の部署に異動した人たちのものだ。
自治体の仕事に関わっていると、この入れ替わりの速さに何度も驚かされる。担当者は、早ければ3年で異動する。せっかく積み上げた信頼関係も、想いも、そこでいったんリセットされる。
10年続いている取り組みを見ると、共通点がある。引き継ぎ資料に、決定事項だけでなく、なぜその方法を選んだかという理由まで残っていることだ。
予算の使い道や会議の議事録は残っていても、なぜその配分にしたか、なぜ他の案を選ばなかったか、という理由は記録されないことが多い。
理由の抜けた引き継ぎは、次の担当者にとって、地図のない目的地のようなものだ。手順は分かっても、なぜそこへ向かっているのかが分からない。
ある地域では、歴代の担当者の名前と、それぞれが何を大事にしていたかを一枚にまとめた資料を作っていた。異動のたびに、新しい担当者はその紙を読んでから引き継ぎに入る。前任者の顔が見えない引き継ぎより、名前の入った引き継ぎのほうが、後任者の動き出しは早い。
引き継ぎの場に、前任者と後任者だけでなく、外部のアドバイザーが同席することもある。担当者同士では聞きにくい「本当はどう思っていたか」を、第三者が代わりに聞く役割だ。当事者だけでは埋まらない行間が、そこで初めて言葉になる。
想いを引き継ぐというと大げさに聞こえるけれど、実際にやっていることは地味だ。理由を書き残す。次の人が読む時間を確保する。それだけのことを、毎回きちんと積み重ねているかどうかだ。
引き継ぎの期間を、正式な辞令の前後だけに限らない工夫も見てきた。次の担当者が決まった時点で、まだ前任者が現場にいるうちに、一緒に住民の集まりへ顔を出す。名前と顔を先に覚えてもらうだけで、その後の関係の築き方がまるで違ってくる。
異動は止められない。でも、引き継ぎの質は、いくらでも変えられる。
10年続く取り組みは、一人の熱意ではなく、書き残された理由の連鎖でできている。
山田克基(こにー)
PRアドバイザー・コミュニティデザイナー・ワークショップデザイナー
京都を拠点に、企業・自治体・NPO・スタートアップの「きっかけ創り」に伴走しています。
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