
理念は額縁に入れた瞬間から読まれなくなる
会社の理念を、今すぐ暗唱できるだろうか。
エントランスに額装された理念を、毎朝通り過ぎているのに、いざ聞かれると言葉に詰まる人は多い。悪いのはその人ではない。額に入れた瞬間から、理念は「見るもの」になり、「使うもの」ではなくなる。
ある会社では、理念を刷新するたびに、立派な額を新調していた。デザインは洗練され、社史のページにも載る。それでも、社員が日常の判断でその言葉を思い出す場面は増えなかった。飾ることと、根づかせることは、別の作業だ。
クレドカードを配って満足してしまう会社も、同じ構造を抱えている。カードは配られた瞬間から、財布の奥にしまわれていく。
逆に、理念を額に入れず、朝会で毎回違う社員が自分の言葉で語り直している会社もある。同じ理念でも、語る人によって少しずつニュアンスが変わる。その揺れこそが、理念が生きている証拠だった。
理念は、壁に貼るものではなく、口に出すもの。
読まれるための理念には、条件がある。誰かの実際の判断と、具体的に結びついていることだ。「挑戦を大切にする」という言葉より、「先月、誰がどんな挑戦をして、何を学んだか」という一件のエピソードのほうが、はるかに理念を伝える。
社内報に理念の解説を載せる、という手もよく使われる。ただ、わたしは、社内報そのものがあまり読まれないと考えている。解説記事を書いても、読まれるのは、書いた人が期待するほど多くない。
むしろ届くのは、人の顔と声がついた形だ。社員が自分の言葉で語る短い動画や、誰でも読めるように開いたオープン社内報のほうが、ずっと見られやすい。理念そのものより、その理念で動いた人の話が、人を止める。
理念浸透という言葉を聞くと、研修や標語を思い浮かべがちだ。でも実際に効くのは、日常の小さな判断の中で、その言葉が引用される回数のほうだ。会議で「これって理念に合ってる?」と誰かが聞く。その一言が増えるほど、理念は組織の中で生きている。
広報の仕事は、額を作ることではなく、理念が息をする場面を見つけて、語れる形にして出すことだと思っている。動画も朝会も、その具体を運ぶための小さな器にすぎない。
理念は、飾られた瞬間に止まる。語られ続ける限り、動き続ける。
山田克基(こにー)
PRアドバイザー・コミュニティデザイナー・ワークショップデザイナー
京都を拠点に、企業・自治体・NPO・スタートアップの「きっかけ創り」に伴走しています。
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