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マッチョの目に涙 | マッチョ華道 | 毎週ショートショートnote


    全国ボディビル大会三連覇の田中が、
    華道教室に入門した。

    師匠は八十二歳。身長百四十センチ。
    田中の上腕二頭筋より細い。

    「花を扱うんですよね。力仕事なら任せてください」

    田中は隆々たる胸を張った。

    巨大な花器を片手で運び、太い枝をへし折り、
    剣山を素手で沈めた。

    「どうです、先生」

    師匠は眉ひとつ動かさない。

    「田中さん。力を抜きなさい」

    「……え?」

    田中は固まった。

    「先生、それはどこの筋肉を使うんでしょうか」


    師匠は答えず、庭から一輪の野菊を摘み、
    細い指ですっと花器に挿した。

    田中は息をのんだ。

    美しかった。

    「花はね、持ち上げてもらいたいわけじゃないのよ。
    そこにいたいだけ」

    田中も野菊を持った。

    そっと…。

    そっと…。

    花器に挿すと、師匠が笑った。

    「できたじゃない」

    田中の目から、ぽろりと涙が落ちた。
    大きな両手を畳につき、深々と頭を下げる。

    「先生、参りました」
    そして顔を上げこう言った。

    「私が鍛えていなかった筋肉が、まだありました」

    師匠は小さくため息をついた。

    「だから、鍛えるのは筋肉じゃないんですってば!」




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    しあわせ配達人。 日常と旅の中で見つけた小さな灯りを綴っています。 noteでエッセイを更新中。

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