メインコンテンツへスキップ
見出し画像

通り抜けの桜


    この言葉だけで造幣局大阪本館での春の風物詩、桜並木の通り抜け行事であることがわかるほど著名なことがらです。そうであるにもかかわらず、長らく大阪に住んで一度も出向かなかったこの催しに、令和8年度の4月9日、つまり通り抜けの初日に、桜見物に出かけてきました。

    最寄り駅は複数ありますが、大阪メトロ谷町線の天満橋駅からは徒歩15分。手ごろな散歩距離でもあります。

    この谷町線といえば、昭和42年に北側の東梅田~谷町4丁目、翌年に谷町4丁目~天王寺の2区間がそれぞれ開業しましたが、その2年後の昭和45年に延伸工事中のガス爆発事故があり、多数が犠牲になりました。この4年後にようやく東梅田~都島の延伸区間が完成し、以降北は大日駅へ、南は天王寺から八尾南駅へと、全線合計28キロメートル強、全国的には4番目に長い地下路線です。

    そんな建設歴史を思い浮かべながら、まず下車したのは中央線谷町4丁目。駅ホームの連絡通路を経てようやく谷町線側の改札を出て地上に上がると、久しぶりの風景に、しばし方向を確認し、谷町筋のビル街を北へと歩きました。ちょうど昼の休憩時。近辺企業の社員がレストラン前の歩道に並ぶ姿が何か所も見られるという、ビジネス風景でもありました。

    一駅約10分の徒歩距離。天満橋駅の交差点に至り、OMMビルを見上げながら天満橋を北へと渡ります。上には阪神高速道路の橋脚があり、眺める景色が、道路と橋脚に囲まれた額縁風景であるかのよう。

    画像


    そんな川の流れを目に映して橋を渡り終えると、淀川沿いに東へと進みます。マイクを持った係員が交通整理。近づくにつれ、スマートフォン画面の用意を呼び掛ける声が聞こえます。混雑を緩和するために、通り抜け見物はネットでの予約が必要で、その予約完了画面のQRコードを画面表示する必要があるのです。

    ともかくも大ぜいに交じって造幣局南門から敷地に入場。140種の名物桜見物となったのです。

    今年の新種は福桜。まだ3分咲きの状態ではありましたが、金沢の兼六園の品種を接ぎ木して植えた珍しい一木です。八重に開いた可愛い花弁に葉緑素があると説明されていたものの、緑がかった色合いは感じられなかったです。

    画像

    今年の桜として示されていたのは御衣黄(ぎょいこう)。緑色の珍しい趣です。日を過ぎると赤みを帯びた色へと移り変わり、小さな花弁が美の世界へといざなうかのような品種です。江戸時代に京都の仁和寺で栽培されたのが始まりとWikiに説明されていますが、日本花の会図鑑には、「DNA解析により鬱金とは枝変わり関係にあることがわかりましたが、御衣黄として栽培されている中には、小輪で緑色の花が咲く個体と中輪で薄黄緑色の花が咲く個体があります」とも記され、生体の経緯も科学的に研究されているようです。

    画像

    この御衣黄は珍しい品種であり、私が目に映したのは奈良の大寺・西大寺の南門前にある一木と、同じく奈良の萬葉植物園境内、それに名古屋大学の本キャンパスの三か所です。奈良県では生駒郡の安堵町にも植えられていることも聞いていますが、今年も見ることができ、うれしい思いをしました。

    さてあまりに多い品種をすべてカメラに写すのも一苦労。品種名と花弁をくまなく撮影したと思いつつも、まだ画像整理ができていない現状です。ほんのわずかですが、いくつかを掲載することにします。

    まずは天の川。東京の荒川堤にあった里桜で、先の御衣黄についてもこの堤に原木のあったことが、日本花の会サイトに掲載されていました。江戸時代に荒川堤にさまざまな品種が植えられたのかなと想像するのも楽しいものです。この天の川は、樹姿がほうき状となり、淡紅色の花が上向きに咲く珍しい品種、と造幣局サイトに紹介されています。

    画像

    鍾馗(しょうき)は清楚な五弁花桜です。厄除けの神として中国由来の道教神の名ですが、商家の屋根に鍾馗像瓦のある姿とは程遠い美的な桜でもあります。これも荒川堤にあったと造幣局サイトに記されていました。特に名前が珍しいというのが私の印象です。

    画像

    大提灯は、球形の大輪の花が提灯のようにぶら下がって咲きます、と造幣局サイトに紹介されている八重桜です。日本花の会サイトには、これも荒川堤にあった品種であること、江戸時代初期の花壇地錦抄に記されている古い品種であることも記されています。

    画像

    伊予熊谷は、「匂い桜の一種で、愛媛県土居町(現・四国中央市)で栽培されており、その名は、匂いが川の流れにのって植栽地から4キロメートル下流の熊谷橋まで届くことに因んでいます」と造幣局サイトにあります。サイトの掲載写真の印象とは異なり、上向きの咲き具合がアジサイのようだという印象でした。

    画像

    淡紅色の八重桜の品種の多い桜の数々でしたが、ひときわ白い美を感じさせてくれるのが、おなじみのソメイヨシノでした。街の中で目にするよりもいっそう白く感じるのは、周囲の八重桜の色との対比によるのかもしれませんが。もっとも人だかりのしていた一木でもあったのです。江戸末期頃、駒込染井村の植木屋が初めて出した品種、と造幣局サイトに記されていますが、今や最も一般的になった桜ということになると思います。ちなみに豊臣秀吉が催した花見のうち、吉野の花見で有名な桜の名所である奈良の吉野に咲く桜は大半がヤマザクラ品種で、染井吉野とは別のものです。

    画像

    この日ぜひ見たいと思っていたのは、奈良県の県花でもあり、東大寺知足院の一木は天然記念物にも指定されているナラノヤエザクラでしたが、あいにく咲いていませんでした。開花期は4月下旬から5月上旬にかけてのことらしいです。この桜の咲くのはまだ見たことがありません。東大寺のこの桜をまた改めて眺めたいと思っています。

    というわけでご紹介はごくわずかになってしまいましたが、少しでもお楽しみいただけたでしょうか。

    あなたへのおすすめ