
「POPEYE」少年は、なぜ美術実習着を作るようになったのか
先日、娘と古着屋へ行った。
そこで見つけたのが、レディースのラルフローレンのステンカラーコート。
表裏ともコットン100%でほとんど傷みなし。 袖裏はキュプラ。 しかもインパクト21、すなわち日本製で丁寧な縫製が期待できる。
ベージュの色味もよかったし、裏地も上品。
値札は5,900円。 季節外れだからか、さらに20%オフ。
「これ、絶対いいな」
サイズは「身長164cm〜168cm」とある。
でもうちの娘はけっこう小柄。
試しに羽織ってみてもらったら、
袖は少し長い。
でも肩は自然に落ち、着丈は驚くほどちょうどよかった。
自然なオーバーサイズ感があってとても似合う。
そんな話をしながら勧めたら、彼女は素直に買っていた。
ありがたいことに、娘は昔からぼくの服のセンスを信用してくれている。 よく一緒にセレクトショップや古着屋へ行く。
でも、考えてみると、ぼくが服好きになったのはかなり昔だ。
きっかけは、年上のいとこの影響だった。
いとこの家にあった、当時すごく人気のあった雑誌、『POPEYE』を読んで、アイビーやトラッドの世界を知った。
「シティボーイ」になりたくなった。
当時は、「ブレザーはナチュラルショルダーでパッチポケット、三つボタン段返り中一つ掛けでなければならない」といった、“ルール”みたいなものに強く惹かれた。
ボタンダウン、ローファー、ステンカラーコート、そして紺ブレ。
ただ流行っているから着る、ではなく、それぞれに背景や文脈がある。
そこが面白かった。
その後、だんだんミリタリーやワークウェアにも惹かれていった。
最近だと、アイビーやトラッドのルールをベースに、例えばチノパンの代わりに仏軍M47や英軍のカーゴパンツ、ステンカラーやダッフルコートの代わりにBeyondのモンスターパーカなんかも好きでよく着ている。
結局、ぼくは「機能から生まれた服」が好きなんだと思う。
ミリ服もワークウェアも、本来は現場のための服だ。
動きやすく、 丈夫で、 汚れることが前提になっている。
でも、そういう服って、結果としてすごくカッコいい。いわゆる「機能美」に溢れている。
だからぼくは、画材メーカーで商品企画をするようになってからも、自然と“現場の服”に惹かれていった。
だから、美術実習着やワークコートを作った時も、頭の中にあったのは「ファッション」だけではなかった。
絵具がつく。
制作中、 しゃがむ、立つ。 腕の動きを妨げない。
道具を入れる。
毎日着る。
洗う。
使い込まれる。
そういう実際の現場の感覚だった。
考えてみると、アイビーもミリタリーもワークウェアも、全部つながっていたのかもしれない。
ただ見た目がいい服ではなく、「理由があってその形になった服」。
ぼくはずっと、そういうものに惹かれてきたんだ。
だから今回、古着屋でラルフローレンのコートを見た時も、 ブランド名だけではなく、
「生地感がいいな」 「これは長く着られるな」 「この時代の作りはちゃんとしてるな」
みたいなことを感じていた。
娘はそんなぼくを見て育っているからか、 「お父さんがいいって言うなら間違いない」 くらいの感じで買っていた。
いつもそうだけど、こういう時はやっぱり少しうれしい。
服って、単なる消費じゃない。
価値観とか、美意識とか、 “何を良いと思うか”を受け渡していくこともあるんだと思う。
そしてぼくはたぶん、これからもずっと、 “現場から生まれた服”に惹かれていくんだろう。