
第211話 お題 「夜風/軒下/長話」
ズズズッ…ズズズズズーーッ!
何枚もティッシュを重ねて、鼻をかむ。
「風邪ひいたのか?」
同僚が声をかけてきた。
「先週、お前と飲んだ後な…」
こうなった経緯を説明し始める。
〜〜
朝から鼻水が止まらない。
そりゃそうだ。この真冬の最中、目が覚めたら、自販機の横で寝てたんだから…
金曜の晩ということで…同僚と少しばかり、酒を過ごしてしまい、フラフラと歩きながら家路についていると、気持ち良い夜風が、酔った顔を冷やしてくれる。
このままだと家に着く前に、酔いが覚めてしまうなあと、酒屋の自販機でビールを買って、そのまま軒下で…
“プシュッ“
と飲み始めた。一口飲んで、”ハァ〜“吐息をついた時、同じように隣で飲んでいる人に気づいた。
その人もだいぶ酔っ払っているようで、ずいぶん真っ赤な顔をして、ワンカップを飲んでいた。
「ずいぶんと酔っているようだの。」
「ええ、明日は休みなので、ちょっと飲み過ぎました。」
酔った勢いというのは、怖いもので、深夜の人通りのない酒屋の軒下。知らない人に話しかけられ、普通に答える。シラフの時なら、あり得ないはずだ。
「久しぶりに都会に出てきたが、何もかも変わり過ぎてまったくわからん。」
「いやいや、ここは都会というほどの街ではないですよ。」
「そうか…」
「どちらからお越しなんですか?」
「ああ、山の方から。」
…農業でもやっているのか?どれくらい久しぶりにやってきたのか、田舎と都会どっちが暮らしやすいか…
…なんで人がこんなに多いのか、やたらクルマが走っていて危なくないのか、どこかしらの電気が必ずついていて、夜なのに暗くなることもないのか…
噛み合っているのかいないのか、よくわからない長話をした。いつの間にか、3本目の缶が足元には並んでいる。4本目をのみながら、話をしていると…
「そろそろワシは山へ帰ろう…」
そう言って、赤ら顔の酔っ払いは…
…下駄を鳴らして、ものすごい速さで消えていった…
それを見て、そのまま気を失った。
〜〜
「で、目が覚めたら、自販機に寄りかかって、ビール缶片手に寝てたってわけ。」
「なんで、気を失ったんだ?どこにも気を失うような話なかっただろ?」
「そ、そう…こ、これからだよ…理由は…」
ズズズッ…ズズズズズーーッ!
再び長〜く鼻をかむ…
「赤ら顔の酔っ払いが、下駄を鳴らした時、見たんだよ…」
「何を?」
「そ、空に駆け上がって消えていくのを…あ、あれ、天狗だよ。お、俺、天狗と酒飲んじゃった。」
「何言ってんだよ、夢だよ夢。酔っ払っただけだろ?」
「ち、違うんだよ。ワンカップの空き瓶も5個並べてあって…」
「お前が…飲める量…じゃないか…」
「そ、そうなんだよ。何よりも、酔っ払って赤ら顔なんだと思ってたけど、赤かったんだよ。顔全部…しかも…」
ズズズッ…ズズズズズーーッ!
再び鼻をかむ。
「…長っ鼻してたんだよ…」